
近年、各地でフェスが開催されるなど、じわじわと注目を集めているのが、個人や少人数で制作される出版物「ZINE(ジン)」です。名古屋市の路地裏に店を構える「Manila Books & Gift」には、ZINEに興味を持ち始めた人から熱心な作り手、さらには海外からのファンまで多様な人が交差します。
店主の桂井智彦さんがなぜZINEに惹かれ、店を開こうと思ったのか。そして、これからどんな景色を思い描いているのか、話を伺いました。
桂井 智彦さん
ニューヨーク生まれ愛知県育ちの現役医療従事者。ZINEの魅力に惹かれ、発祥の地・アメリカへ何度も足を運ぶ。2020年、名古屋市中区に「Manila Books & Gift」をオープン。

ZINEとの出会いについて教えてください。
桂井さん(以下、敬称略):きっかけは、近所の服屋さんに持ち込まれた1冊のZINEでした。もともと写真に興味があった私は、当時サンフランシスコを拠点とするフォトグラファー・Ray Potesの作品「HAMBURGER EYES」に強く惹かれました。有名・無名を問わず集められた写真が、巧に編み上げられ、一つの世界観としてまとまっている点が特に印象的でした。

桂井:それ以来、毎年アメリカで開催されるアートブックイベント「NewYork Art Book Fair」に足を運ぶようになりました。あわせてサンフランシスコにも行くと、本屋はもちろん、服屋や雑貨屋の店頭にも当たり前のようにZINEが並んでいるんです。しかも、手掛けているのは地元のアーティストたち。ZINEというカルチャーが生活の一部として根付いている光景を目にするうちに「ZINEを仕事にしたらおもしろいのではないか」と考えるようになりました。

そもそもZINEってどのようなものですか
桂井:特にルールはなく、紙媒体で表現できるなら「何でもあり」という自由さを持っているのがZINEです。楽しみ方も人それぞれで、販売したり、誰かと交換したり。名刺代わりに持ち歩いて、旅先で出会った人に渡すといった楽しみ方もあるんですよね。
ちなみにZINEを制作されたことはありますか?
桂井:何冊か作りましたが、やはり一番最初に作った冊子がお気に入りですね。会社員時代、長期休暇を利用して東南アジアを旅しながら、たくさんの写真を撮っていたんです。「HAMBURGER EYES」の影響を受け、「写真をモノクロにするとかっこいいんじゃないか」と思って、パソコンの中でバラバラになっていた写真を一冊に編みあげてみました。作る過程の楽しさはもちろん、形になったときには感動しましたね。これをきっかけに写真展を開催する機会をいただくなど、一冊のZINEから世界が広がっていくおもしろさを肌で感じました。

ZINEというニッチな世界でお店を開くのは、勇気がいったのでは?
桂井:もちろん不安がなかったわけではありません。でも、私にはZINEのコレクター時代に築いた縁がありました。知り合った出版社の方々やその先の繋がりから「手伝うよ」と温かい声をかけていただいていたことが自信になりました。

桂井:一方で、「名古屋にカルチャーなんてあるのか」と厳しい言葉をいただいたこともあります。そう言われるたびに「だからこそ自分が名古屋にZINEカルチャーを根付かせたい」という思いが強くなり、開店を決断する原動力となりました。

「名古屋にカルチャーなんてあるのか」とは厳しい言葉ですね
桂井:そうですね。でも実は、名古屋でも90年代頃からZINEは作られていたんです。音楽シーンに関わる人たちが自分の雑誌を作る感覚で制作し、販売もされていました。ただ、それが大きなムーブメントに至らず、流行っては消滅して……というのを繰り返してきた歴史があります。

桂井:だからこそ、ZINEを一時的なムーブメントではなく、この街に根付かせ、当たり前に存在するカルチャーにしていきたい。そのための拠点が、このお店でありたいと思っています。
オープンから5年経ちましたが、今のZINE文化をどのように感じていますか?
桂井:開店当初に比べると、「自分で作りたい」と来店される方が増えており、ZINEの認知度はかつてないほど高まっていると感じます。

桂井:当店はZINEの販売だけでなく、出版部門も備えています。最近では、海外のアーティストの作品を印刷・製本するという試みも行いました。Instagramを通じて、国内のみならず海外から訪問してくださる方も増えており、ZINEという文化が世界的に盛り上がっていることを肌で実感していますね。
今後どんなことに挑戦したいと考えていますか?
桂井:ZINEの文化をさらに盛り上げるために、まだ日本では知名度が低いものの魅力的なアーティストの作品展示に力を入れていきたいですね。定期的な開催を通じて、多様なアーティストを知ってもらうきっかけを作れればと考えています。

桂井:そして何より大切にしたいのは、この場所を残し続けることです。ZINEを作るすべての人にとっての「ハブ」でありたいですね。ライブラリースペースをはじめ、海外アーティストを招いたりしながら、ZINEに携わるすべての人が集える場所に育てていきたいです。

イベント情報
2026年3月7日(土)・8日(日)、アメリカで活躍するアーティスト・石田ケイジさんとLili ToddさんによるPOP-UPイベントを開催。お二人のセラミック作品を中心に、ZINEやグッズも展開予定です。石田さん・Liliさんともに両日とも在廊予定。

| 住所 | 愛知県名古屋市中区新栄2-2-19 新栄グリーンハイツ 106 |
| 営業時間 | 13:00~20:00 |
| 定休日 | 火~木曜 |
| 駐車場 | なし |
| アクセス | 地下鉄「新栄町」駅より徒歩6分 |
| 問い合わせ | TEL 052-854-6119 |






















