「医療的ケア児」とは、人工呼吸器による呼吸管理や痰の吸引などの医療的ケアが必要な子どものこと。医療技術の発達により難病や障がいのある子どもの命が救われる一方で、病院を退院した後に、家庭で医療的ケアが必要な子どもの数は増えています。。
名古屋市で2021年7月に一般社団法人医療的ケアPPS.lab(ぱぱすラボ)を設立した飯村紫帆さんも、家庭で医療的ケア児を育てるママのひとり。ケアのため24時間気が抜けず、外出先でも精神をすり減らすことの多い生活のなか、同じ悩みを抱える仲間たちの気持ちを少しでも明るく、そして過ごしやすい世の中となるように……そんな思いで奔走する飯村さんに話を伺いました。
―― 医療的ケア児の娘さんが生まれて、こういった活動を?
飯村さん(以下、敬称略):2018年8月に生まれた娘が世界的にも稀なケースの症状で、医師から予後不明と言われて。私自身、生きた心地がしない日々を送り、夫や家族以外に娘のことを話す人もいないなか、産後2か月でブログを始めました。そこで、症状は違えど、同じ医療的ケア児を育てるママたちがコメントをしてくれて、つながりを持つように。私もブログでは暗いより明るい方がいい、となるべく前向きな発信をしていて、それにみんなが「明るい気持ちになれた」と言ってくださったり、私もみんなそれぞれ大変ななか頑張っているなと元気をもらいました。
―― ブログがきっかけで、明るさや辛さ、悩みを共有できる仲間が増えていったんですね。
飯村:それで、2020年7月に「スペシャル子育て親の会 ぱぱすの木(Passion Powerful Smile)」を発足。メンバーが住んでいるエリアもさまざまだし、コロナ禍ということもあってオンラインでの活動がメインですが、10月に一度だけ、仮装して東山動物園で集まりました。
―― それは子どもたちにとっても楽しい機会になりましたね!オンラインでの活動はどんなことを?
飯村:懇親会を行って近況を話したり、落ち込んでいる人がいれば、辛い気持ちを吐き出してもらったり。私の場合は娘が気管切開していて、喉に痰がたまるとチューブで吸引しないといけないのですが、体調を崩しているときは夜中も5分おきくらいに吸引するときもあって。みんな同じようにそれぞれ大変な状況があって、「ほぼ1週間ゆっくり寝られていない…」なんて愚痴を言ったりも。
―― 聞いてもらう場所があるだけでも、気持ちが少し救われそうです。
飯村:そうなんです。そのほか、みんなの写真をコラージュして成長記録としてアルバムをつくったり、専門家の先生を探して、離乳食講習会を開いたりもしました。
―― 2021年に一般社団法人を設立したのには、理由があるんですか?
飯村:より企業にアプローチしやすくするためです。親の会だと門前払いされてしまうことが多くて…。
ーー 企業にはどんなアプローチを?
飯村:気管切開していると首に巻くバンドが必要なのですが、バンドとしては売っていないので、布を買ってきて手作りするんです。また、胃ろうをしていると、プラスチック器具と皮膚の間に挟む布(胃ろうパッド)が必要なのですが、それもみんな手作り。そこで、少しでも気分が盛り上がれば…と、子ども服メーカーに交渉して製造で余った布を購入できるようにしたいと思ったのですが、だめでした。
―― そうだったんですね。ほかにもありますか?
飯村:いろいろ打診しても話も聞いてもらえないことが多かったのですが、とある車メーカーが、災害時に電気自動車を派遣できるようなアプリを開発しているという話を耳にして。気管切開や人工呼吸器をつけている子どもには停電が命とりになってしまうので、何かつながりが持てないか…とアプローチしました。それは、一般社団法人を設立してからなのですが、初めて協議を重ねてもらうに至ったんです。結局は形にならなかったのですが、協議を重ねてもらえただけでも、大きな第一歩でした!
飯村:また、使わなくなった医療ケア用品を回収するボックスの設置を医科大学病院にお願いしているところです。密閉で殺菌消毒されているので使えるものなのですが、医療ケア用品って、自分の子どもが使わなくなったからといって、それが必要なお友達にあげるのは心苦しく、捨ててしまっている人も多い。家庭で使わなくなったものを外来のついでにボックスに入れてもらえたら、災害時に活用できるんじゃないかな、と。
―― なるほど、そういった細かな、でもたしかに存在するニーズを何とかできないかと、働きかけをされているんですね。まだ幼い娘さんを育てながら…パワーがいりますね。
飯村:今は時短で仕事をしていて、娘のほかに息子もいるので平日子どもたちが寝付くまではバタバタ。子どもが夜寝てから企画書をつくったりなど作業するんですが、睡魔と闘いながら、何やってるんだろう…と思うことも。でも、仲間の存在が励みになりますし、みんなも心の拠り所にしてくれているので、がんばろう!と活動のパワーになります。
―― 一般社団法人として1年目の目標はありますか?
飯村:医療的ケア児やそのほかの障がい児の周知活動が目標です。気管切開で喉に管をつけていたり、人口呼吸器をつけていたりすると、外出時に周りの視線が痛いし、指をさされることもしょっちゅう。メンバーのなかには、一度外出して辛い思いをして以来、退院して3年間、食材の買い出し以外どこにも出かけたことがない、という人も。医療的ケア児が周知されることで、こういう特徴を持っているけど、みんなと同じ1人の子どもなんだよって世の中の見方が少しでも変わればうれしいです。
↑周知活動の一環で制作した、真鍮のキーホルダー。子どもの特徴を表現したオリジナルの形をつくることができ、メンバーにとってはお守りのような存在。活動を応援してくれる人向けに、ハートや星を模ったデザインも。経費を除いた利益は付き添い入院のママのお弁当として寄付する予定だそう。
飯村:11月にサイトを立ち上げたので、メンバーがそれぞれ住んでいる地域で心のバリアフリーを感じたお店や場所を取材して、紹介していきたいとも思っています。私たちの活動の存在を少しでも知ってもらうとともに、医療的ケア児を取り巻く地域格差をなくしていくことも目標。また、1年後には事務所兼メンバーの居場所づくりも視野に。ママたちが外に出る第1歩になるといいし、日常のなかで、笑顔になれる時間を共有できればうれしいです。
就園就学などを含むライフパートナーとして相談支援業務の開始も1年後の目標だと語る飯村さん。名古屋ではまだそういった取り組みをしている支援センターがなく、他県の相談支援センターの方と打ち合わせを重ね、準備を進めているそう。ぱぱすメンバーたちの活躍が、医療的ケア児とママたちを取り巻く未来を明るく照らしてくれそうです!
(文:広瀬良子)