日本遺産のまち、愛知県瀬戸市。瀬戸焼・常滑焼・信楽焼・丹波焼・備前焼・越前焼の産地が提唱する「きっと恋する六古窯-日本生まれ日本育ちのやきもの産地-」が、2017年4月に日本遺産として認定。愛知県では瀬戸焼と常滑焼の2つが選出されています!
古くから良質な土に恵まれた瀬戸のやきもの文化が生まれたのは遡ること約1,000年以上、平安時代の頃。瀬戸ならではの白く焼き上がる耐火度の高い粘土に、釉薬を器面全体に施したやきもの“施釉(せゆう)陶器”は、中世期では唯一瀬戸で生産。鎌倉幕府にも献上されていました。世界で屈指の生産量を誇り、“せともの”といえば、一度は手にしたり耳にしたりしたことがあるはず! そんな地元の誇るべき文化を体感するべく、愛知県瀬戸市へ。
向かったのは、明治時代の建物がそのまま残る「一里塚本業窯」。混じり気なしの瀬戸の白く焼き上がる耐火度の高い粘土を生かした器づくりをする、まさに瀬戸の文化を継承する窯元です。仕事場としても使っている陶房(瀬戸では“モロ”といいます)には、本焼きする前の器がズラリ。
子どもの頃からモロが遊び場でもあり、職人さんの仕事ぶりを間近で見てきたという窯元の水野雅之さん。
壁には、子どもの頃に土を投げた跡が今も残っているんです(笑)なんてことも、こっそり教えてくれました。なるほど、壁には白土の跡がいっぱい。何十年も残っているとは、それほど瀬戸の土に粘り気があるということですね!
モロでは1日陶芸教室を行なっているとのこと。さっそく、ろくろを使った器づくりを体験することに!
まずは土を練る作業。「土練り三年、ろくろ十年」という言葉があるように、簡単そうに見えても技術のいる工程。ここは水野さんにお任せします。
見惚れてしまう手さばき。手首を使って行う「菊練り」は菊の花のような見た目からその名がつけられ、100回くらい練って土の中の空気を抜いていきます。
いよいよ、ろくろを使った器づくり。まずは水野さんがお手本を見せてくれます。
湯のみの形をつくっていき、「ろくろ目」を指でつけて仕上げ。器に味わいをもたせるため、つるんとした表面ではなく、あえて指の跡を残す手法です。
流れをひと通り見せていただいたところで、いよいよ選手交代。私の番です。まずは形(ご飯茶碗・湯のみ・平皿・抹茶茶碗など)と、釉薬(灰釉・織部・黄瀬戸・瑠璃・鉄釉)を選びます。
灰釉のご飯茶碗をセレクト。ろくろの前に座り、お湯で手を濡らしたら、土に触って形を整えていきます。ひ~んやりとした土の感触。不慣れで躊躇している私の気持ちなどお構いなしにろくろは回っていくので、土に意識を集中し、気を引き締めます。
両手に力をぐっと入れて、上方に引き上げます。
右手で奥に押して、形を整えたら…
親指を中に入れて、穴を広げます。だんだん茶碗らしい形になってきました!
少しでも気を抜くと、両手の力のバランスが乱れて、ぐわんと形がゆがんでしまいます。自然と無心に。一心に器と向き合います。
薄く整えながら、「ろくろ目」をつけていきます。
なめし皮で口が当たる部分を滑らかにしたら成形完了。
シッピキ(切り糸)でろくろから切り離して、器の形となります。
少しでも気持ちが外に向いたり、熱心さが足らなかったりすると、器が応えてくれない。ろくろを使った器づくりって、まるで人を相手にしているよう。真っ直ぐに心を込めると、ちゃんとキレイな形となって応えてくれるんです!
モロ(陶房)に置いてあった素焼き後の器。左が釉薬なしで、右側が釉薬をかけたもの。瀬戸の白土は本当に美しい!
「一里塚本業窯」の敷地内には、山の斜面を利用した焼成窯「登り窯」も。1975年に瀬戸市の有形文化財に指定されるまでは、年3回ほど焼成していたそう。
江戸時代後期には、瀬戸に登り窯が24基あったそうですが、現存するのは「一里塚本業窯」と、洞町にある「瀬戸本業窯」のみ。1番下の胴木間(燃焼室)の火が、順に上の段へと熱を伝えていくという仕組みです。
登り窯の横には、器を展示販売するギャラリーも。階段に配されている器がカラフルでかわいい!
ギャラリーの中には水野さんが手がけた器がズラリ。
江戸時代から愛される、馬の目(写真:手前右)・石皿(写真:手前中・左)・麦藁手(写真:右奥)など、瀬戸を代表する民藝(普段使いのやきもの)の数々に心躍ります。
飴色のマグカップも素敵。取っ手は、器本体と合わせながら形づくっていくのも特徴のひとつ。よく見ると取っ手に親指の跡が残っているのがわかります。器本体との密着度が高く、見た目にも一体感が生まれるのです。
馬の目のマグカップにコーヒーを淹れていただき、ひと休み。なんてオシャレなカフェタイム!
