インタビュー・モノ

今、新たな鼓動をもって展開している「東海のものづくり」にスポットを当てて、作り手の想いやこだわりに迫ります。ものづくりの宝庫ともいえる、東海エリア。有名どころから知られざる逸品まで、掘り起こします。


 
おいしいごはんを炊く極意として昔からいわれてきた、「始めちょろちょろ、中ぱっぱ、じゅうじゅうふいたら火を引いて、赤子泣いてもふたとるな」。
蒸らした後、土鍋の蓋を外すと湯気がもくもくと立ち昇り、ごはんの良い香りが漂う。想像するだけでも、こんな風にして炊いたごはんはおいしいに違いない。でもそのためには、土鍋につきっきりで火加減の調節をするという手間暇がつきもの。そんな懸念を払しょくする土鍋が、1,300年の歴史ある伊賀焼産地で生まれた“火加減いらず、吹きこぼれなし”の土鍋「かまどさん」。手がけるのは、創業180余年の伊賀焼窯元「長谷園(ながたにえん)」です。

 

↑「かまどさん」三合炊き。白米三合なら中強火で約13分・蒸らし20分で炊き上がります。
 

“伊賀の土鍋で作った料理はおいしい”と、いわれる秘密

 
「かまどさん」の最大の特長は、冒頭でも紹介した“火加減いらず、吹きこぼれなし”という点。もともとは人の手でされていた火加減を鍋自身にやってもらおうという、今までに例のない画期的なアイデアを実現するため、開発には4年もの歳月がかかりました。
「うちは昔から土鍋を作っていたため、ごはんも土鍋で炊いてきました。そのおいしさを十分に知っていたので、家庭でもっと簡単に作れたら絶対に喜んでもらえると思ったんです」とは、長谷園8代目当主の長谷康弘さん
 

↑ 8代目当主の長谷康弘さん。柔らかい物腰と朗らかな笑顔が印象的です。
 
「昔から“伊賀の土鍋がおいしい”とプロの料理人から定評があるのも、伊賀の土が土鍋に向いているため。400万年前もの昔、この辺りは琵琶湖の湖底だったんです。その琵琶湖層の土を伊賀焼に使っているのですが、当時の微生物や植物がたくさん堆積していて、土鍋の形にして焼き上げると微生物などが燃え尽きて気孔だらけの状態になる。火を与えると気孔が蓄熱材の役割を果たし、食材に均等に熱を伝えることとなり、おいしく仕上がるんです」。
“土鍋に向いている”という伊賀の土を武器に、もともと長谷園で作っていた土鍋の形、構造、厚みすべてを見直す作業に。
 

↑ 長谷さんが歴代の代表的な試作品を見せてくれました。
 
まず、熱の対流をよくするため深さを増し、従来の土鍋より分厚くして蓄熱性をあげるとともに、鍋ぶちを高くしたり蓋を重くしたりし、さらには中蓋を新しく取り入れたり。吹きこぼれにくく、米の芯までグッと熱を通しておいしく炊き上げる工夫が、随所にいっぱい! 何千と試作し、その都度食べておいしさを確認。3食食べても余るため従業員にも持ち帰ってもらうがあまりの量に「もう、よろしいわ」と言われることもあったのだとか。
 

↑ 古い順に左から並べられた、代表的な試作品4つ。形状だけ見ても、随分変わっているのがわかります。
 
試行錯誤で精神的にも金銭的にも苦しい日々が続くうえ、周囲からなかなか認めてもらえないという逆風も。というのも、ボタン1つで簡単にごはんが炊ける電子炊飯器が主流の時代に、誰が土鍋を買ってくれるんだ、と。融資を受けている取引銀行から「お前のところはそんなことしているからダメなんだ」と言われたことも。「悔しかったけれど、絶対に成功させてやる!と思いました。火加減いらずで、土鍋でおいしいごはんが炊けたら、その良さをわかってくれる人は絶対にいるはず、と。もう、執念ですよね」。
 

 
ようやく完成した「かまどさん」。昔の竈(かまど)“おくどさん”を知っている世代にまず伝えたいと、長谷さんは通販会社に取引してもらうため足繁く通い、その魅力を伝え、じわじわと販売をのばしていきます。NHK「きょうの料理」で料理家の有元葉子さんが私物として紹介したことが大きな反響を呼び、ブームに! 今では幅広い世代に愛され、6ヶ月待ち(2018年1月現在)の人気商品に。
 

↑ 人気を裏付けるように、「かまどさん」を使ったレシピ本も多く出版されています。
 
土鍋で炊いたごはんが、どのようにおいしいのか。取材時に食べさせてもらったのですが、一口食べた瞬間まず、「ごはんが甘い!」。そして“冷めてもおいしい”のだそう。「昔はごはんを炊いたらお櫃に入れて保存。お櫃がごはんの水分を程よく吸って、乾いてきたら保湿をして…と呼吸していた。伊賀の土も“呼吸する土”といわれていて、お櫃と同じ作用があり、ほおっておいてもおいしい状態を保ってくれるんです」。ここでもまた、伊賀の土が活躍するのです。
 

↑ ごはんを冷蔵庫で保存する際に便利なのが、写真の「陶珍(とうちん)」\4,500~。伊賀の土で作られ、そのまま電子レンジにかければ炊きたてのようにふっくらと温め直せます。
 
長いトンネルを抜けるような地道な努力を経て誕生し、その実力が認められて土鍋ブームの火付け役ともなった「かまどさん」。その道のりの傍らには常に、長谷さん親子(7代目当主の長谷優磁さんとともに開発)の、“おいしいごはん”しいては食卓を囲む人々への多大な愛情がありました。
後編では、「かまどさん」が作られている工場や、貴重な登り窯をはじめとする長谷園の文化財建築に潜入。また、「かまどさん」の他にも注目高まる商品の数々を紹介します。
 
後編はこちら
 
(写真:西澤智子 文:広瀬良子)
 
 

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