提灯づくり≠畳!? アートのかおりただよう制作現場
提灯の新たな扉を開いた「レター提灯」はどのようにしてつくられているのか?その現場を見学するため訪れたのは、「レター提灯」を手がける株式会社オゼキの工房。一歩踏み入れると、そこは広い空間にさまざまな形状の型や味のある木製の作業台が点在する、アトリエのようなアーティスティックな雰囲気。畳の上で制作するイメージが少しあっただけに、ちょっと驚きです。株式会社オゼキでは分業体制で提灯づくりをすすめており、職人のみなさんはそれぞれの持ち場で一様に提灯づくりに励んでいます。
工房内を見学していると、制作途中の提灯が! 楕円形の板を組み合わせた張型に「ヒゴ」を巻き付けることで、提灯のベースがつくられるんですね。ふむふむ、これに紙を貼りつければ提灯の完成…なんて簡単なものではありません!ひとつひとつの緻密な制作工程を経て提灯、そして「レター提灯」は完成するのです。 細いヒゴ、薄い和紙、そして淡い色合いの絵の具。「レター提灯」の制作現場には、提灯を構成する各要素を繊細かつ巧みにあやつる職人の技が光っています。
小さな提灯に、職人の手技がギュッと詰まってます!
「レター提灯」の素朴な質感を生みだす「和紙」。淀みなくつるりと張るため、「張師(はりし)」と呼ばれる職人は、熟練の技をもって製品づくりに臨みます。張師の松本秀代さんは、岐阜提灯の高度な技術・技法をもつ伝統工芸士であり、長年岐阜提灯づくりに携わってきました。そのスペシャリストが掲げる「レター提灯」づくりへのこだわりとは? 「ヒゴ巻きは張りすぎても緩すぎてもいけない。微妙な力加減が出来を大きく左右する気が抜けない作業です。また、和紙同士の継ぎ目をいかに薄くできるかも重要なポイント。些細な部分かもしれませんが美しい見栄えを実現するため、いまも追求しつづけています」。松本さんをもってしても、1日につくれる「レター提灯」は20個が限界とのこと。時間と手間を惜しまず、日々小さな提灯に向き合っているのです。
次に見学したのは絵付け工程。日本の四季や情景を「レター提灯」の無垢な表面に宿していきます。「絵付師」の猪原崇光さんは、美大の日本画科出身の伝統工芸士。培ってきた日本画の技法を駆使することで、「レター提灯」のシンプルな風合いに映える絵柄はつくられています。「提灯の美しさは、灯りをつけたときに初めてわかる。浮かび上がる絵柄をイメージしながら、ひとつひとつ心を込めてつくっています」。
バリエーションは無限大! 心に響く新たな絵柄を生みだしていく
「開発当初の絵柄といえば、招き猫や桜などの和柄や鵜飼いや鮎といった岐阜市の風景がメインでしたが、現在は季節を連想させる柄やクリスマスや正月といったイベント関連のデザインを増やしています。手紙は年中いつでも送ることができるコミュニケーションツール。今後は飛騨高山といった観光地に向けたご当地柄を開発し、絵柄も含めて旅先の空気感を大切な人に伝える後押しをしていきたいと考えています」と株式会社オゼキ代表取締役社長の尾関守弘さんは、「レター提灯」が描く明るい未来を語ってくれました。
提灯という伝統工芸に「手紙」という要素が加わったことで生まれた、無限の可能性。訪れた岐阜の先々で、ふと「レター提灯」を見かける。手紙とともに送られてきた小さな提灯の灯りを眺めながら、旅する大切な人に思いを馳せる。せわしなく時間が流れていく現代社会のなかで、そんなあたたかみのあるコミュニケーションが大切にされる日が来るのも、そう遠くないのかもしれません。