ロングライフデザインをテーマに家具や生活道具を販売する店舗「D&DEPARTMENT」をはじめ、各都道府県の個性を1冊に収録したデザインガイドブック『d design travel』や、47都道府県の魅力を伝えるための「d47食堂」「d47 MUSEUM」「d47 design travel store」をプロデュースしてきたナガオカケンメイさん。
さまざまな切り口で全国の魅力を発信してきたナガオカさんが、「D&DEPARTMENT」の新形態「d news」の国内1号店を自身のふるさと・愛知県阿久比町にオープンしようと動いています。阿久比町での活動や、「d news AICHI AGUI」に込めた思いについてお話を聞きました。
― 「D&DEPARTMENT」を運営してきた中で、なぜ国内で新しく「d news」を立ち上げようと思ったんですか?
ナガオカ:「D&DEPARTMENT」は2000年にスタートしましたが、20年運営する中で、Webストアで買い物をする人が増え、人々の消費行動にも大きな変化がありました。これまでは広いスペースに路面店を構えたり、東京の「渋谷ヒカリエ」など、大型複合施設の一部に「D&DEPARTMENT」の拠点を展開することもあったのですが、これからの店舗の在り方を考えたときに、地域に根付いた小さな店舗の方がよりその土地らしさを伝えられると思い、それを実現する「d news」を立ち上げ、国内1号店を自分のふるさとである阿久比町に作りたいと思ったんです。
― 「その土地に作るからこそ、その土地らしさを伝えられる」ということでしょうか。
ナガオカ:そうですね。地方ほど、都会の流行を追ってどんどん新しいものを取り入れる傾向にあります。これは新しいものに触れられるという良い点がある一方、“その土地らしさ”が失われてしまう懸念もあるんです。だからこそ、地元の人にとっては当たり前なその土地の個性を残していくために、外からの新しい視点でその土地を見つめ、魅力を再発見・再発信していく必要があると考えています。
― 「d news AICHI AGUI」を通して、阿久比町でどのような活動をしていく予定ですか?
ナガオカ:私がこれまで提唱してきた“もうひとつのデザイン”を阿久比町で試してみたいです。モノが溢れている現代で新しい商品を生み出すのではなく、すでにあって埋もれているものの中から、アプローチを変えれば売れるような商品を見つけ出し、新しく名前を付けたり、見せ方を変えたりすることを“もうひとつのデザイン”と呼んでいます。
ナガオカ:「d news AICHI AGUI 」がオープンできたら、年間100日ほど阿久比町に住み、地元の特産品や昔からあるメーカーの商品など、阿久比町の魅力をより近い距離で探り、「d news AICHI AGUI 」で展示しようと考えています。阿久比町に住んでいる人に地元の話を聞くと「何もない」と言う人が多いんですが、“もうひとつのデザイン”で阿久比町で何ができるか、私自身楽しみなんです。
― 魅力を再構築するという意味の“もうひとつのデザイン”なんですね。30年ぶりに阿久比町を訪れて、感じた良さについて聞かせてください。
ナガオカ:東京との違いは、「手が加えられていない良さ」だと思います。阿久比町には余計に手が加えられているものが少ないと改めて感じました。丸一酒造が製造している日本酒「ほしいずみ」は全国新酒鑑評会金賞を9年連続受賞するほど優れた地酒です。これらのように優れたモノがありながら、阿久比町ではそれを大きく販促しようという動きはほとんどありません。そんな開拓の余地がある場所で、地元の魅力を再構築することが、東京で“もうひとつのデザイン”をやってきた私の使命だと感じています。
― なるほど、東京で活動していたナガオカさんだからこそ気づける阿久比町の良さですね。現段階で感じている課題はありますか?
ナガオカ:さまざまな魅力がある一方、地元の人が阿久比町の魅力に目を向けていないのがもったいないな、と。地元の人が阿久比町の魅力に目を向け、楽しめるよう、活動を通じて「阿久比町の文化度を2度上げる」ことをスローガンに掲げています。
― 「文化度を2度上げる」とは?
ナガオカ:私が考える文化とは、「少しだけ暮らしを豊かにすること」です。暮らしの中で器にこだわって食事を楽しんだり、丁寧にお茶を淹れる時間をつくってみたり。その積み重ねが文化を構築していく。そんな風に、「d news AICHI AGUI 」の活動を通じて阿久比町がすでに持っている個性を浸透させていくことで文化が積み重なっていくのではないかと期待しています。たとえば、植物が根付くのにその植物にあった土壌が必要なように、阿久比町ならではの方法を模索していくことで、もともとある文化をさらに発展させられると思うんです。
― 私たちの暮らしのちょっとした変化が、文化となるんですね!
ナガオカ:また、“もうひとつのデザイン”で大切にしているのが、作り手側からの発信だけでなく、地元の人から興味を持って近寄ってきてくれるようなプロデュース方法です。「文化度を2度上げる」のうち、1度は私たち「d news」の運営側で種をまき、もう1度は「d news AICHI AGUI 」に足を運んでくれた地元の人が醸成する。そんな両想いの活動にしていきたいんです。
― 阿久比町の「文化度を2度上げる」ために、具体的にはどのような活動を行っていますか?
ナガオカ:種まきの一つとして、現在はクラウドファンディングに挑戦しています。(12月25日終了)私たちの思いに共感してくれる人に「d news」の成長過程を見守ってもらうことで、「d news」が地元の人だけでなく、より多くの人と喜びやワクワクを共感できる場になるのではないかと考えています。クラウドファンディングで生まれたこの緩やかなつながりがきっかけとなり、これまでにはないコミュニケーションが生まれ、阿久比町の文化度が上がっていったらいいなと思います。
▼クラウドファンディングの詳細はこちら
https://readyfor.jp/projects/dnews_aichi
↑機屋さんの元工場をリノベーションして「d news AICHI AGUI」をオープン。少しずつ片付けを進め、これからお店の内装を作っていくそう。
― 阿久比町でイベントも開催されているんですよね?
ナガオカ:テキスタイルデザイナーの皆川明さんなど、私が東京で培った人脈を生かして著名な方を阿久比町に招き、トークイベントを開催しています。こういった機会が刺激となり「それならイベントで地元のいいものを振る舞おう!」など、阿久比町の人たちの気持ちにも変化が起こっているようです。このようなイベントを3~4年のスパンで続けていきたい。イベントを継続して開催することも、文化のひとつの種になると思っています。
― 一方的にではなく、地元と一体になることを大切にされているんですね。最後に、「d news」の今後の展望を聞かせてください。
ナガオカ:今回、ふるさととして愛着がある阿久比町に国内1号店として「d news」を立ち上げるべく動いています。これは“もうひとつのデザイン”の実験であり、私にとっても大きなチャレンジです。阿久比町の文化を成熟させ、その土地ならではの個性を根付かせる。阿久比町を基盤とし、ゆくゆくは「d news」のムーブメントを全国に広げ、全国各地の“その土地らしさ”を再構築していきたいです。
ナガオカケンメイさんが阿久比町で開催したイベント「d NEWS AICHI TALK.1」の様子。ゲストは建築家の長坂常さん。
(文:岩井美穂)