体験

「しょく」=食、職、触。触れることの魅力を伝える、編集メンバーの体験記事。

 
単彩濃淡のぼかしが特徴的な名古屋友禅は、華やかさの中に渋さが同居して、しっとりとした趣が感じられます。そんな名古屋友禅の色挿しが体験できる工房が名古屋にあると聞き、さっそく出かけてきました。
 
お邪魔したのは、名古屋市西区にある「友禅工房 堀部」。名古屋友禅伝統工芸士でもある堀部満久さんの工房です。
 

↑二代目となる堀部満久さん。家業である名古屋友禅の技術を伝えています。
 

名古屋友禅の美しさに触れる

 

 
工房の入り口に飾られていたのは、虎が描かれた着物。毛並みまで細やかに描かれていることに驚くとともに、力強さの中にも落ち着きのある独特の世界観に引き込まれます。
 

 
色挿しを体験させていただく2階に上がると、たくさんの筆が。天井には染料を乾かすために反物が吊るされていました。着物にする反物は、一反が13メートルもあるそうで、広い作業スペースが必要だそう。
 
体験の前に、まずは堀部さんから手ほどきを受けます。
 

友禅の世界観を生み出す、たくさんの工程たち

 

 
先ずは“下絵”の工程。下絵の上に生地を重ね、“青花”と呼ばれる水に消える液で模様を写していきます。このとき、そのまま写すのではなく、生地のたわみを考慮してデザインが綺麗に見えるカタチを描いていくのだそう。フリーハンドできれいな円が描かれていく様子に魅入ってしまいます。
 

 
下絵が終わったら次は “糊置(のりおき)”という作業。糊は染料がにじみ出るのを防ぐ堤防の役目をするそうです。ただ線をなぞるのではなく、さらに良い絵に仕上げようという心持ちが大切。凹凸のある生地にムラなく糊を置くという難しい作業です。
 
下準備が整ったら、さっそく色を!と思いきや、先に模様以外の部分を着色する“引き染”という工程があるそう。
 

 
模様部分を糊で伏せて染まらないように(“伏糊置⦅ふせのりおき⦆”)した上で、地色を刷毛で染めていきます。そして色を定着させるために蒸して水洗い。
たくさんの工程を経て、ようやく模様に色を付けていく“色挿し(いろさし)”に。ここから体験がスタートです。
 

色挿しで、絵に命を吹き込む

 

 
椿や紅葉や金魚などの色挿しが体験できるなか、私が選んだのは朝顔の花が描かれた木綿のハンカチ。
 

 
まずは細い竹の棒の両端に針の付いた“伸子(しんし)”で生地をピンと張ります。しっかりと張りをもたせることが大切で、たわみがあるとキレイに彩色できないそう。生地が破れてしまいそう…と、ドキドキしながら伸子を取り付けます。
 

 
たくさんの色がズラリと並び、色の数だけ筆も用意されています。生地には色を混ぜずに使うので、一色ずつお皿に入った色をその色専用の筆でとっていきます。
 

 
「朝顔ってどんな色合いだったかな?今度しっかりと観察してみよう」。そんなことを思いながら、縁は筆を立てて線からはみ出さないように、広い面はしっかりと筆に染料を染み込ませて霞まないように。教えてもらったコツを意識しながら作業を進めます。
 

 
名古屋友禅では彩色のことを「色を挿す」と言うそう。生地の表面だけでなく、織地の凹凸や繊維の中にもしっかりと色を染み込ませるため、「挿す」と表現するそう。その言葉を意識していたら、なんだか色が濃くなりすぎてしまったような…。
 

 
先生の挿した色は、自然な濃淡がとてもキレイ!熟練の技ですね。
 

 
色挿しが終わって乾かしてみると、色が薄くなりました。この変化も考慮して色を挿せると良いんだろうな。初めての色挿しは、色が線からはみ出さないように描くだけで精一杯。それでも、自分で色挿しした花に愛着がわいてきます。家に帰ったら部屋に飾って、夏を感じてみようかな。
 
体験では行いませんでしたが、この後に“彩色仕上げ”という模様の細部を加工するひと手間も。人物の表情や花の芯を書き入れたり、金箔を押したりしてさらに深みをつけていくそう。
 
体験で挑戦したのはたくさんの工程の中のごく一部でしたが、優しい色合いの染料や繊細な線で構成された図柄など、名古屋友禅の世界に魅せられたひとときが楽しめました。
 

工房での体験ならではのサプライズ!

 

 
赤色を抜いて白くし、そこに手書きで模様を描く“染色補正”という技術が施された生地を見せてくださったのは、三代目の堀部晴久さん。こうした技術で着物を蘇らせることができるんですね。一生モノという言葉がしっくりきます。
 


 
こちらは自然の草木そのものの形を写し取った“樹光染”の作品。淡い色合いが幻想的なこの絵は、二代目 堀部満久さんが初代と共に生み出した特別な技法で描かれたもの。濃淡で描かれる立体感が美しく、自然の息吹が伝わってくるようです。
 
美しい絵柄や色彩に触れる、ゆったりとした時間。感性を研ぎ澄ますことができた一日となりました。
 
 
(文:黒柳 愛香)
 

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