体験

「しょく」=食、職、触。さまざまな情報を手に入れることがたやすくなった今の時代においても、生の体験、実際に自分の手で触れることを大事にしていきたい。1人でも、友人やお子さんとでも。「触れる」魅力を宝物に。

刀や包丁など、刃物をつくる日本の伝統文化「鍛冶」。金属を火の中に入れて打ち延ばす、職人技の世界です。そんな敷居の高いイメージがある鍛冶を体験できる工房があると聞き、さっそく出かけてきました。
 
お邪魔したのは岐阜県羽島市にある「淺野鍛冶屋」。岐阜県関市で刀匠の修行をされた淺野太郎(刀匠銘 房太郎)さんがご自身の地元に開いた工房です。
 

↑淺野太郎さん(刀匠名 房太郎)
 

刀匠から伝統の技を学ぶ

 
鎚(つち)で打ち延ばす、金やすりで整える、刃付け、焼き入れ、研ぎなど、たくさんの工程がある鍛冶。体験では、1日(約7時間)かけてナイフを作ります。
 

 
今日は海外からのお客さまが体験に訪れていました。日本の鍛冶技術は世界でもトップクラス。侍、刀といったジャパネスクのイメージもあり、海外からも注目されているそうです。説明を聞いて、早速スタート。
 

 
火の中に鉄を入れて熱していきます。刀匠の世界では「火は88色ある」と言われているそう。火と真剣に向き合うからこそ、刀匠の目にはたくさんの色が見える。そんな奥深い世界を垣間見ることができます。
 

叩くことで強くなる

 

 
まっ赤になった鉄を叩きます。何度も叩くことで不純物が取り除かれ、さらに金属の結晶が整い強度が増すそうです。カタチを整えるために叩くのかと思っていましたが、それだけではなかったんですね。鉄を鍛えるこの作業、「鉄は熱いうちに打て」の語源ってこういうことだったんだ、と発見!
 

 
適宜、風を送って火力を調整します。鉄を熱するのだから、高温で力強く!というイメージを抱いていましたが、それだけではありません。鉄の様子を見ながら優しく調整する様子から、火のもつ繊細な一面を知ることができました。
 


 
特に難しいのが、持ち手の部分の加工。冷めないうちに素早く「くるっと」丸めます。
 

 
叩くことを繰り返し、ナイフの形になりました。後は磨くだけ!ではないんです。叩いた鉄は硬すぎてしまい、使い心地や強度の面で不安が残ります。そこで、硬さと柔らかさのバランスを取るために行うのが「焼き入れ」という作業。「硬いだけでは強くないって、人間みたいだな」と、より一層の愛着がわきます。

暗闇の中で炎と向き合う

 
鉄に粘りをつける「焼き入れ」の作業。炎の中に入れて高温になるまで熱したナイフを、水につけて急速に冷やします。冷却速度が速いほど割れるリスクが高いということで、体験では水ではなく油を使用します。
 

 
油を使っても割れる可能性のある、緊張する作業。ベストなタイミングでナイフを火から取り出せるよう、真剣に炎と向き合います。
 

 
火の色の変化にしっかり向き合えるよう、部屋は暗くするとのこと。炎だけが際立つ非日常の空間が広がります。
 

↑焼き入れが終わったナイフ
 
淺野さんに「survive (助かったね)」と声をかけていただきました。割れなくてよかった!あとは磨きをかけ、ナイフとしての輝きを与えます。

日常に溶け込む刀匠の技

 
「伝統工芸を身近なものとして感じて欲しい」。淺野鍛冶屋では、日本刀の伝統技法を応用して包丁も制作しています。
 

 
試し切りさせていただきました。すーっと食材に入ってく刃。摩擦を感じないだけでなく、水分の多い大根を薄くスライスしても包丁にくっつきません。料理が苦手な私でも、向こうが透けるほどの薄さに切ることができました。驚いたのはスライスした大根の舌ざわり。ガラスを舐めているようなツルツルの感触。そして味も何だか甘いような…
 
研ぎ澄まされた切れ味は、食材の細胞を傷つけることがないため、野菜本来の味が楽しめるそう。「野菜嫌いの子どもがサラダ好きになった、と言っていただいたこともあります。嬉しかったな」と語る淺野さんの笑顔から、モノづくりへの熱い想いを感じました。
 

楽しんでほしい。そんな想いにあふれた時間

 

 
ビールで乾杯したり、刀匠と一緒にお昼ごはんを食べたり。楽しい休憩を挟んでのナイフづくり。「体験のコンセプトはエンターテインメント。まずは楽しんでほしい」との淺野さんの言葉通り、工房内にはとても温かな時間が流れていました。
 
気負わず日本の文化を体験してみる。そしてその素晴らしさに触れる。
そんな時間が過ごせた1日でした。
 
 
(文:黒柳 愛香)
 
 

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