“感性を育むまちづくり”への 強い想いが、
中川運河に光を灯す。
【中川運河キャナルアート 藤田正彦さん】

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名古屋港から名古屋市街地まで、全長およそ8kmに渡る中川運河。昭和初期から30年代まで、物流の大動脈としてまちの発展を支えてきました。しかし、自動車の普及により水路の利用は減退。近代都市として進化する名古屋市内で、静かな水面がそのまま取り残されていました。そんな運河に再び光を灯したのが2010年から開催された「中川運河キャナルアート」のアートイベントです。興味本位で訪れた観客も、普段入ることのない運河沿いの倉庫で行われるコンサートやパフォーマンス、また倉庫壁面と水面に映る色とりどりの光のアートや水上ステージにすっかり心を奪われました。このイベントにより人々を魅了する可能性を見い出された中川運河。この先、どんな展開を遂げてゆくのか——?
 
 
ー 藤田さんは現在「中川運河キャナルアート」の理事長をされているんですよね。アートイベントには、どのように携わっていらっしゃっるんですか?
 
藤田:理事長には2016年6月に就任したばかりで、それ以前は副理事長を務めていました。初年度の2010年に、当時の実行委員会メンバーからイベントの広報を担当してほしいとお願いされたのがきっかけで関わり始めました。広報に力を入れ始めると、途端に反響も大きくなり、広報の必要性を感じてもらえたことで翌年から広報部を設置し、その統括として本格的に関わることになりました。
 
ー イベントの舞台に中川運河が選ばれたのはどんな経緯で?
 
藤田:中川運河は、あまり知られていないのですがすごい魅力があるのですよ。そして、これからのナゴヤ(名古屋市を始めとする愛知県近郊)を大きく発展させられるほどのポテンシャルを秘めています。…と、今だから言えますが、実は中川運河のことを最初はそんなに好きではなかったのです。水はきれいじゃないし、人も全然いなくて活気はないし…。私だけでなく、運河周辺で暮らす方々もそういうイメージだと思います。しかし、キャナルアートに関わることで、倉庫や草木が水面に映る壮大な運河の絶景に気づいたのです。中川運河はアートの舞台に適した、本当に素敵な場所なんだということを多くの人に知ってもらうため、イベントを通して魅力を伝えたいという思いが強くなりました。
 

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様々な色で作られたアート作品が投影された運河沿いの倉庫群。水面を利用した幽玄な美しさが話題を呼んだ2011年の中川運河キャナルアート。

 
 
ー 中川運河の魅力について、もう少し詳しくお聞かせください。
 
藤田:これを話し出したら止まらなくなっちゃうかも(笑)というのは冗談ですが。中川運河は総延長8.2km、最大幅91mという大規模な運河で、かつては「東洋一の大運河」と言われていたのです。昭和初期に作られた運河は、当時はナゴヤの物流になくてはならない存在でした。しかし昭和30年以降に自動車が普及して、運河の利用はすっかり減ってしまい、今では一日に数隻しか船の交通はありません。しかしそんな今でも、運河の両岸には企業の倉庫が並び、どこか昭和の懐かしさが残っているのです。この昭和の雰囲気を利用して、映画『泥の河』や『人生劇場』のロケ地にもなったくらいなんですよ。そうかと思えば、名古屋駅方面を見ると水面には反射した高層ビル群も見ることができる。近代都市のすぐ近くに残る昭和といった感じでしょうか。そしてこの広くて穏やかな水面と、そこに写る景色を見ながら散歩すると心も落ち着きますよ。
 

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どこか懐かしい雰囲気が残る中川運河。とくに早朝や日暮れは鏡のような水面に!

 
 
ー 新旧が入り混じる光景、素敵ですね!その魅力を伝えるためのイベント、中川運河キャナルアートですが2015年は開催しなかったんですか?
 
