そもそも枡は計量器だった!?
節分にまく豆を入れたり、日本酒をグラスに注ぐ時に溢れた分を受け止めたりと、私たちの生活に身近なものとして存在してきた枡(ます)。1合、2合半、5合、1升、1斗升など決まった大きさで展開しているのは、日本人が昔から枡を使い、穀物や木の実をはじめ、お酒や醤油、油や繭などを量ってきたという文化があるため。
かつて豊臣秀吉は、「京枡」(1959年 法的に廃止)として、年貢収納で米などを量る基準のために、公定枡を定めたそうです。現代でもご飯は1合、2合、お酒は1升瓶、熱燗2合などと呼び、馴染みのある単位として息づいていますよね。
伝統的な枡が、スタイリッシュに変貌
そんな歴史と文化を感じる枡に新しい試みを吹き込んだのが、日本の枡の80%のシェアを誇る岐阜県大垣市にある枡メーカーの大橋量器。デザイナーとコラボして革新的な商品を展開していく「MASSシリーズ」の中でも、「カラー枡」は、鮮やかな色彩がセンス良く施された、編集部もハッと目を引かれたデザイン。
発端となったのは、枡の上淵にリップマークがついたデザイン。「枡でお酒を飲む際に、どこに口をつけたら良いのかわからない」。そんなデザイナーの素朴な思いから生まれたそうですが、シンプルな枡に赤やピンクなどのリップマークがキラリと光る枡は、意外にも男性ファンが多いのだとか。お酒を飲むたびに、ドキッとするからかもしれません(笑)。
ちなみにこの「カラー枡」、ニューヨークで行われたギフトフェアにも出品され、ケイト・スペードのバイヤーさんが興味を示してくれたり、ポール・スミスのバイヤーさんの目に留まってポール・スミスの海外店舗にも置かれるようになったのだとか。「枡という日本独特の工芸品が海外で認められることは、大変うれしかったですね」と、大橋量器代表の大橋博行さんは語ります。
岐阜県大垣市は、木曽や東濃など日本有数のヒノキの産地に近く、良質のヒノキが手に入りやすいことから枡産業が発展してきたエリア。枡は、江戸時代から和室の鴨居や敷居に使用していたヒノキの端材を利用して作られてきたのです。現在は和室が減り、枡に使える端材も減少してきたとのこと。大橋さんは仕入れ先の開拓に奔走したこともあったそう。
最先端ITの世界から、昔ながらのものづくりの仕事へ
大橋量器3代目となる大橋さん。実は、大学卒業後にIT系の会社に就職し、結婚を機に実家である大橋量器を継ぐことを決意したのだそう。意欲的に働いていた前社への心残りが少しありながら、悶々と、それでいて粛々と枡づくりに取り組んでいた大橋さんの心に火がついたのが、年末の決算書を目にしたとき。昔に比べて売上が半分ほどに落ちていることを初めて知り、このままでは枡産業が衰退していってしまう!と危機感をおぼえ、枡づくりに心を燃やそうと、決意を新たにしたと語ります。
まずは、品質を高めること。そして、今まで問屋にばかり頼っていたところを、大橋さんが直接酒造メーカーに営業をし、取引先を拡大していきました。大橋さんの取り組みが功を奏し、経営は上向きに。ところが、数年経ったときに、再び売り上げがとまってしまったのです。
大垣の枡をもっと知ってもらいたい
「大切な日本の伝統工芸品である枡を、これからも大垣で製造し続けていきたい」。大橋さんの強い思いが、「MASSシリーズ」を誕生させることとなったのです。「MASSシリーズ」は「カラー枡」のほかにも、枡を制作するときの端材を利用した加湿器や、枡の形をヒントにした照明やスタッキングBOX、ベーグルの材料がすべて計れてしまうレシピ枡など、バリエーションがとっても豊富!
後編はこちら
●「MASSシリーズ」は下記で販売されています。
・枡工房枡屋(岐阜県大垣市西外側町2-8)
・枡工房枡屋ネットショップ(http://www.masuza.co.jp/)