安土・桃山時代より続く、美濃白川茶。急峻な山の斜面に美しい茶畑が広がり、昼夜の温度差が大きい高地特有の気候により、風味豊かなお茶が育まれます。
ところが、かつて200世帯余りあった茶農家が、現在はたった26世帯。ほかの茶農家が管理できなくなった土地も引き受け、茶文化を未来につなぐべく奮闘する東白川村の茶農家を救う道しるべともなるスイーツが、いま、デパートの催事で注目を集める“食べるお茶”プリン「東白茶寮(とうはくさりょう)」です。
手がける「東白川村 杜の工房」工房長の村雲陽司さんに開発秘話を伺いました。
煎茶をスイーツにするのは難しい!?
現在はお茶を使った11種類に加えて、デパートの催事限定で販売しているフルーツを使った季節プリンなど、ラインナップは22種類と豊富な東白茶寮ですが、その代表ともいえるのが「煎茶プリン」。実は煎茶をスイーツにするのは難しく、開発にも苦労したそう。
「抹茶スイーツはよくありますが、抹茶は太陽の光を当てずに育てるので茶葉にカテキンはなく、旨み成分のテアニンだけがあるんです。だから、スイーツにしてもおいしい。煎茶は太陽の光を浴びて育つのでカテキンが豊富な分、旨みに加えて、苦みや渋みがある。『煎茶プリン』は“食べるお茶”をめざして湯飲み約4杯分の煎茶の粉末が入っているんですが、苦みや渋み、旨みのバランスをとるのは大変でした」と村雲さん。
お茶の量や砂糖の量を試行錯誤しながら、甘すぎず、香りや旨み、渋みのバランスがとれた味わいに。カテキンが豊富なので、健康にもうれしいスイーツです。
デパートの催事で初日に完売
煎茶プリンはもともと、東白川村の道の駅で売っていた商品でした。エネルギーソリューションカンパニーのエネテクが東白川村と事業で関わるなかで、道の駅で食べた煎茶プリンに「こんなにおいしいプリンは食べたことがない!」と感動したのが、ブランドの発端です。
東白茶寮ブランドの立ち上げに向けて、煎茶プリンの味もブラッシュアップし、商品ラインナップも追加。
構想の約半年後となる2021年1月1日にブランドサイト立ち上げ、同月中旬には松坂屋名古屋店の催事に出店。「スキーでいうと、最初から上級者コースに行くような感覚。品質管理も徹底し、今まで1日20~30個作っていたのが、1日何百、週に何千と作らないといけなくなり、寝る時間も惜しんでの日々でしたね…!」
松坂屋名古屋店までは、村雲さん自ら保冷車を運転して商品を運んだそう。
ブランド最初となる催事では、なんと初日に完売。「正直そこまで売れると思っていなかったので驚きましたが、喜びもひとしおでしたね」。村雲さんに案内してもらい、商品が生まれる現場を見せてもらいました。
シンプルな素材で、丁寧に手作り
作業はすべて手作業。煎茶プリンの場合は、煎茶に牛乳を5回にわけてしっかり練り込ませます。煎茶のカテキンは脂肪を減らしてくれる効果も! さらに全卵も練り込み、ベースが完成したら、カラメルソースとともに容器に入れてオーブンで焼き、急速冷凍機で冷却して、クリームをのせたらできあがりです。
美濃白川茶を未来につなぐべく
現在は26世帯あるなかでも中核農家は4世帯となってしまった東白川村の製茶組合茶農家ですが、少ない世帯数で広大な東白川村の茶畑を管理するのも大変ですが、それ以上に頭を悩ませるのが「お茶が売れない」という現実。
「お茶を飲む習慣が減ってきているし、葬儀なども縮小して返礼品としてのお茶の需要も減っている。茶農家さんが一生懸命作っても、それをブレンドして商品に仕上げる茶商の手にも渡ることなく、摘んだ茶葉は昨年のも今年のも冷蔵庫に残っている状況なんです」。
茶農家がいて、茶商がいて、茶師がいて。3者が連携して守り続けてきた東白川村の茶文化。「東白茶寮の販売数をもっと増やして、お茶全量を買えるくらいになったら本望ですね」と語る村雲さん。
デパートでの催事は名古屋のみならず、全国で今後もびっしりと埋まっているとのこと。今後の商品展開も楽しみです!
(写真:山本章貴 文:広瀬良子)
住所 | 岐阜県加茂郡東白川村越原1061 |