藤田:はい、アートイベントは開催しませんでしたが、様々な活動はしましたよ。岸辺を清掃しながらコスモスの種を植える「コスモスプロジェクト」は毎年続けている活動です。他にもシンポジウムやArt&Partyなど。今、中川運河再生計画が発表され、ささしま、港明、名古屋港、金城ふ頭への水上交通が始まろうとしています。いずれは中川運河と堀川を当時のようにつなげて名古屋城や熱田神宮へ船で行けるかも?という案が持ち上がっています。そのため、キャナルアートはもっと大きなイベントや企画も考えながらまちづくり全体の取り組みへとシフトしているのです。
 
ー 中川運河を中心に行うまちづくり。その思いはどのようなものでしょうか。
 
藤田:私が目指しているのはナゴヤを「感性を育むクリエイティブなまち」にすることなのです。ナゴヤは「ものづくり」に関しては世界に誇れる技術とノウハウを持っていますが、「クリエイティブ」(アートをはじめとする芸術分野)に関してはまだまだ成長できると思っています。クリエイティブの分野をもっと伸ばした上でその2つを融合させることによってナゴヤから世界へ様々なカタチで発信できたら、もっともっとナゴヤが魅力的な都市になり、国内外から訪れる人が増えるのではないかな。そのためには、使われなくなった倉庫がカフェやギャラリー、コンサート会場、アーティストの工房やマーケットになり、ナゴヤの人が乳幼児のときからアートを身近に触れられるようなまちにしたくて。中川運河キャナルアートは活動しています。
 
ー 世界に誇れるナゴヤにするためにも、他にも様々な活動に取り組んでいるんですね。
 
藤田:はい、私はキャナルアート以外にも「みんなのファッションショー」や「デザイン女子No.1決定戦」、「東別院 初鐘×D-K Live デジタル掛け軸」などのイベントを手がけています。東別院の年越しイベントに関しては、クリエイティブ要素を織り込みながら「伝統文化を次世代へ伝えること」と「家族愛を育てること」をテーマにしています。核家族化や少子化が進む現代だからこそ、大みそかに家族や恋人、友人など大切な人とお寺へ参拝する機会をつくり、伝統文化を尊ぶ気持ちを子どもたちに伝えていきたいという思いが詰まっています。
 
ー D-K Live デジタル掛け軸とはどういったものなのでしょう?
 
藤田:デジタル掛け軸は、ランダムに組み合わせたデジタル映像を、複数のプロジェクターで歴史的な建造物や雄大な自然に投射するものです。90秒ごとに徐々に変わる映像を見ながら自分自身と向き合い、思い思いの時間を過ごしていただけるアートだと思っています。この東別院の年越しイベントは2016年の大みそかで4回目、前年は3万人以上の方にご来場いただけました。
 

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大晦日から元旦にかけて行われる東別院のデジタル掛け軸。歴史的建造物と現代アートが見事に融合します。

 
 
ー ものすごい影響力ですね!それだけの人の気持ちを動かすにはかなりのエネルギーが必要だと思うのですが、そのモチベーションになるものはなんでしょうか?
 
藤田:まず、ナゴヤのことが大好きだという気持ちです。大好きなナゴヤを多くの人に好きになってもらい、この魅力を伝えたいという思いです。でもそれだけではなくて、同じ志を持った人と出会えることも私にとっては大きいですね。みんな目指すものは同じで、そのために熱く語り合ったり気力を出し合ったりでき、これらの活動やイベントを通じて出会えた仲間の存在は、人生における財産です。さらに、中川運河キャナルアートが行ってきた活動などがきっかけとなり、行政が本格的に中川運河の再生に乗りだしたことも、やっていてよかったと思えたことの1つです。具体的に名古屋駅から中川運河周辺での街開きが始まってきています。これからが、楽しみですね!
 
 

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藤田さんの一言ひとことから、中川運河や名古屋への情熱が伝わってきました。

 
 
ー だんだんと規模が大きくなれば、世界に誇れるナゴヤも実現できそうですね!そのきっかけとなった中川運河キャナルアート、今後の展開はありますか?
 
藤田:もちろんです!中川運河キャナルアートは既に第二章へ向けて舵を切っています。来年以降に企画している大イベントも実現させたいと思っています。そして、中川運河やキャナルアートの認知度をもっともっと上げることが必要なので、12月には名古屋市交通局が開催する「駅ちかウォーキング」で中川運河を歩いてもらう企画が決まり、「キャナルアート会場」を数カ所おかせていただくことになりました。パフォーマンスやコンサートを楽しみながら飲食ができるので、ウォーキングに参加されない方でもお軽にご来場いただければと思います。
そして、年末には「東別院 初鐘×D-K Live デジタル掛け軸」を開催しますので、ぜひ!ご家族や恋人、友人など、大切な方と一緒にいらしてくださいね。
 
 
 

 

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