“面白い”をキーワードに、歌舞伎を現代風にアレンジ。【ハラプロジェクト 原智彦さん】インタビュー

舞台芸術に携わって以来、40年に渡り“聴覚”と“視覚”を軸にした「面白い舞台」を国内外で発信している原智彦さん。自身の主宰する「ハラプロジェクト」では、三味線や鼓に代わりパンクバンドの音楽を取り入れた「パンク歌舞伎」やシェイクスピア作品に現代風アレンジを加えた新たな手法で“面白さ”を追求した作品を多く生み出し続けています。
2017年からは、豊田市に伝わる農村舞台を使った伝統的な歌舞伎の復活上演に力を入れ、2019年7月7日(日)には豊田市足助地区にある農村舞台「寳榮座」(ほうえいざ)で歌舞伎の公演も行われます。今回は、そんな新旧多様な歌舞伎の魅力を伝える原さんにインタビューを行いました。

 


↑ハラプロジェクトの公演は神社の境内でも行われる

 

もくじ

― 現在のハラプロジェクトには、前身となる「スーパー一座」というグループがあったと聞いています。どのような活動をされていたのですか?

 

原:スーパー一座を結成したのは今からちょうど40年前の1979年でした。演出家の岩田信市さんとともに活動していて、岩田さんが脚本と演出、私が座長として役者を束ねていました。言うなれば、彼が頭脳で私が身体を動かす骨や筋肉となり、2人を両輪として活動を行っていたんです。
当時から「面白いものをやろう」という目標を持っていて、その中で出来上がった作品が西洋発のロックの音楽に乗せて日本伝統の歌舞伎を演じる「ロック歌舞伎」。“奇抜なこと”がやりたかったわけではないのですが、“面白さ”を追求していった結果、奇抜とも言える組み合わせにたどりつきました。
そのロック歌舞伎は、ハラプロジェクトとなった今でも「パンク歌舞伎」としてますますパワーアップしています。現在は愛知県を中心に活躍するバンド「TURTLE ISLAND」などの演奏とともに、シェイクスピア作品や「天守物語」などの題材で公演を行っています。

 


↑パンク歌舞伎を演じる舞台の右奥には、生演奏するバンドが見える(撮影:安野亨)

 

― ヨーロッパ公演!世界でも活動されていたんですね。舞台では台詞は英語に置き換えられていたのですか?

 

原:いえ、日本での公演と同じくすべて日本語でした。私は“聴覚”と“視覚”が舞台で最も重要だと考えています。口調などの“聴覚”と、演者の動き“視覚”次第で、言葉が伝わらないイギリスでも面白さを伝えることができる。ヨーロッパでの公演はそれを実証できたひとつの事例だと思います。やはり、言葉で伝えられないものほど、伝えようとすることが楽しいですね。そこでの思いが、今の舞台づくりにもつながっています。

 

― “聴覚”と“視覚”ですか。他にも大切にされているものはありますか?

 

原:“失敗”も面白さのカギだと思っています。実際、“失敗”って面白くないですか?稽古中なんかじゃ、誰かが面白い失敗すると周囲が笑ってくれるじゃないですか。そんな面白いものを無くすなんてもったいない。「失敗は成功のもと」じゃないですが、私はそういった演技を積極的に採用します。また全体的な演出でも、私自身は役者に演技の選択肢を提示して、役者本人が「より面白い」と思うほうを選んでもらうようにしています。自分が心から「面白い!」と思えることをするからこそ、見ている人にも面白さが伝わるはずですから。ですので、もともと最初に“完成形”を想定しないで舞台を構成していくように心がけています。本番直前になるまで明確な“完成形”が見えないおかげで、周囲に少しだけ心配させることもたまにありますが(笑)


↑舞台の成功に向けて練習に励むハラプロジェクトの役者たち

 

― 演者の自主性を尊重されているんですね。足助の中学生にも歌舞伎を教えたと聞きましたが、同じような指導をされているのですか?

 

原:子どもには歌舞伎自体を「楽しい!」と思ってもらいたいですね。30年ほど前に、江戸時代に書かれた地元・足助の英雄を描いた歌舞伎の脚本が発見されました。それを子どもたちに演じてもらいました。

 

― 2000年頃まで、寶榮座で定期的に公演もされていたと伺いました。

 

原:もともとスーパー一座時代に存在した「スーパー一座演劇研究所」の卒業公演として、古典スタイルの歌舞伎を足助に現存する寳榮座で行っていました。かつての三河地方では歌舞伎は農民自身が演じるものでしたが、高度成長時代以降は都市部への人口の流出が止まらず“かつて”を知る人もごくわずかとなっていました。私たちはそんな「農民たちの歌舞伎」という文化や、江戸時代から変わらない村の田畑の景色など、たくさんの“キレイな宝物”を守り、同様に「“宝物”を守りたい」と思ってくれる新たな世代へのバトンの受け渡しをお手伝いしています。子どもたちへの歌舞伎の指導や今年7月に寶榮座で行う「七夕歌舞伎」もその一環にあたりますね。

 


↑豊田や大須など、愛知県内各所で“面白い”公演を行い、観客を魅了する

 

― 7月7日の七夕歌舞伎に向けての取組みや見どころについてお教えください。

 

原:演目は「スーパーコミック歌舞伎 鈴ヶ森」と「舞踏劇 鬼の月」の2つです。
鈴ヶ森というのはいわゆる“古典”の歌舞伎にも存在する演目。江戸時代の刑場で知られる鈴ヶ森を舞台に、主人公・権八が暗闇の中で盗賊相手に大立ち回りを演じます。今回の鈴ヶ森には、もともと古典から“最も面白い”とされる立ち回りがあり、それを取り入れた舞台になります。さらには現代風のアレンジも加え、現代の人たちにもしっかりと面白さが伝わる作品に仕上げました。過去の時代を描く中に現代のネタが入ることで、滑稽さが強調されて面白くなるのです。みなさんも大いに笑ってくれるでしょう。

 

― 時代のギャップが面白さの秘訣なんですね。鬼の月はいかがですか?

 

原:鬼の月のほうは、奥州を舞台とした昔話をもとに作られた能・歌舞伎の演目「黒塚」をベースに、私が台本を書いた作品です。山伏の一行が鬼に出会うという暗めの題材を、“面白く見られる”芝居に再構成しています。人の心の中には、鬼もいれば仏もいる。人の二面性のオモシロさが見どころです。
今回の公演ではハラプロジェクトの役者だけでなく、地元に住む60代70代の“昔の足助を知る”方々も出演します。足助が誇る伝統の文化と農村舞台を、どうぞ楽しみにしていてください。

 

(文:西 等)

 

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