インタビュー・ひと

「こんなことしたらおもしろいかも!」を実現した人、また、東海エリアに新たな息を吹き込んだ立役者となる『仕掛け人』にインタビュー。仕掛け人の存在や想いを知ることで、イベントや場所がよりイキイキと目に映るはず!

三河湾に隣接し海風が心地良い愛知県知多郡。その南部には美しい海を見下ろすように農地や菜の花畑が広がっています。そんな広大な農地にあるのが、犬飼亮さんが代表を務める産直八百屋「yaotomi」の自社農場、yaotomi農園です。
おいしい野菜を届け続けるという信念のもと、日本の農家が抱える後継ぎ問題や耕作放棄地などの様々な問題にアプローチし続ける犬飼さん。その根源にあるのは一本のキュウリによる感動体験でした。自らの感動を一人でも多くの方に届けたいと奔走する犬飼さんのファーマーズキュレーターとしての仕事に密着しました。

 

↑株式会社yaotomi代表 犬飼亮さん

 

↑奥様の孝子さんとの笑顔の絶えない作業風景

 

― 一本のキュウリが今の仕事に繋がっているそうですが?

 

犬飼:10年ほど前に地元のお祭りで屋台を出すことになり、僕たちはキュウリの一本漬けを売ることにしたんです。どうせならおいしいものを売りたい!と考え、知り合いの農家さんから無農薬のキュウリを分けてもらって一本漬けを作りました。その一本漬けがびっくりするくらいおいしくて、野菜ってこんなにもおいしいものなんだと感動。祭り当日、小学生が100円玉を握りしめて「このキュウリおいしい!」と何本も買ってくれたり、一度買った後、家からビニール袋を持って戻ってきて「おいしかったから追加で20本頂戴!」なんて方が一晩で2人いて、飛ぶように売れました。このおいしい感動をもっと多くの人に伝えたいと考え、すぐに軽トラックを購入。祭りの3ヶ月後にはサラリーマンとして仕事をしながら野菜の移動販売を開始しました。

 

↑農園を管理する堀江智哉さんは学生インターンを経て入社。犬飼さんの考えを深く理解しています

 

― 当初はサラリーマンとの2足のわらじだったのですね。今はyaotomiが本業に?

 

犬飼:当時は企業で経理として勤めていました。ある時、テレビ局の方から連絡が入り、サラリーマンとして働きながら移動販売をしている姿を特集していただくことに。サラリーマンとしてネクタイを締めて働いているところも密着することになり、会社の上司に相談したところ「副業なんて認めてない」と怒られました。勤務中の撮影は断念しましたが、当然放送では顔も名前も出ます。これはもうサラリーマンかyaotomiか覚悟を決めるしかないと考えました。移動販売で、自分の仕入れた野菜のおいしさにお客さんが感動してくれることにやりがいが出てきていたので、サラリーマンとしての仕事をやめる決断をして会社に辞表を出しました。そこからyaotomiが本業です。

 

↑農園で栽培中のアイスプラント

 

― 感動が続いていくことがやりがいにつながっていったのですね。八百屋としてだけではなく自社農園を手掛けるようになったきっかけはありますか?

 

犬飼:実は、八百屋を始めてからずっと自分の立ち位置に葛藤がありました。八百屋は生産者から野菜をもらって消費者に届ける中間流通業者です。お客さんに寄り添うか、生産者に寄り添うかでアプローチが変わってきます。誰のために八百屋をやるのか…その立ち位置を考えるうちに、野菜は作る人がいるからこそ消費者に届く。まずは農家さんに寄り添おうという結論に至りました。農家さんのことを理解するためには、もっと畑に行かなければいけないし、野菜作りのことをもっと知らなければいけないと考え、自分達でも野菜を作ることに。yaotomi農園は野菜を売って稼ぐためではなく、農家さんと同じ目線に立って付き合っていくのが目的なんです。

 

↑南知多の土壌はミネラルが豊富なので、濃厚なうまみのある野菜が育ち農業に適しているそうです

 

― なるほど、農家さんをより理解するための農園なのですね。

 

犬飼:私のやりたいことは終始一貫していて、“おいしい野菜を届け続ける”ことです。作ることでもなくて運ぶことでもなくて、届け続ける。そのために必要なことのひとつが野菜づくりであり、また現在問題となっている耕作放棄地を再生して、土を農業のできる状態へと整える活動です。生産者が高齢化していく中で農地の後継者問題は全国で起きていますが、ここ南知多でも深刻。おいしい野菜を作る農家さんの後継ぎがいないことは、私の“おいしい野菜を届け続ける”というマニフェストが根底から揺らぐことになってしまいます。農地というのは1年手入れをしないだけで雑草が生えて、何年もかけて積み重ねてきた土壌が台無しになります。もし次に新たな担い手が現れたとしても、土壌作りからやり直しです。おいしい野菜を作り続けられる仕組みを整えるためにも、耕作放棄地を生み出さないよう土壌を整える活動にも力をいれていきたいです。

 

↑耕作放棄地の土壌の再生に向けて植えられた菜の花

― 最後に今後のビジョンについてお聞かせください。

 

犬飼:放棄耕作地の土壌作りは、自分たちのできる範囲で対応していますが、継続していくためにはお金を稼ぐ事業にしないといけません。そこで始めたのが、耕作放棄地の再生に食用の菜の花を利用する試みです。菜の花を植えて土壌を農業地へと整え、収穫した菜の花の種をオイルやコスメに加工。その収益を放棄耕作地に投資するというサイクルを事業として活性化させていきたいです。
もうひとつ、現在の南知多は担い手に対して農地が多すぎるので、耕作以外に活用していくため、海岸線の農地に開花の早い河津桜を植えたいと考えているんです。菜の花と桜が同時期に見頃を迎えられたら、観光名所になるかなと。「桜プロジェクト」、これから力を入れて取り組んでいきたいです。

 

 

(文:山田 泰三)
 
 

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