インタビュー・モノ

今、新たな鼓動をもって展開している「東海のものづくり」にスポットを当てて、作り手の想いやこだわりに迫ります。ものづくりの宝庫ともいえる、東海エリア。有名どころから知られざる逸品まで、掘り起こします。


後編はこちら→溝がないのにしっかり擦れて、器としても使える。食卓に幸せを届ける「かもしか道具店」【すりバチ】後編
 
溝がないのにしっかり擦れる。素材が溝に詰まることがないから、洗い物もラクラク。擦りたての素材を野菜などとそのまま和えて、器としても使える――
すりバチといえば溝があるもの、という固定概念を覆す「かもしか道具店」の人気商品、溝のないすりバチ。
かもしか道具店は、古くから萬古焼の産地として知られる三重県の菰野町にある窯元「山口陶器」のオリジナルブランドです。“食卓を通じ、幸せを届ける”という使命を持った、暮らしの道具の背景にあるストーリーに迫ります。
 

御在所岳の麓、菰野町の自然に囲まれ佇む「かもしか道具店」

 

↑ブランド名のもととなったニホンカモシカは、菰野町の「町の獣」としてシンボルになっています。
 

御在所岳をはじめとした山々に見守られ、のどかな時間が流れる菰野町。周囲に田んぼや畑が広がる道を進んでいくと、白い外観が目印の「かもしか道具店」があります。
 


↑実店舗ではオリジナルブランドの商品を販売するほか、4つの萬古焼の窯元が手掛ける「4th market」の商品や、セレクト商品がずらりと並びます。
 


↑お話をお伺いしたのは、山口陶器の代表取締役であり、かもしか道具店を立ち上げた山口典宏さん。
 

山口さんは大手化学メーカーで会社員を経験した後、脱サラして実家の山口陶器を継ぎました。
当時、一代目である父には、衰退していく萬古焼産業を継ぐのは負け戦だと反対されたそう。しかし、窯元仲間4人で立ち上げた「4th market」などで、今までの萬古焼にない現代的なデザインや新しいライフスタイルの提案に挑戦。その後、2014年にスタートした山口陶器のオリジナルブランド「かもしか道具店」でも注目を集めるようになりました。
 

擦りやすく、洗いやすい。使い勝手を考えた画期的なすりバチ

 


↑擦りやすくするため、すりバチの内側に鉄を塗ってザラザラした質感を生み出しています。
 
すりバチの開発のヒントは、器などの製造過程で釉薬の色味を調整するのに使う“乳鉢”にあったといいます。「乳鉢で釉薬を混色しているとき、溝がないのに粉砕できることに気づきました。乳鉢で釉薬が擦れるなら、すりバチで食材も擦れるはず、と溝のないすりバチの開発をひらめいたんです」と教えてくれました。
 


↑現在、すりバチのサイズは大・中・小と3種類。小さいサイズはスパイスすりバチとして、また、大きなサイズは人数の多い家庭向けとして、用途や家族構成にあわせて選べます。
 
ゴマなどを擦った後、溝に詰まらずサッと取り出せて、そのまま食卓に出せば器ひとつで済むので、洗い物も増えません。そのうえ、洗う際にも溝がないから手間いらず。
また、下のほうに厚みを持たせ、土台に重心をおいているのも特徴。縁を持たなくても安定して使えるので、すりコギを両手で持って擦ることができます。
 


↑シンプルで味のある見た目。色は白・黒・茶・藍の4色です。
 
ディティールにもこだわった、オリジナルのすりバチ。開発までには苦労したのでは?と思いきや、「むしろスピード感をもって開発しています」と山口さん。
「すりバチ自体は世の中に既にあるもの。未知のものを一からつくるわけではないので、発想さえできれば、あとは早いです。1回ずつ試行錯誤するより、最初にサンプルをたくさんつくってどれが良いか見定めます」。
 
いかにアンテナを張って、普段から商品開発のことを考えているか。意識することで、日常の景色も見え方が変わる。開発のプロセスに入る以前の“発想”の段階が大切だと語ってくれました。
 

“産地を残していく”ということ

 


↑年に4回新商品を出すと決めて、そのために24時間商品開発のことを考えているという山口さん。「かもしか道具店」の商品は実店舗のほか、公式サイトでのネットショッピングでも購入できます。
 
かつては多くの窯元があった菰野町ですが、近年、萬古焼の業者が減ってきています。山口さんが目指すのは、産地を残し、“良いものづくり”を次世代につなげること。後編では、そんな地場産業を守るための改革についてお伺いしながら、実際の製作風景を覗いていきます。
 
 
(写真:西澤智子 文:齊藤美幸)

 
 

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