インタビュー・モノ

今、新たな鼓動をもって展開している「東海のものづくり」にスポットを当てて、作り手の想いやこだわりに迫ります。ものづくりの宝庫ともいえる、東海エリア。有名どころから知られざる逸品まで、掘り起こします。


 
あたたかい陽気に誘われて、ピクニックやお花見に出かける人も多い春。そんなおでかけシーンに大活躍するのが、折りたたみチェア「PATATTO(パタット)」。フラットに折りたためて軽い!しかもバッグに入れて持ち運ぶことができるんです。
手がけるのは、愛知県春日井市に本社を持つ「イケックス工業」の自社ブランド「SOLCION(ソルシオン)」。2018年に新型が発表された「PATATTO」の開発秘話に迫ります。

 

 

“これまでにない”がコンセプトの自社ブランド

 

「PATATTO」を制作している「SOLCION」はイケックス工業の自社ブランドとしてはじまりました。イケックス工業は電気鋳造技術を生かした金型製作が強み。日本で初めて電鋳技術を金型に応用したパイオニア的存在です。
 
「SOLCIONの“これまでにない製品を、提案し続けていく”というコンセプトには、独自の技術を持ったイケックス工業の精神を受け継ぐ意味も込めました」と話してくれたのは、技術開発部部長の濁川(にごりかわ)保さん。濁川さんは長年金型設計や機械設計に携わってきた金型のプロです。

 


↑今回取材した濁川さん。2011年のブランド立ち上げ時から「SOLCION」に携わっています。

 

偶然が重なって実現した「PATATTO」開発

 

軽くて汚れにくいうえ、フラットにたためるPATATTOは、コストと適正素材の面から1度開発を断念したことがあるそう。「国内外の様々なメーカーを視察する中で、プラスチックだけどしなやかな発泡ポリプロピレン(PP材)素材でファイルケースを作っている会社がありました。湾曲させやすい特性が、PATATTOに応用できるのではと開発を再スタートしたんです」。
 
厚さわずか2.5mmの発泡ポリプロピレン(PP材)という素材。織り目を付けても曲がりやすく、中に細かい空洞がある素材なので水にも浮かぶくらい軽いのだとか!
 

↑PATATTOシリーズは薄型で持ち運びもラクラク。1度に何枚も手に持てるのもうれしいポイント。

 

インパクト大!耐荷重100㎏を目指す

 
「PATATTO」シリーズのイスはどの製品も耐荷重100kg。薄くて軽いPP材を使用しているとは思えない耐久性に驚きです。そこには濁川さんの設計のノウハウが生きています。「強度を増すために曲線にこだわりました。例えば旧型『PATATTO』に入っているS字のラインや弧を描いて入れたロゴも、強度を出すための工夫なんです」。

 

↑「PATATTO」の設計図。CADソフトを使用して図面を制作しています。

 

材料力学では応力の分散というこの技術は、曲面を用いることで素材自体に強度を増す方法。1枚の紙ではペラペラでも丸めることで軽いものなら乗せられるように、素材は曲線によって強くなるのだそう。
 
「実は旧型『PATATTO』のロゴ部分は型押しで素材が薄くなる分耐久性も弱まってしまうんです。でも商品を知ってもらうためにどうしても入れたくて」。はじめは横1列に型押しで入れていたロゴ。しかし負荷をかけて検証をすると、応力集中でロゴの部分で折れてしまったそう。そこで弧を描いてかかる負荷を分散させる設計に。

 


↑同じ力で押してみると…直線より曲線を用いた方が、強度が増していることがわかります。

 

↑「PATATTO」のロゴは持ち運ぶときにも読めるよう、逆さ向きにも入れたそう。

 

ユーザーの声で広がる「PATATTO」シリーズ

 
2018年に発表された新型「PATATTO」シリーズは、ロゴをなくして強度を増したほか、座面の高さも旧型より高めに設計。特に特徴的なのがお尻の形にフィットする座面のカーブ。靴磨き職人が長年使用した木製椅子がお尻の形にすり減ったという記事を見て参考にしたそう。

長時間座ってもつかれにくく、更に座面の沈み込みが浅くなったことで旧型よりも簡単に開けるように。「ご高齢の方からは座面の高さが30㎝以上でないと座れないというご意見や、もう少しラクに開きたいとご意見があったんです。使いやすさや座り心地などお客様の声でシリーズが増えていきました」。

 


↑旧型(左)と新型(中・右)の比較。右は「PATATTO320」という商品で、地面から座面までの高さが32㎝と高齢者でも使いやすい設計に。
 

↑座面の下に隙間を作ることでクッションの役割を果たし、座り心地がよくなったそう。

 
野外フェスやイベントの会場などでイスとして重宝するのはもちろん、飛行機などの長時間移動の際にはオットマン(フットレスト)としても活躍する「PATATTO」シリーズ。後編では「PATATTO」シリーズの製造現場へ潜入。イケックス工業のノウハウを生かした製造ラインをご紹介します。
 
(写真:西澤智子 文:堀絢恵)
 
 
後編はこちら
 

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