いつもと同じことにふれても、専門家と一緒だと、自分だけではわからなかったことに出合えるのではないか?
そんな思いから始まった、しょく育の「専門家と行く」企画。第1弾は、建築家と名古屋駅周辺を巡り、建物について教えてもらいます。
そもそも建築家ってどんな仕事をしている人なのでしょうか。今回、一緒にめぐってもらうのは、一級建築士の資格を持つ建築家が所属する公益社団法人日本建築家協会 東海支部 愛知地域会の方々です。
その一人、黒野有一郎さんによれば「建築家の仕事は、建物を建てることだけではありません。商店街の空き店舗対策や、アートイベントの会場準備など、まちの活性化の際に建物の専門家として建築家が加わることで、それらがさらに良くなるはず!」とのこと。今回はまち歩きですが、何やら自分たちでは見つけられない気づきがありそうです。
最初に向かったのは「大名古屋ビルヂング」
2015年10月31日に竣工した大名古屋ビルヂングですが、その前身の旧大名古屋ビルヂングが完成したのは1965年。名古屋駅前のランドマークとして長年にわたり存在感を放っていました。まず気になるのは名称に入っている“ヂ”の文字。これは建築主の意向らしいのですが、新しいビルにも同じく“ヂ”の文字が使われたのは、「名古屋の人々が慣れ親しんでいたから」だとか。長年、名古屋に暮らす私にとっては、たしかに“ヂ”の方が落ち着きます。
旧ビルのものが残っているのは名前だけではありません。そのひとつが、1階と地下2階に残された「ビル名のプレート」です。同じく愛知地域会に所属する建築家の上原徹也さんによれば「ビルの建て替えによって変わるはずだった住所を、このプレートを使いたいがために名古屋市に相談して、住所をそのままにしてもらった」そう。そこまでの思いが、このプレートに込められていたとは。いきなりの驚きです。
続いてビルの中を案内してもらいます。12階にあるTOTOプレゼンテーションルーム(※)からは、名古屋駅前のモニュメント「飛翔」が一望。見下ろして撮影するのに、こんな絶好のスポットがあるなんて!
※普段は入れません。13階のTOTOショールームは入れます。
5階にあるスカイガーデンは、一般の人が誰でも入れる穴場スポット。「これは根っこをイメージしたベンチです」と上原徹也さん。ん?根っこ?
その秘密は、大名古屋ビルヂングの設計コンセプト「駅前空間にうるおいをあたえる緑の丘に立つ大樹」。大樹の根っこだったのですね!
見上げると、外壁の縦フィンが。これは窓から入る日射を遮る役割のものですが、あえてランダムに配置することで大樹の枝葉を表現したそうです。
続いてビル内に。天井に配されたライトは木漏れ日や果実がモチーフ!細かいところにも大樹のコンセプトが息づいています。
ガラスの紋様を手がけたのは、東京オリンピックの公式エンブレムをデザインした野老朝雄さん。「隣のビルの目隠しとしても機能させている」そう。そんな裏話も興味深いです。
旧ビルにあったモザイク壁画は、1階の車寄せに残されています。「新しい建築物をつくるとき、前の建物をなかったものにするのではなく、良きDNAを継承することで、単なる建物ではなく、街にとって欠かせない存在のものになる」と黒野有一郎さん。ふむふむ、勉強になります。ほかにも、大樹をモチーフにしたデザインがたくさん散りばめられているのだとか。また次回に探してみるとしましょう!
続いて、名古屋駅南にある「スパイラルタワーズ」へ
スパイラルタワーズは、正式名称をモード学園スパイラルタワーズと言い、3つの学校を一つの校舎にして建設されたことからビル名の最後に複数形の“ズ”がついているそう。印象的なのはやはり、“スパイラル”な形状。ねじれながら上空に向かっていく姿は壮観です。このスパイラルは、「学生が創造力をかき立てられるデザインを」という要望に対して建築家が考えたものなのだとか。大胆すぎる発想ですね!
学校名が書かれたラッパのような造形物は、実は看板ではなく給気塔。普通の形では面白くないからと、機能性を保ちながらも芸術作品に仕上げたそうです。
「外壁の三角形のガラス7,145枚は、形が全部違うんです」と上原徹也さん。何度も目にしていたビルに、そんな工夫があったとは…!
続いて屋内へ。エレベーターホールの外壁にある膨大な数字の羅列は、黄金比の値。その数字から階数の文字を目立たせるデザイン。刺激されるのは外観だけではありません。
※屋内へは普段は学生以外は入れません。
おっとここで、スパイラルの先端を発見!なんとも貴重な光景です。
ちなみにこちらは、ビルの壁面を清掃する機械。実は世界に数台しかないものだとか。
普段は見られない最上階の展望ラウンジから見た景色は絶景です!!
モード学園スパイラルタワーズについて、愛知地域会に所属する建築家の森哲哉さんによると「最先端のコンピュータ技術と、技術者・職人の技が結集してできた形状。何十年か後にはコンピュータ技術は進んでいるだろうが、作り手が技を伝承していけなければ建てられなくなります」とのこと。
「建築に携わる人材を育てることも大切で、そのためには、技術の粋をつくすような建築がなければならない」と言います。建築の現状や将来への思いまで話は尽きません。
最後に写真映えスポットとして紹介してもらった、地下1階から見上げた一枚。
普段から目にしている建物ですが、細部へのこだわりや裏話、オススメの写真スポットなど専門家ならではの話を聞くことで、建築物にも建築家にも興味が深まりました!
公益社団法人日本建築家協会 東海支部 愛知地域会が発行している、愛知の建築家の“しごと”紹介マガジン「建築家+」(2018年1月創刊)にも、名駅エリアの建築や、建築家の仕事ぶりや想いなどが特集されています。冊子は下記住所でもらえますよ!
日本建築家協会 東海支部 愛知地域会 事務局
名古屋市中区栄4-3-26 昭和ビル5F
月~金曜日 午前9時30分~午後5時30分
TEL : 052-263-4636
※不在時もあるので、事前に電話してから行くのがおすすめです。
取材協力/公益社団法人日本建築家協会 東海支部 愛知地域会、建築家+、大ナゴヤ大学
(文:広瀬達也)