インタビュー・ひと

「こんなことしたらおもしろいかも!」を実現した人、また、東海エリアに新たな息を吹き込んだ立役者となる『仕掛け人』にインタビュー。仕掛け人の存在や想いを知ることで、イベントや場所がよりイキイキと目に映るはず!

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一宮駅からほど近い、レトロビル。「旧尾西繊維協会ビル」はその名の通り、繊維の街・愛知県一宮市で繊維協会の拠点として利用されてきました。1933年に竣工され、外観のデザインや天井の彫刻が美しく、意匠にこだわったビル。その魅力から、2015年末に取り壊しの危機を迎えたとき、待ったをかけたメンバーがいました。メンバーのひとり、稀温(きおん)さんは、過去にいくつものアーティストを束ねてプロジェクトを行ってきた、名物プロデューサー。今回は稀温さんに取材し、ビルを再利用することになった経緯とともに、1階で尾州繊維を販売する「アール・マテリアル・プロジェクト」のビジョンや、地域イベントを仕掛ける流儀に迫りました。
 
 
 
― 解体予定だった旧尾西繊維協会ビルを丸ごと借りた稀温さんや地元の繊維業者のみなさんは、何を目的としていたんでしょう?
 
稀温:このビルは繊維の街の象徴であるにもかかわらず壊されそうだと聞き、なんとかしたいと思いました。そこで、駅に近くて趣があり、歴史的な意味も持つこのビルと、地元の素晴らしい繊維を売ることは、自然な流れだと考えました。
尾州の生地は上質で素敵なものが多いのに、アパレル業界における企業間取引が中心で、一般の人向けには販売されてきませんでした。さらに、ストックやサンプルは捨てられてしまっているという、もったいない事実があったんです。それで、プロのファッションデザイナーたちが使っている価値のある生地や糸を集めて、誰でも買える場にしようとイベントを立ち上げることにしました。
 
 

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1933年に竣工した旧尾西繊維協会ビル。昭和天皇の行幸もいただいた尾州繊維業者の誇りの象徴だという。現在は「リテイルビル」という通称が定着し、小売り販売される生地や糸を求めて県内外から多くの人が集まる。

 
 
― ビル1階で行われているアール・マテリアル・プロジェクトは、尾州でつくられた生地を一般向けに販売する事業として、注目を集めていますね。2014年に初めて行ったイベントで1300人の集客があったと聞きました。会場はどんな様子でしたか?
 
稀温:プロのデザイナーやモデルから地元のおばあちゃんまで、まぜこぜなのが見ていて面白かったです。レジ待ちが長い列になっちゃって、でも並んでいるうちに、いろんな目的で来たお客さん同士が話し始めて仲良くなるんですよ。「あなたその布で何をつくるの?」とか、年配の方と高校生が洋裁談義している姿が印象的でした。
 
― 稀温さんの目的は、街の資源に興味を持つ人を増やして、街を活性化させること?
 
稀温:それは、少し違うんだよね。私は「まちおこし」には興味がないんです…。適材適所というか、つながるべきヒトとヒトや、価値あるモノ、コトをつないで、自然な流れで人が集まったり、盛り上がるシーンを見たいんです。だから、さびれてるものをなんとか再生させようとか、そういうつもりではないんです。ビルも繊維もすごく素敵なのに、今まで必要な人に届いてなかった。それをここに集めて、「あるよ」って示して見せたら、あちこちにいた「欲しい」と思う人が集まってくれたんだ思います。
 
 
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― なるほど。「せんいのまちで せんいのビル」というコンセプトも、「繊維」という資源がある街だからこそ、その街ならではのビルがあり、活動が展開できる。自然な流れですよね。
 
稀温:そうです。今までしてなかったことをするには、リスクが伴う。でも、掘り下げていくうちに素材にたくさんの価値が見つけられたし、使う人の顔もたくさん浮かんだ。これはみんなも見たいよね、欲しいよね、って強く感じたんです。
今思えば、この地で繊維業を営む社長たちとビルを借り上げ、イベントを一緒に起こして、常設化までこぎつけたのは、「ビル」と「繊維」を結びつけることでこの場所も素材も輝くというイメージを全員が共有できたからだと思います。
 
― 実際に来てくださるお客様を見ていて、プロジェクトの成果を感じることはありますか。
 
稀温:アール・マテリアル・プロジェクトの初期は、地元よりも都市部のデザインやファッション関係の人に向けて発信していましたが、来場者がSNSやインターネットで拡散してくれ、街の人たちもプロジェクトに気付くようになりました。通常は小売りしていないから地元なのに買えないし、繊維に関わっている人は日常に当たり前にあるものだから、その価値に気付いていなかったんですよ。情報の流し方を工夫することって大切だなと思いました。
 
― 近くにあるからこそ、その価値に気付かない。そこに光を当てることが必要なんですね。
 
稀温:そうですね。尾州の生地はプリントでなくタテ糸とヨコ糸の工夫で柄やデザインを無数につくっているところに特徴があります。ある繊維会社の社長が「ドレミファソラシドしかないのに、たくさんの音楽ができるのと似てない?」と仰ったのですが、まさにそうなんです。肉眼ではわからないレベルの糸の色合わせとか、縫ったり着たり、使ってみて初めてわかる繊維の質の良さ。職人のなせる技が尾州の生地に価値をもたらしているというのは、プロだけでなく、地元の人、子どもたちにも伝えていくべきだと思います。
アール・マテリアル・プロジェクトの理念は「リファインド・リクリエイション・リレーション」の3つです。「リサイクル」の言葉は入っていません。ここにある素材は廃棄される運命だったものもあるけれど、それを全部持ってきて何とかしようとしているんじゃなくて、価値があると思ったものだけを選んで、必要とする人に渡していく、という取り組みなんです。
 
 

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リテイル館内にはものづくり企業やデザイナーのアトリエなど、現在8組が入居している。「何かつくってみたい」という初心者から講師養成まで対応するバッグ工房や、デジタル繊維加工のショップ、こだわりのリフォーム工房など、他にはないテナント構成かも。」と、稀温さん。混沌とした独特の雰囲気が、何度も来たくなる理由なのかもしれない。

 
 
― 価値に気付くことで、新たな発見や、ものづくり、そして人のつながりが生まれるんですね。これから活動を継続して、成果をどのようにして未来につなげていきたいですか?
 
稀温:尾西繊維協会ビルを「Re-TaiL(リテイル)」と名付けたのは、「小売り(retail)」や、尾州の「尾(tail)」、再生の「Re〜」などから。繊維の街の新拠点に生まれ変わりましたが、ひとつの「点」ではなく、将来的には「面」として市内の他のエリアも一緒に再発見できるといいと思っています。また、ふらっと訪ねてくださる「実はすごい人」が地元にもたくさんいるし、遠方からもいろんな方が来てくださるので、ここでもっと多くの人が出会って、「場」をつくる人が増えていくと楽しくなると思います。実際に展示やマーケット、ライブなどを実行してくれた人たちもいるし、別の場所で価値を発信してる人たちもいるので、どんどん連携していけたらいいですね。
 
 
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