まるで知多の発酵文化!? カオスな魅力を醸す「知多前」ブランド 【知多前プロジェクト 伊藤悦子さん】インタビュー


 
アナゴや赤車海老、落花生、知多豚…知多半島は海の幸、山の幸に恵まれた地域です。愛知県常滑市の「やきもの散歩道」でカフェギャラリー「常滑屋」を営んできた伊藤悦子さんは町おこしブームの今、地域の食材やものづくりの魅力を一番知っている地元住民でこそ起こせるムーブメントがあるのではと考えました。
そこで立ち上げたのが「知多前」ブランド。地元産の商品に「知多前」のロゴをつけ、観光客向けに広くPRすることに。ブランディングに至った経緯や、今後の展開予定についてお話を伺いました。
 

 

↑ 知多半島5市5町を象徴する輪を組み合わせて「相乗効果」を生み出しているようにデザインされた「知多前」のロゴマーク。「常滑屋」の入り口にのぼり旗を掲げて、ブランドをPRしています。
 
―「知多前」というネーミングは「江戸前」のようで、誇りと地域愛を感じますね。
 
伊藤:そうですよね。知多半島産の具材を使った「知多前すし」を知多前ブランドの第1号として認定し、これから国内の観光客はもちろん、海外からのお客様に向けても広くPRしていきたいと考えています。
 

 

↑ 常滑市の寿司店「寿司の辰巳」で提供されている箱寿司も「知多前すし」認定を受けた。地元でとれた赤車海老を使ったおぼろ、あなご、知多牛のしぐれなど、彩りが豊か。元々はお祭りの日に来客をもてなすために地元でつくられてきた家庭料理なのだそう。
 
―中部国際空港に近く、伝統の常滑焼が見学できる常滑市では、訪日外国人観光客が増えていますよね。昔の常滑と、今とでは、街の雰囲気はどう変わりましたか?
 
伊藤:私は名古屋出身で、常滑に嫁いできました。35年くらい前の常滑は「働く人のまち」と言いましょうか。男性は窯元で力仕事、女性はお化粧もせずにものづくりの現場を手伝い、手にはハンドバッグではなく買い物かごを持っていました。20時を過ぎればみんな寝静まり、今のようににぎやかで観光のために足を運ぶ場所とはとても言えないまちでした。
そんな環境で、私は恵まれていたのか、姑に地元の郷土料理である箱寿司を習ったり、義理の姉が郷土史が好きで勉強をしていたので、この土地の風土や歴史を伝え聞く機会がありました。
 
―そうだったんですね。身内の方から地元の魅力を教えてもらううちに、何か発信したいという気持ちになり「常滑屋」をオープンされたと。
 
伊藤:はい。「常滑屋」は土管工場の跡地を利用して23年前にカフェとしてオープンしました。でも、接客は全くの素人で、開店当初は「頭の下げ方もわかっていない」なんて言われたこともありました。その時、プロじゃないから、私たちは精一杯おもてなしするしかないと思いましたね。
 
―“よそ者で素人”だから武器がないと嘆くのではなく、おもてなしを武器にしていかれたんですね。
 
伊藤:私、素人が一番世の中を見ていると思うんです。何も知らないから聞く耳を持つ、広い視野を持つ。そして、たくさんの情報を仕入れようと努力する。かっこいい流儀は語れないかもしれないけど、心を込めてそうしたことを続けることで自然とおもてなしができるようになるんだと思います。
「常滑屋」はその後、カフェだけでなく地元の常滑焼や知多木綿の若手作家がつくる作品を集めたギャラリーやイベントを始めました。作家たちも、「常滑屋」も、1人ひとりが自分に何ができるだろうと心を込めて一生懸命考え、そのアイデアが集まったからこそ動きに幅が広がったのではないかと思います。
 

 
―地元の人たちの小さな情熱が集まって「常滑屋」を支えてきたんですね。店内の装飾品や物販しているものからも知多のエネルギーを感じますね。
 
伊藤:ありがとうございます。食事をするテーブルには知多の酒蔵からいただいた酒樽を使っていますし、器はすべて常滑焼。料理に使うのも地魚や地元の農産物です。お客様がここに来て常滑の面白さを発見し、周辺を散策するきっかけになればと思っています。
 

 

 

 
―今後、「知多前すし」に限らず「知多前」ブランドを増やしていくということですが、いろんな名物がカオスの状態にあるのは「常滑屋」の雰囲気に似ている気がします。
 
伊藤:なんとなく、発酵しているような(笑)。知多は酒や酢など発酵文化が根付いたまちですから、発酵のメカニズムになぞらえて、いろんな名物の相乗効果でまちが盛り上がるといいですよね。私たちはブランディングの中心にいながら、これからも「素人感覚」を無くしてはいけないと思っています。背伸びしないで自分たちにできることを一生懸命やる。そして、ちょっと引いてまちを見て、「知多前」としてふさわしい商品を掘り起こし、PRしていこうと思います。
 
―若い世代もアンティークや歴史に興味を持つ時代ですが、そうした層へのアプローチも考えていますか?
 
伊藤:はい。地元の若い作家や農家、漁師たちがつくった商品もブランド認定して若いお客様の興味を引いていきたいですし、年上も年下も関係なしに木を登り合うようなイメージで、つくり手同士もお互いに刺激し合っていけたらと思います。
また、「知多前すし」に認定された寿司のひとつである箱寿司は、元々は家庭料理としてどの家でもつくられていました。でも、今の若い世帯には浸透していないようです。「寿司の辰巳」さんは、知多エリアの保育園を巡回して箱寿司づくりのワークショップをやったらどうかと提案してくれました。箱寿司は使う具材次第で見栄えが変わり、絵を描くような楽しさがあるので子どもにも受け入れられやすいでしょうし、それを見た親世代も一緒になって楽しんでほしい。好奇心の連鎖を生みたいと思います。
 

 
 

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