インタビュー・モノ

今、新たな鼓動をもって展開している「東海のものづくり」にスポットを当てて、作り手の想いやこだわりに迫ります。ものづくりの宝庫ともいえる、東海エリア。有名どころから知られざる逸品まで、掘り起こします。


江戸時代のはじめ、徳川家康が江戸に幕府を開いてまもない1608年に生まれた有松絞り。国の伝統工芸品にも指定されている有松絞りを、長く着られるスタンダードな洋服へとモダンに進化させたのが、アパレルブランド「cucuri(くくり)」です。
手がけるのは、有松絞りの製造卸売業を営む山上商店の代表・山上正晃さんと、アパレルメーカーで商品開発の経験をもつ今井歩さん。ふんわりとした立体感で程よいアクセントが魅力的なアパレルブランド「cucuri」に密着しました。

 

有松絞りを長く大事に着てほしい

 

「cucuri」立ち上げのきっかけは、クリエイターが集まるイベントにて代表・山上さんとディレクター・今井さんが出会ったこと。当時、有松絞り製造の老舗・山上商店を営んできた山上さんは有松絞りを洋装に活用し、販路を広げることを考えていました。一方、前職でサイクルの早いファッション業界に携わっていた今井さんは「素材・デザインの大量消費」に疑問を感じていたといいます。
 
「私自身、“これからは長く大切にできるものを自分の周りに置きたい”という考え方に変わってきていた時期でした。そんな中、“長く着られる有松絞りの服”を作ろうとしている山上さんの考え方に共感したんです」と今井さん。「現代のライフスタイルに合った、いろんな人に長く着てもらえるベーシックな有松絞り」をコンセプトに「cucuri」の商品づくりが始まりました。
 


↑「cucuri」についてお話ししてくれた山上さん(左)と今井さん(右)。

 

有松絞りの「くくり」の形をあえて残すことが魅力に

 
ブランド名の「cucuri」は有松絞りの工程にある「くくり」加工に由来しています。「くくり」加工とは、図案に沿って布をつまみ上げて糸で巻き、固定すること。くくりの種類は100種類にも及び、多彩な図柄を生み出します。

 


↑くくった糸を抜く前の布がこちら。

 


↑糸を抜くとまるで生クリームを絞ったかのような、美しい絞りが現れます。
 

かつては図柄中心の平面生地が主流でしたが、1992年の「国際絞り会議」で生地の形状記憶技術「ヒートセット技法」が発表されたことにより、立体感を生かした手法が誕生。「染める」ための絞りから「凹凸を付ける」ための絞りへと発展しました。「cucuri」では、この「凹凸を付ける」ための絞りに着目し、現代のライフスタイルに合ったデザインを展開しています。
 


↑くくった糸を抜いて伸ばした有松絞り(左)と、くくりの形をそのまま生かした有松絞り(右)。

 


↑奥(薄い色)は糸がくくられた状態、手前(濃い色)は糸が抜かれた状態。

 

素材によって“絞り”がかもす質感が変化

 

商品の開発では、まず今井さんが絞りの種類を選定したうえでデザインラフを描き、山上さんが絞りの細かさなどを調節します。「同じ技法でも素材によって全然見え方が違うんです。方眼っぽく見えたり鉄っぽく見えたりゴージャスに見えたり…。“くくり”の加工の仕方によって、透け感が出たりもするんです」と山上さん。
「cucuri」最初の商品であるドレスシャツは、胸の部分に「蜘蛛絞り」を用いたもの。カジュアルにもフォーマルにも着ることができ、今も人気商品となっています。
 


↑素材と絞りの技法の掛け合わせで可能性が広がります。

 


↑今井さんが描いたデザインラフ。

 

↑人気のドレスシャツ。同じく「蜘蛛絞り」を用いた蝶ネクタイで遊び心もプラスできます。

 
有松絞りのさまざまな「くくり」加工を使って魅力的な商品を生み出す「cucuri」。後編では有松絞りの技法や「cucuri」の商品へのこだわりについて紹介します。
 
(写真:西澤智子 文:木村望)

 
 
後編はこちら
 

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