書店員の愛書バトン。Vol.18『おいしそうな料理がたくさん!食欲の秋におすすめの小説・エッセイ』5冊


「心・食・旅」に関わる本を3000冊ほど並べる伊勢市本町の新刊書店「本屋・散策舎」。実店舗としてこれまで土日の午後のみの営業のほか、マルシェにも出店し、本好きの間でその選書センスが評判に。2021年7月11日には、実店舗の「本屋・散策舎 伊勢店」がリニューアルオープン。書架スペースを広くするなど内装が一新、平日の営業もスタートしました。
 
書店員の愛書バトン連載18回目となる今回は、食欲の秋にピッタリの「おいしそうな料理」が登場する小説やエッセイを紹介。「食」に関する本に造詣の深い散策舎の店主・加藤優さんに、おすすめの5冊を選んでいただきました。
 
▼もくじ
01『九つの、物語』
02『たべるたのしみ』
03『さんかく』
04『cook』
05『リスのたんじょうび』
 

 

もくじ

『九つの、物語』
著:橋本紡(集英社)

 

 

読むことも食べることも、日々を確かに歩いていくために欠かせないものだと思います。題名のとおり9つの章からなるこのお話は、大学生の主人公・ゆきなのもとに2年前に死んだはずの兄が戻ってくるところから始まります。
 
突然の出来事を少しずつ受け入れ、兄の本棚に遺された近代文学の名作を読んだり、料理好きな兄がつくってくれる皮から手づくりした小籠包やひと瓶700円もするサフランを使ったパエリア、洋風炒飯を詰めたローストチキンなど至極の料理を食べたりすることで、ゆきなは悲しみの先にある恋と日常を見つけていき……。大切な人の日々の幸せを願う気持ちがあふれる、切なくも優しい物語です。
 
 

『たべるたのしみ』
著:甲斐みのり(mille books)

 

 
おいしいものを、おいしくたべたい。文筆家として活躍する甲斐みのりさんがこれまでに出会った数々のおいしい味への、愛にあふれたエッセイ集です。子どものころの食卓の思い出、旅先で見つけたその土地のごはん、贈り物にしたいお菓子の箱や包み紙…。
 
読むだけでどの味もなんとなく懐かしく温かく感じられるのはなぜでしょう。それは、おいしいものを食べたときの楽しさが思い出と一緒になり、いつまでもキラキラと輝くものだからだと私は思います。いつかのおいしい味を少しずつお裾分けしてくれる、特別なお菓子の詰め合わせのような一冊です。
 
 

『さんかく』
著:千早茜(祥伝社)

 

 

それぞれに不器用で居場所も見えているところも違う、三角関係未満な3人。恋や生活や仕事よりも、食の趣味が合う人との出会いから始まってしまう物語が、各篇ごとのタイトルでもある「塩むすび」「三色弁当」「ぶどうパン」など数々のおいしそうなごはんと絡み合いながら進んでいきます。
 
恋も料理も、楽しさを分かち合えるときもあれば寂しさを埋めてくれるときもある、そんな共通点があります。それがたとえ自分や誰かにとって「めでたしめでたし」な結末にはならないとしても、誰かのためにごはんをつくったり、一緒においしいものを食べる人がいるのは、やっぱり幸せなことだなぁと思います。
 
 

『cook』
著:坂口恭平(晶文社)

 

 

文筆家や建築家、アーティストなど多彩な表現活動を行う坂口恭平さんが躁うつ病と向き合ううち、やってみようと思い立った料理づくり。つくったものを写真におさめノートに書きとめた、坂口さんのひと月分の日記がそのまま一冊の本になりました。
 
毎日のように料理を続けることで、日常をゆっくりと取り戻していった坂口さんは、「料理することは生きること」だと語っています。写真に感想や当時の気持ち、朝昼晩のごはんの予定が鉛筆書きで記されただけのこの本。cookと題されつつ、レシピは載っていない不思議な本。これをエッセイと呼ぶ人も、料理日記という人もさまざまですが、次の日、またその次の日と、飽きずにページをめくりたくなる魅力にあふれる本です。
 
 

『リスのたんじょうび』
著:トーン・テレヘン(偕成社)

 

 

オランダの国民的作家による短編集。忘れっぽいリスは自分の誕生日パーティーに、森や海のいろんな生きものたちをご招待。みんな来てくれるかな、楽しんでくれるかな。どきどき、ウキウキしながらも、お祝いに来てくれるみんなのために、リスはひとつずつ特別なケーキを用意します。クマにははちみつたっぷりの甘いケーキ、トンボには水のケーキ、カバにはなんと草のケーキ!どのケーキも招くゲストのことを考え抜いたケーキばかりです。そして迎えた誕生日にリスは……。
 
ちょっと不安でくすぐったくも、うれしくて温かくもなる、お祝いの日の気持ちがつまった表題作「リスのたんじょうび」ほか、パーティーをテーマにした8つの物語を収録。どのお話も、メルヘンな料理の描写はもちろん、誰かと一緒の時間を過ごすことの喜びに満ちています。
 
 
「意外な発見や偶然の出会いがたくさん生まれる本屋」を目指していると語る加藤さん。ゆっくり本が選べるよう、リニューアル後はオリジナルブレンドのコーヒーや紅茶が楽しめる喫茶コーナーも新設。「食」のジャンルでも、エッセイや小説だけでなく食育絵本や飲食風習にまつわる民俗学など、多種多様な本が並びます。もちろん、心と旅に関する本も同様。メジャーな作家の作品ではないけれど、“ここでしか出会えない”運命の一冊に出会えるかも。
 

 

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