イベントやスポットなど、新たなムーブメントの「仕掛け人」にインタビュー。 インタビュー半田市愛知


 
児童文学「ごんぎつね」の作者・新美南吉さん(1913-1943)が生まれ育った半田市にある「新美南吉記念館」。その敷地内には一周約10分の散策路「童話の森」があり、その森こそがまさに新美南吉さんがかつて見ていた景色であり、ごんぎつねの舞台となった聖地ともいえる場所。
 
そんな童話の森を整備し、魅力を広め、未来につなげるプロジェクト「童話の森で。」。「物語が生まれる森。童話の森で、会いましょう。」をコンセプトに2020年秋に立ち上がり、2021年11月には朗読会や野外上映会も開催、童話さながらの世界観が話題に!プロジェクトメンバーのごんのふるさとネットワーク・榊原宏さん、榎本紀久さん、新美南吉記念館館長・遠山光嗣さんにインタビューしました。
 
―― どのようなことが発端となり、「童話の森で。」プロジェクトが始まったのですか?
遠山さん(以下、敬称略):
まず始めにこの場所のことをお話しすると…新美南吉の代表作であるごんぎつね、全国の小学校の教科書に載っていて、これまで通算7000万人以上に読まれてきた児童文学作品ですが、冒頭に『中山というところに小さなお城があって、中山さまというおとのさまがおられたそうです。』とあり、その中山さまというのが戦国時代に岩滑の村を治めていた人で、城が今の童話の森にあったと言われているんです。
 

↑新美南吉のスペシャリスト!新美南吉記念館館長の遠山光嗣さん。

 

―― なるほど、まさにごんぎつねの舞台となったのがこの森なんですね。
遠山:
1994年に新美南吉記念館が開館したのですがその前に建築のデザインコンペが行われ、421点の応募から最優秀に選ばれたのが今の建物。舞台となっている森がせっかく残っているんだからと、森の景観に溶け込むよう、半地下式の設計で屋根の上に芝生を張り、森の緑と屋根の芝生がつながっていくように…と考えられているんです。開館当時は今よりもっと松の木が多く、明るい森だったのですが、いつしか常緑の広葉樹が増えて太陽の光を遮り、暗い雰囲気になってしまって。そこで榊原さんたちが、もっと人が入りたくなる場所にするのはどうか、と言ってくれたんです。

 

↑写真左手に童話の森があり、右手の半地下式の建物が新美南吉記念館。
 
榊原さん(以下、敬称略):半田市で生まれ育った僕にとって、童話の森はまさに聖地のような場所。もっといい場所になるポテンシャルがある…そう思い、童話の森の知識が豊富で、そのほとんどが新美南吉さんの自然眼とともにある大橋秀夫さんを招いて、森の勉強会を始めたのが発端です。大橋さんに話を聞くうちに、森にある植物すべてがごんぎつねの作品につながっていて…ますます興味がわきました。まずは自分たちが知識を深め、どうやったら多くの人にこの魅力を伝えていけるか考えていきました。
 

↑半田市でごんぎつねに関わるプロモーションを手がける、ごんのふるさとネットワークの榊原宏さん。
 

―― 最初はどのような活動をしていったのですか?
榊原:
落ち葉を集めたり、木を切ったり、荒れた竹藪をきれいにしたりと、森に光が入るように整備をしていきました。また、新美南吉さんと同郷で半田市岩滑出身の愛知学院大学准教授・富田啓介さん、森林保護や里山保全、環境デザインなどの研究のほか、キツネの研究で有名な日本福祉大学の教授・博士の福田秀志さんを招いて、権現山など周辺のごんぎつねゆかりの場所についても知識を深めていきました。
 
遠山:ここから見える権現山に今もきつねが暮らしていることも、福田先生の調査でわかっているんです。
 

↑プロジェクトメンバーは10人くらいで始まり、現在は30人ほど。
 
―― 今もごんぎつねの世界が、ここ半田には残っているんですね!
榊原:
童話の森の整備がある程度進んでくると、たくさんの人にこの魅力ある場所を見てもらいたいと思うようになり、今年の11月に朗読会と上映会を開催しました。企画をしたのが榎本さんです。
 

↑イベント企画をメインで担当した、榎本紀久さん(右)。
 
榎本さん(以下、敬称略):僕自身も半田市民で、ごんぎつねはアイデンティティのひとつ。新美南吉記念館はもちろん開館時から知っていたんですが、童話の森にこの活動で初めて足を踏み入れ、ステージと森が織りなす素敵なロケーションに驚きました。改めて童話の森という名前もしっくり腑に落ちました。朗読会は三味線と朗読のユニット「二十六夜の朗読会」さんに。三味線と朗読に、鳥の声や風の音などの調和がすばらしくて。ふと上を見上げると空が広がっていて…物語の世界観がより膨らむようでした。

 

 

 

↑2021年11月13日に行われた「二十六夜の朗読会」の様子。
 
榊原:そして、夜の森でも何かやりたいねと企画したのが、上映会でしたね。
 
榎本:ごんぎつねが原作となったストップモーション・アニメーション「ごん GON,THE LITTLE FOX」という作品があり、プラネタリウムや映画館で上映され、たくさんの賞も受賞したのですが、その作品をつくると聞いたときから、この森で上映したらどんなに素敵かと思っていたんです。物語の世界観さながらに、森の中にランプをつけて。さらに、ちょうど上映会の日が満月で…
 
遠山:ごんぎつねの物語にも月夜のシーンがでてくるんですが、雰囲気がもう、ぴったりで。
 


 

↑2021年11月20日に行われた「ごん GON,THE LITTLE FOX」野外上映会の様子。
 
榊原:イベントでは新美南吉記念館に来たことはあっても、童話の森には初めて入ったという声もありました。森を整備する活動の効果もあって以前より日差しが入るようになり、森の雰囲気が明るくなったこともあり、森を散策する人が増えてきたように感じます。

 

↑童話の森には、ごんぎつねの石碑も。
 


↑ごんぎつねの冒頭で「しだの一ぱいしげった森の中に穴をほって住んでいました」とありますが、草稿では「いささぎの一ぱい繁った」となっており、イササギはこの地域でよく見かけるヒサカキの通称。石碑の脇にもヒサカキの木があります。
 
―― 今後もこのように童話の森でのイベントは考えていらっしゃるんですか?
榊原:
2023年が新美南吉生誕110年という節目の年になるので、それに向けていろんな企画を考えて、楽しみ方を提案していきたいです。
 
遠山:童話の森は小さな森なんだけど、新美南吉が描いた故郷の環境や作品世界を考える出発点になるような場所。多くの人が足を踏み入れて楽しんでくれるようになるとうれしいです。児童文学は、子どもからかつて子どもだった大人まで、接点が幅広い。また、児童文学という側面だけじゃなく、詩や絵、知多半島の自然など、いろんなアプローチで地域のさまざまな世代の人と結び付けられるのが、新美南吉の魅力だと思います。
 
 

 
新美南吉記念館の展示だけでなく、敷地内にある童話の森や、そのほか周辺の自然や山にも今なお息づくごんぎつねの物語。朗読会や野外上映会もとっても素敵で、今後どのような催しが企画されていくのか楽しみです。
 
(文:広瀬良子)

 

 

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