インタビュー・モノ

今、新たな鼓動をもって展開している「東海のものづくり」にスポットを当てて、作り手の想いやこだわりに迫ります。ものづくりの宝庫ともいえる、東海エリア。有名どころから知られざる逸品まで、掘り起こします。


 

愛知県豊橋市近郊で生産され、200年以上の歴史を誇る伝統工芸品・豊橋筆。書道用をはじめ、日本画用、化粧用など用途に合わせて何百もの種類を持つ、日本を代表する高級筆のひとつです。豊橋筆の筆部分はヤギや馬、イタチの毛など100%天然素材。そのため水の含みがよく、滑るような書き味が特長。
 
江戸時代から続く独自の技法を受け継いだ職人のみが作り出せる高い技術を用いて2017年に商品化されたのが、繊細な筆先で子どもの顔や体をやさしく洗いあげる筆「福筆(ふくふで)」です。
 
「福筆」を手がけるのは、豊橋筆を50年前から作り続ける伝統工芸士のひとり、川合毛筆の川合福男さん。その川合さんに「福筆」を作ってほしいという話を持ち込んだのは、豊橋市役所に勤める吉開仁紀さん。「福筆」誕生の立役者となった2人に話を伺いました。

 

(提供写真)
 

父親の視点から子どもと触れ合える商品を提案

 
「川合さんが豊橋筆の技術継承のため、後継者の育成に奮闘する姿に心を打たれ…。同じく豊橋の文化を大切にしたいと思っている自分にも何かできないかと、さまざまな分野の方に相談していました。その中のひとりであるデザイナーの南木隆助さんから『豊橋筆のなめらかな肌触りを生かして、子どもと一緒に使えるものが作れないかな』と提案を受けたんです。
 
試しに水を含んだ状態で肌を滑らせてみたらとっても気持ちがよくて、繊細な子どもの肌を洗う筆にしてみてはどうかと意見が一致しました。私自身、小さい子どもを持つ父親。子どもと触れ合いながら親子浴が楽しめるツールができれば、豊橋筆の新たな展開が生まれるかもしれないと感じました」と吉開さん。

 

↑ 豊橋市役所の吉開さん。豊橋に根付く古き良き文化を広めたいと活動しています。
 

豊橋筆の特長を最大限に生かした商品づくり

 
吉開さんと南木さんは、早速川合さんの元へ。「子どもの肌に触れるならと、豊橋筆に使う素材の中でも細くてやわらかいヤギの毛を使うことにしました」と川合さん。いくら気持ちがいいからと筆の感触をやわらかくしすぎると、濡れた時にしぼんでしまいうまく洗えないし、硬くすると泡立ちはいいけど繊細な子どもの肌には刺激が強くなってしまう。やさしい肌触りを保ちながらもしっかり洗える硬さを求めて、何度も試作を繰り返したのだそう。
 
「はじめは平らに揃っていた毛先を、よりなめらかな肌触りと、ふっくらとした温かみのある見た目になるよう、丸みをもたせてほしいとお願いしました」と語るのは吉開さん。こうして皆で話し合いを重ねながら、少しずつ「福筆」の筆部分が完成に近づいていったのです。

 

↑ 穏やかな語り口と優しい笑顔が魅力的な川合さん。
 

↑ ミリ単位での微調整を繰り返し、「福筆」のきめ細やかな肌触りにたどり着きました。
 

↑ 「福筆」の制作に携わる、川合さんの弟子の中西由季さん。川合さんの温かい人柄に惹かれて、弟子入りをお願いしたのだそう。
 

デザイン性と強度を兼ね揃えたヒノキの持ち手

 
また「福筆」は持ち手部分にもこだわりが。持ち手を作っているのは、緑豊かな愛知県北設楽郡設楽町で木と革を使った商品の製造・販売している「木と革aoyama」の木工職人・青山和志さん。
 
選んだのは水湿に強く、さわやかな香りが特長の奥三河のヒノキ。「筆は使うたびに、根本に水が溜まって劣化しないよう吊るして乾かすものなんです。『福筆』も長く愛用できるよう、持ち手をフック状に。耐久性とデザイン性が両立するよう、納得するまで何度も作り直してもらいました」。持ち手部分にも、豊橋筆ならではのアイデアが生かされているんですね!

 

↑ 左2番目から吉開さん、木工職人の青山さん、デザイナーの南木さん。豊橋市役所の所員たちの意見を聞きながら、何度も改良を重ねました。(提供写真)
 

↑ 「福筆」は出産のお祝いにもぴったりです!
 

5人の力が合わさり、豊橋筆の新たな可能性を生み出す

 
開発から2年の月日をかけ、ようやく完成した「福筆」。豊橋筆職人の川合さん、中西さん、アイデアをくれたデザイナーの南木さん、木工職人の青山さん、そして豊橋筆の素晴らしさを多くの人に伝えたいと皆をまとめた吉開さん。職人の卓越した技術と5人それぞれの専門知識と豊富な経験が「福筆」を生み出しました。
 
後編では、豊橋筆の伝統技法を用いた制作過程、川合さんや吉開さんの福筆への熱い想いをご紹介します。お楽しみに!
 
(撮影:西澤智子 文:松本翔子)
 
後編はこちら
 
 

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