光沢のある釉薬(写真:左)や、明るい色彩など、新しい商品も生み出されています。
本焼きする前(写真:左)と後(写真:右)では、釉薬の色がこんなに変わるんです。まるで化学の実験のようなワクワクドキドキ。こういった工程の一部が見られるのも、とっても貴重。窯元さんに足を運んだからこそ得られる体験ですね!
水野さんのお宝、江戸時代につくられた馬の目皿も見せていただきました!
陶芸体験だけでなく、瀬戸のやきものの文化や歴史、普段使っている器の背景にあるストーリーなど、たくさんの魅力に触れることができた充実のひととき。温かい水野さんの人柄にも癒やされ、また普段使っている器にも愛着を感じちゃいますね!
「一里塚本業窯」をはじめ、瀬戸にはものづくりを体験できるスポットがいっぱい。その他のおすすめスポットも下記に一覧にしたので、チェックしてみて。
(写真:西澤智子 文:広瀬良子)
その他のおすすめ!「瀬戸」の体験スポット
●招き猫ミュージアム
愛知県瀬戸市薬師町2
10:00~17:00、火曜休館
TEL 0561-21-0345
*体験料金300円~(30分~1時間程度)
*15:00までに受付
*予約不要(10人以上の場合は事前予約が必要)
http://www.luckycat.ne.jp/
縁起のいい“招き猫”の染付体験
数千点の招き猫を展示する日本最大の招き猫専門博物館。体験スペースでは、呉須(ごす)という藍色の顔料を使い、磁器の素地(きじ)に細筆の線描きと、太筆の濃(だみ)での絵付けを基本とする瀬戸のやきものの伝統技法で、招き猫の貯金箱やお皿などに絵付けできます。
●Gallery もゆ
愛知県瀬戸市朝日町48-1
11:00~17:00、火・水曜休み(祝日の場合は営業)
TEL 0561-85-8100
*体験料金:簡単コース2,700円~(2時間まで)
本格コース3,564円~(お茶・お菓子つき)
*要予約(簡単コースは当日参加できる場合も)
http://setomachi.com/moyu/
パステルの色彩で絵付け体験
瀬戸の長屋を改装した空間に、瀬戸にゆかりのある若手陶芸作家の作品を展示するギャラリー。めしわん・ゆのみ・マグ・小皿など、好きなアイテムを選んで絵付けできます。
●加山 オンリーワン陶芸教室
愛知県瀬戸市窯町296
TEL 0561-41-0135
*体験料金:ろくろ体験2,808円~
陶芸体験1,944円~
絵付け体験1,296円~
*工場見学も可
*前日までに要予約
http://www.kazan-onlyone.com/
ろくろ・陶芸・絵付けと体験メニューが充実
創業121年のノウハウで伝統工芸師が専門的な知識や技術も教えてくれます。独自の指導法でわかりやすく、子どもから大人、初心者でも気軽に参加できます。
●更紗窯
愛知県瀬戸市品野町3-256-3
TEL 0561-42-0045
*体験料金10,800円(半日程度)
*3人以上で体験可
*前日までに要予約
http://www.yano.ne.jp/sarasa/
珍しい「練り込み」技法を体験
全国的にも珍しい色土を使った「練り込み(練り上げ)」技法を体験。器をはじめ、好きなものが制作できます。
●愛知県陶磁器美術館
愛知県瀬戸市南山口町234
9:30~16:30、月曜休館
TEL 0561-84-7474
*体験料金:作陶740円~・中学生以下620円~(2時間程度)
絵付け680円~・中学生以下560円~(2時間程度)
2018年4月から料金が変更となります
*予約不要(10人以上の場合は事前予約が必要)
https://www.pref.aichi.jp/touji
親子連れに人気!美術館内で作陶・絵付け体験
重要文化財3点を含む約7,000点の所蔵品を有する国内屈指の陶磁専門ミュージアム。国内外のやきものについて学びながら、予約なしで作陶または絵付けが体験できます。
●スタジオバグザウルス
愛知県瀬戸市塩草町66
TEL 090-7045-0500
*体験料金:コップ3,500円(約20分)
オプション500円~(取っ手・ガラスベースなど)
風鈴作り体験もあります
*前日までに要予約
https://bakusaurus.com/
親子や友人と吹きガラス体験
風船のように膨らませて形成する吹きガラス体験や、砂を吹き付けて削るサンドブラスト体験など、子どもも参加できます。
●ナカイガラス制作所
愛知県瀬戸市朝日町27
10:00~18:00
金・土・日・月曜のみ営業
TEL 090-4190-2837
*体験料金:フュージング体験1,500円~(約20分)*5歳以上
とんぼ玉体験2,000円(約15分)*10歳以上
*当日参加もOK。予約がおすすめ
*2018年5月以降は営業日未定
https://nakaiglass.jimdo.com/studio/
色とりどりのガラス小物を制作
銀座通り商店街に工房兼店舗を構える同店。色とりどりのガラスチップを並べて電気窯で溶着させる「フュージング体験」(写真左)は、簡単で親子でも楽しめ、「とんぼ玉体験」(写真右)はステンレスの棒にガラスを溶かしながら巻きつけて丸い玉を作ります。