鉛でできた活字(文字のブロック)を1文字ずつ組み合わせて印刷用の版を作り、専用の手動印刷機で印刷する活版(かっぱん)印刷。印刷したところにくぼみができ、いつも私たちが目にする印刷物とは異なる風合いが感じられるのも魅力です。そんな活版印刷を体験できる工房が岐阜にあると聞き、さっそく出かけてきました。
お邪魔したのは、古い町並みが風情たっぷりの川原町にある工房「ORGAN活版印刷室」。
↑日本家屋の中に印刷室があります。
壁に並ぶたくさんの文字!
部屋に入って先ず目に入ってきたのは、天井近くまである高い棚。
近づいてみると小さな文字がたくさん並んでいます。これが「活字」。ここから使いたい文字を1文字ずつ探していくのだそう。普段意識していなかったけれど、私たちはこんなにたくさんの記号を使ってコミュニケーションをとっているんだな、と感慨深いものがあります。
↑オーナー。なおのさんの肩書はKappanist(カッパニスト)。活版からインスピレーションを受けたネーミングがおしゃれ!
ORGAN活版印刷室では、活版印刷で名刺やハガキなどをつくることができます。今回は名刺にチャレンジ!まずはデザインを考えるところからスタートです。
2種類の美濃手漉き和紙と洋紙に印刷できます。真ん中の和紙にすき込まれているのは玉ネギの皮。紙にもこだわりいっぱいでステキです。
「どんな内容にしようかな?」「どこに、どんな大きさで文字を入れようかな?」紙にイメージを描いていきます。
活字を組んでいく繊細な作業
デザインが決まったら、ずらっと並んだ活字の中からお目当ての文字を探します。
時にはライトで照らしながら。1文字ずつ丁寧にピンセットでつまんで取り出す繊細な作業。取り出した文字は「文選箱」と呼ばれる木製の入れ物へ。
初めに書き起こしたデザインを光に透かして、文字組みの方向を確認。
ハンコと同じ要領なので、仕上がりと反対の向きになるよう組んでいきます。
「こめもの」という余白になるブロックや、「インテル」という行間をとる板を入れながら、選んだ文字を1文字ずつ置いていきます。細かい文字は、ブロックの状態では何の文字だか判断するのにひと苦労…ピンセットを使う繊細な作業が続きます。
文字の向きを間違えた?一度はめたものを抜き出すと、その周りがドミノ倒しのように崩れることも。「こめもの」をストッパー代わりに使うなど、コツを教えてもらいながら組み進めていきます。
キリの良いところでおやつタイム!集中した後の甘いもの、最高です。
今日は、カステラ風のもっちりとした食感の和菓子をいただきました。江戸時代から製法を変えずに作られているという岐阜の銘菓を堪能して、後半の作業も頑張ります。
印刷は何色のインクにしようかな
たくさんのインクの缶が並んでいます。1色をそのまま使っても、何色かを混ぜてオリジナルの色味を作っても良いとのこと。今回は紺色と黒色を混ぜてもらい、深みのあるネイビーを目指します。
色ができたらいよいよ印刷!何度か試し刷りをして、ベストな位置を探します。
色も位置も決まったら、印刷していきます。用紙を印刷機にセットして名刺を増刷。
印刷機でのプレスが思っていたよりも軽いことに驚きました。とても重量のありそうな鉄製の印刷機ですが、そのハンドルはスムーズに操作できます。正面からは見えませんが、後ろに重りが付いていて、テコの原理を生かした反動で操作性を上げているとのこと。昔ながらの機械に宿る、先人の知恵を体感できました。
活版で押された紙の凹凸、そこにのるインクの印影。手書きのようなあたたかさと、機械刷り特有のシャープさが同居した独特の風合いです。1文字ずつ文字を配置し、1枚ずつ印刷したことで愛着もひとしお。
印刷の歴史に思いを馳せながら、ステキな体験ができました。
デジタルでさまざまなことができてしまう今だからこそ、たまには手仕事を楽しみながらゆったりとした時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。
(文:黒柳 愛香)