インタビュー・ひと

「こんなことしたらおもしろいかも!」を実現した人、また、東海エリアに新たな息を吹き込んだ立役者となる『仕掛け人』にインタビュー。仕掛け人の存在や想いを知ることで、イベントや場所がよりイキイキと目に映るはず!


 
三重県鈴鹿市の白子(しろこ)地区では、着物の生地を染める際に用いる型紙「伊勢型紙」づくりが古くから行われてきました。江戸時代には紀州藩の保護を受けて型を彫る職人が多く生まれ、型紙づくりを根付かせてきたと言われています。友禅、ゆかた、小紋など、さまざまな柄や文様を染める際に用いられてきた伊勢型紙。しかし、着物離れが進み、“染め”よりも“プリント”が主流になってきた現代では職人が減少しています。型紙の彫刻を手掛けてきた祖父を持つ木村淳史さんは、伊勢型紙づくりの技術を身につける施設・修業型ゲストハウス「テラコヤ伊勢型紙」を2017年春からスタート。伊勢型紙のまち・白子への想いや、この空間で実現したいことを伺いました。
 

 

 
― 白子地区には、古い町並みが多く残っていますね。白子出身の木村さんにとって、伊勢型紙の職人さんはどんな存在でしたか。
 
木村:小学生の頃、職人さんたちの作業部屋が通学路に面していて、窓越しに型紙を彫っている姿をよく見ていました。職人さんたちの手の動きに興味があったし、当たり前のように身近にある風景は、白子になくてはならないものだと思います。
 
―職人さんの姿を残したいんですね。
 
木村:白子の原風景のようなものだと思うんです。元々僕は東京で学生生活を送り、名古屋に就職したのですが、組織で働く生活に合わずうつ病を患い、退職してしまいました。誰かのもとで働くよりも自分の考えをかたちにしたいという思いが強かったんだと思います。退職後は、地元である白子に戻ってきたのですが、白子で何かやるなら伊勢型紙を使ったサービスや商品の開発だろうと考えました。でも現実は、職人さんが減っている。それなら職人さんを育てなければ、と思い、まず祖父の友人でもある伊勢型紙職人・伊藤肇さんに彫り方を教わり、その後、「テラコヤ伊勢型紙」の立ち上げを決めました
 

↑ 伊勢型紙職人であった祖父は、「お年玉もやれへん」と言って、職人として仕事を続けることに苦労していたそう。職人を育てても将来が保証できないからと、まち全体でも技術継承には消極的だったようです。
 
―修業型ゲストハウス「テラコヤ伊勢型紙」は、通常の体験施設とはどう違うのでしょう?
 
木村:1日体感コース、1泊2日の「オリジナル制作コース」、4泊5日(通いで6日間)の「弟子入りコース」の3つを用意しています。切り絵に興味のある方や、かつて職人になりたかったけど諦め、また挑戦してみたいという方からのお問い合わせが多いですが、さまざまな考え方をもったクリエイターと関わることで、僕自身も刺激を受けています。
「弟子入りコース」では伊勢型紙職人がもつ技術のすべてを教えます。浴衣、手ぬぐいの制作方法、小刀の研ぎ方、ノリの作り方など職人技をトータルで学んでいただき、コース修了後も継続して型紙の仕事をお願いすることがあります。
 

 

 
―観光としての体験というより、クリエイターや職人になるためのワンステップとして位置づけられているのですね。
 
木村:元々何かの制作活動を行ってきて、プラスアルファでスキルを身につけたいという方にとって、価値ある経験ができる場だと思います。型紙は、機械ではなく手で彫るからこそ生まれる、独特のゆらぎが魅力です。熟練の職人がつくれば、伊勢型紙で染めた反物と、プリントでつくった反物は、正直、ほとんど見分けがつきませんが、初心者の方は線を引くことに慣れていないため、そのガタガタ感がかえって味になります。そうした雰囲気もお楽しみいただけると思います。
 

 
―それにしても、職人を育てるしかないと思い立ってからわずか数ヶ月で古民家物件を改修し、事業を立ち上げている。そのスピード感が素晴らしいですね。
 
木村:2016年10月に「修業型ゲストハウス」を考案しました。翌月にはもう、白子のリノベーション団体「Blanc-Co」が改装していた古民家での開業が決定し、トントン拍子で進んでいきました。資金はクラウドファンディングで調達しました。その後、彫刻に使う道具を集めるために、近隣地域1200軒ほどにポスティングを行いました。
 
-エネルギッシュ!木村さんは、SNSを使った情報発信も強みですね。
 
木村:「ハイブリット職人」という肩書で活動しているのですが、職人だけで食べていくには厳しいこのご時世、僕ひとりのチカラでは大きなムーブメントを起こせない。だから職人+発信者という2足のわらじを履くことで、いろんなクリエイターにこの活動を知らしめ、集ってもらい、新たなムーブメントを生みたいと考えているんです。僕の目指すところは、職人になることではなく、次のムーブメントへの投資なんです。
 

 
-ずばり、「テラコヤ伊勢型紙」のゴールは何でしょう。
 
木村:2020年までに、白子をテキスタイルクリエイターが集うまちにしたい。今、染め工房は主に浜松、東京、大阪にあり、型紙の後の工程まで白子で担うことができていない状況です。ですから、染め工房と服飾のコ・ワーキングスペースを白子に立ち上げ、「テラコヤ伊勢型紙」でデザインした型紙を使って染めたり、商品開発をして販売することに取り組みたい。白子で生産から販売まで一貫して行うことで、初めてこのまちが潤っていくのではないかと考えています。
地方で活動していると、近所で評判が立ちやすいんです。東京だったら、事業に失敗しても「どこのだれが~」なんてウワサはたちませんよね。だから、地域でチャレンジすることは、自分の責任感やプレッシャーとの闘いでもあると思うんです。2020年に向けて事業規模を拡大していくため、いまは一緒に挑戦する仲間集めに注力しています。ただ単に産業として残すのではなく、「産業があるまち」を残す取り組みに共鳴してくれる仲間を求めています!!
 

 
(文:塚本千晃)
 
 

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