究極の無水調理を可能にするメイドインジャパンの製品
ここ数年、自宅での料理にこだわる人が増えたり健康志向への高まりなどから注目が集まっている「無水調理」。食材の持つ水分や油分を活用し、水を使わずに短時間でおいしく、ヘルシーに料理ができると人気の調理法です。そんな無水調理に最適な鍋として、2010年に発売されたのが「バーミキュラ」。淡くやさしい色合いとおしゃれなフォルムの鋳物ホーロー鍋は愛知県名古屋市にある町工場で生まれました。
1936年の創業以来、鋳造メーカーとして80年以上もの歴史を重ねてきた愛知ドビー株式会社。もともとは船舶やクレーン車に使われる精密部品を製造していましたが、戦後に尾州地区(現在の愛知県一宮市周辺)で繊維業が盛んになるにつれ、織物の織柄を織っていくドビー機の製造へと業種転換。しかし、年月を経て繊維業が衰退していくにつれ、ドビー機の売上にも影響が出るように。
職人たちの生き生きとした表情を取り戻したい
「僕が小さい頃、『うちの製品は世界一だ』と誇りを持って生き生きと働いていた工場長や職人たちが、ドビー機の需要低下によってみんな元気のない顔で仕事をするようになってしまった様子を目の当たりにして。社長である兄も僕も別の会社に勤めていましたが、自分たちに何かできることがあるかもしれないと思い、戻ることを決意しました」。入社後は、現場に入り油まみれになりながら技術を学んだという土方さん。「まずは工業部品の下請け会社として業績を上げていこうと会社の仕組みを変えることで、経営を持ち直すことに成功。ですが、徐々に利益が出せるようになったものの、職人たちの生き生きとした表情は戻らなかったんです。彼らの誇りを取り戻すためには、自分たちが世界最高だと思うものを作って世に出さないといけないと思いました」。愛知ドビー株式会社の持つ「鋳造技術」と「精密加工技術」。この2つを生かした製品を作ろうと土方さんは開発への第一歩を踏み出します。
誇れる技術を駆使して、世界最高の鍋を作ろうと決意
鉄を1500℃の熱で溶かして形をつくる「鋳造技術」と、鋳造で完成した鉄の鋳物を精密に削る「精密加工技術」。この2つの技術を生かせる商品は何なのか。調べていくと、鋳物が調理に適していることに気付いたという土方さん。「開発当時、本屋に行けばフランス製の鋳物ホーロー鍋に関する本が並んでいて。鋳物ホーロー鍋なら、僕らの技術を使って世界最高のものが作れるんじゃないかと思ったんです。僕にとって世界最高とは、いかに素材本来の味を引き出せるか。僕らが持つ「鋳造」と「精密加工技術」の2つがあれば、蓋と本体の密閉性をより高くした、完璧な無水調理が可能な鋳物ホーロー鍋ができるのではないかと考えました」。
幾度の失敗と試作の日々に、一生できないのではと不安に
いざ試作を始めてみたものの、待っていたのは苦労の連続だったそう。「開発当初は半年くらいあればできると思っていたのが、実際は約3年かかりました。まず、鋳物にホーローを焼き付けることができない。というのも、ホーローを焼き付ける際、約800℃で焼成するが、表面に泡のような欠陥ができてしまうんです。鋳物の配合から変え、ホーローがかかりやすく、また800℃で焼き付けた時にも歪まない材質(鉄の配合)の開発から進めていきました」。鋳物にホーローを焼き付けることに成功するまでに約1年。さらに、密閉性を高くするため形状を整えるのに約1年半かかったそう。「鋳物の肉厚は3mmととても薄い。ただ精密に削るだけでは、最後に800℃でホーローを焼いた時に歪んでしまう。歪まないようにするためにはすべての工程のバランスが重要で、鋳造工程ではホーローを焼き付けても歪まない熱感強度の高い材質を作り、精密加工では極限まで密閉性を高めることに尽力。数えきれないほどの失敗を繰り返し、3年以上かかりやっとの思いでバーミキュラが完成しました…!」
素材本来の味を引き出すために、熱の伝達方法に着目
「素材本来の味を引き出すためには、熱をいかに食材にうまく伝えるかということが重要で。僕たちは『トリプルサーモテクノロジー』と呼んでいるんですが、熱を食材に伝える方法は大きく3つあり、鍋の底から一方向で熱が伝わる『熱伝導』、水や空気の動きで食材の表面から全体的に熱を伝える『対流』、そして食材の組織を壊さずに内部から発熱させる『放射熱』。この3つの要素を組み合わせ、熱源から食材への熱の伝達をコントロールすることで素材本来の味を引き出すことができると考えたんです」。鍋の底にリブと呼ばれる突起をつくることで、鍋の中でバランスよく熱が伝わりやすくなり、さらに蓋の形状を流線型にすることで蒸気の対流を効率的に起こすことができるのだそう。
おいしさを保ったまま、使いやすさをプラス
また、本体だけでなく蓋にも取っ手がついているのはバーミキュラならでは。「鋳物ホーロー鍋って重いですよね。でも、求める機能を追求するにはどうしても重さが伴ってしまう。おいしさを保ったうえで、いかに使いやすくするかを研究した結果、蓋にも取っ手をつけることで持ち上げる際に格段に軽く感じるし、両手で蓋を外せるから、扱いやすいし液だれもしなくなりました」。素材の味を引き出すだけでなく、使いやすさにもこだわったデザインだったんですね!
苦労の末、土方さんの掲げたコンセプト通りのバーミキュラが完成。この完成したバーミキュラを使って初めて作ったカレーの味は、今でも忘れられないそう!
後編では、製造現場へ潜入。職人さんが神経を研ぎ澄まして行う作業の様子やこだわりなどをご紹介します。
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