インタビュー・モノ

今、新たな鼓動をもって展開している「東海のものづくり」にスポットを当てて、作り手の想いやこだわりに迫ります。ものづくりの宝庫ともいえる、東海エリア。有名どころから知られざる逸品まで、掘り起こします。

前編はこちら

岐阜県郡上市でニホンミツバチと暮らし、蜂蜜やフィナンシェなどの洋菓子、スキンクリームなどのライフスタイルブランド「シシ七十二候(シシ シチジュウニコウ)」を手がけるThe Collaborationの西村玲子さん。後編ではニホンミツバチとの暮らしや生態について、話を聞かせてもらいました。
 

 

養蜂業というよりは不動産業

 
プロダクトを手がけるだけでなく、巣箱を用意し、プロダクトの原料となる蜂蜜を採取するのも西村さんの仕事。「私たちがしているのは養蜂業というより不動産業に近いんです。自然に生息するニホンミツバチは人が立ち入らないほうがうまくいく領域がある。私たちはニホンミツバチが入りたいと思うような巣箱を提供し、家賃として1年に1回蜂蜜を分けてもらう。そんな関係性でありたいんです」と話します。
 


↑12年前からニホンミツバチと暮らしているという西村さん。
 

春から秋に活動し、群を増やしていく

 
春に蜜を求めて花のまわりを飛びまわっているニホンミツバチですが、巣箱でどのように過ごし、どのようにして蜂蜜が採取できるのでしょうか?
 
「巣箱には女王蜂1匹と、たくさんの働き蜂がいます。桜が咲く頃になると女王蜂が巣の中に卵を産み、その中でも王台(おうだい)とよばれる部分に産みつけられた幼虫に働き蜂がローヤルゼリーを与えると、その1匹だけが女王蜂になります。新しい女王蜂が生まれると、もともといた女王蜂は新しい女王蜂に巣箱を譲り、半分ほどの数の働き蜂を連れて巣別れしていくんです。その巣別れのことを分蜂(ぶんぽう)といい、郡上市ではゴールデンウイークの少し前から6月初旬にかけて4回ほど行われます」。

 


↑ほかの巣穴より一際大きいのが王台。

 

西村さんは分蜂時期にニホンミツバチが入ってくれるような巣箱を用意し、たくさんの蜜を採取できるよう群を増やしていきます。仕掛ける巣箱は西村さんのお手製。郡上市は雪深くて寒いため、枠を分厚くし、ニホンミツバチが入りやすいよう枠には蜜蝋(みつろう)を塗っておくんだそうです。

 


↑3段で1つの巣箱に。

 

↑1番上の段には窓をつくってあり、ニホンミツバチの様子が見られるように。西村さんが師匠から教わり、工夫しているポイントです。

 

↑巣箱は森の中に仕掛け、ニホンミツバチが入ると、位置を移動させます。

 

統率をとって働き続ける、ニホンミツバチの社会

 

女王蜂の寿命は3~7年。働き蜂は、あまり動かなくなる冬は例外として除くと、24日ほど。女王蜂は春から秋にかけて卵を産み続け、働き蜂は蜜を採りにいき、秋が過ぎると巣ごもりして越冬します。
 
働き蜂は寿命が短いので、春から秋にかけて個体がどんどん入れ替わります。生まれた時期によって役割も違うのだとか。「巣の掃除をする蜂、幼虫を育てる蜂、花の密を採りにいく蜂。中には働かずに遊んでいる蜂も。でもそういう蜂はいざというときに強い力を発揮すると思うんです。人間社会に通じる部分があるような気がするでしょ?」と西村さん。
 
働き蜂はすべて雌。体がひとまわり大きくて黒い雄蜂は普段は働くことなく、分蜂時期だけ女王蜂と交尾をする目的で巣に現れるのだそうです。
 

↑巣箱の中には働き蜂がつくった巣が幾重にもできあがります。

 


↑美しい六角形の巣穴。よく見ると、表と裏で六角形の素穴の位置が微妙にずれているのがわかります。強度を保つためのニホンミツバチの工夫。芸術的です!

 

搾取ではなく、“寄り添う関係”でありたい

 

秋になると巣箱の1番上の段だけ外し、そこに溜まった蜂蜜のみを“家賃として”いただき、そのほかの段の蜂蜜はニホンミツバチの越冬用に残しておきます。できるだけニホンミツバチの野生に任せ、搾取ではなく“寄り添う関係”でありたいというのが西村さんのポリシーです。
 

↑採取時期になると、蜂蜜で巣箱がずっしりと重みを増します。

 

↑ざるにボウルを置き、垂れてきた蜜をそのまま瓶詰する、昔ながらの垂れ蜜製法。蜜を取り除いた蜂の巣はミツロウとして使います。

 

人が安心して暮らせる環境を守りたい

 

ニホンミツバチの野生を大切にし、寄り添いながら暮らしてきたからこそ見えてきたのが、自然環境の変化。農薬をはじめさまざまな要因により、ニホンミツバチは近年激減しています。
 
「ニホンミツバチが安心して暮らせる環境こそ、人も安心して暮らせる環境だと思うんです」。西村さんはシシ七十二候というブランドを通して、人間と自然の共存を模索し、環境にいい連鎖を生み出していきたいと語ります。
 
(写真:西澤智子 文:広瀬良子)

 
 

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