シンプルでおしゃれなこのバッグ、実は只者ではない!?
もうすぐ4月、徐々に暖かくなってくるこの季節、外へ出かけるのも楽しみになります。そんな時には気分一新、新しいバッグでお出かけするのもいいですね。そこで編集部が注目したのが、愛知県豊川市で生まれた、「sasicco(サシコ)」のバッグ。シンプルなカラーに女性らしいふんわりとしたフォルム。そんな「sasicco」ですが、そのゆるやかな佇まいには意外な秘密が! なんと、柔道や剣道の道着と同じ素材「刺し子織り」でできているのです。「刺し子織り」とは、平織りの生地に、同色または様々な色の縦糸・横糸を浮かせて模様を織り出した織物。一見シンプルですが、よく見るとさりげない模様が味わい深い。さらに、動きの激しい日本武道に用いられている素材ということは強度抜群。「シンプルなものこそ、流行に左右されず長く使いたい!」という人にぴったりです。それにしても、道着の素材がバッグにもなるなんて…、見れば見るほど驚きです。
創業96年! 老舗道着メーカーが踏みだした未来への一歩
「sasicco」を手がけているのは、愛知県豊川市で長年にわたり道着を製造するタネイ。1921年の創業以来、三河木綿を使った「刺し子織り」を素材とした剣道や柔道、空手道の道衣を製造しています。注目すべきは、そのチャレンジ精神! 創業時には、当時手作業でつくられていた刺し子織りの機械化に成功。また、1994年にはそれまでの剣道衣の常識を覆す生地の柔らかさと縮みにくさを実現した「バイオ加工剣道着」を発売し、業界の発展に大きく貢献しました。1世紀にもわたる歴史のなかで積み重ねてきた刺し子織りの「技術」と、現状に満足しない飽くなき「向上心」を武器に、現在も道衣業界のトップランナーとして走り続けています。
そんな三河地域の老舗企業が、なぜ道衣を素材としたバッグづくりに挑戦したのか? きっかけについて代表取締役の種井美文さんは、「10年ほど前から刺し子織りを使用した新たな製品づくりに取り組んでいました。いまある人材と設備を活用してつくれるものはなにか? 割烹着や帽子など、様々な製品をつくり模索するなかで、仕事でお付き合いのあった方からいただいた『この素材でバッグをつくってみたら?』という一言。非常に面白いアイデアでしたので、挑戦してみることにしました。バッグに関してはまったくの素人。社員一丸となってのゼロからの挑戦でしたね」と話します。
バッグ製造を通じて見えた光明。そしてブランド設立へ。
バッグという未知の世界。その新たな挑戦を、自慢の製織技術と種井さんをはじめとしたスタッフのアイデアで生かし、少しずつカタチにしていきます。「バッグのデザインに関しては手探り状態でスタートしました。そこで参考にしたのが『女性スタッフの意見』。見た目だけでなく、使いやすさや持ちやすさなど、ユーザー目線の声をヒントに製造を進めてきました」と種井さん。そして、2008年にトートバッグの制作に成功! 東京の有名百貨店で開催された展示会で好評を博し、その後通販カタログにも掲載され、その人気は瞬く間に広まっていきました。「『sasicco』を販売する取引先様にはたくさんのご指摘をいただきました。相手はファッション業界を知り尽くすプロフェッショナル。すべては、バッグをより良くしてほしいという期待のあらわれだと思い、その期待に応えられるよう改良に励んだ日々が、『sasicco』の礎になっていると思います」と種井さん。
バッグづくりのイロハを学び、技術を高める期間を経て、2010年ついに自社バッグブランド「sasicco」を設立! より多くの人に自慢の逸品を知ってもらうための決断でした。「日本で製織されている耐久性のある天然素材生地といえばデニムと帆布ですが、刺し子生地にはその2大巨頭に割って入れるポテンシャルがあると自信をもっています。丈夫さだけに目がいきがちですが、もともと衣類生地としてつくられているので通気性もばっちり。壊れにくい・蒸れにくい『新しいバッグ』として、多くのお客様に愛される存在になってほしいです」。バッグを手に「sasicco」に込めた思いを語る種井さんからは、100年近くにわたり会社の歴史と共に歩んできた刺し子織りに対する愛情が伝わってきます。
三河地域が誇る伝統技術を生かし、道衣の新たな可能性を切り拓いた「sasicco」。そのシンプルでかわいらしい佇まいには、道衣の新たな可能性を追求するつくり手の武骨な思いが宿っていました。後編では、タネイの工房から「sasicco」の制作風景を紹介します。ひとつのバッグに息づく伝統の技を、ぜひお楽しみに!