「ものづくり」の背景にあるストーリーを紹介。作り手の想いやこだわりに迫ります。 ものづくり三重鈴鹿

 
平安時代から1300年以上もの間、三重県鈴鹿市で伝統が紡がれてきた「鈴鹿墨」。発色がよく、なめらかな書き心地が特徴で伝統工芸品にも指定されている貴重な品ですが、現在生産できる職人はなんと「進誠堂(しんせいどう)」の伊藤亀堂さん・晴信さん親子のみ。そんな伊藤さん親子は、鈴鹿墨の魅力をより多くの人に伝えるため、特徴を生かした新たな取り組みに次々と挑戦しています。その一つが、“色”と“きらめき”の要素を融合した「煌の彩(きらのいろどり)」。
伝統後継の期待を背負った、“墨の概念を超えるプロダクト”誕生の背景を伺いました。
 
 

ネットニュースで知った鈴鹿墨の危機

 

↑外観も黒を基調としたシックな雰囲気にまとめられた工房兼事務所。
 

三重県鈴鹿市に工房とショップを構える「進誠堂」。戦後から70年ほど4代にわたり鈴鹿墨を生産してきました。「高校までこの地で生まれ育ち、東京に進学してそのまま就職しました。当時、特に家業のことは深く考えていなかったんですよね」と話すのは、「煌の彩」の生みの親で4代目となる伊藤晴信さん。
 


↑墨職人になって今年でちょうど10年となる4代目の晴信さん。
 

しかしある日、晴信さんがネットニュースで見かけたのは鈴鹿墨の危機でした。「なんとなく感じてはいましたが、後継者問題がトップニュースとして上がってくるほど大事だったんだと驚いたのが正直なところでした」。晴信さんにとっては幼い頃から身近だった伝統工芸品。離れてみて初めてどれほど大切な存在なのかがわかり、何とかしたいという一心で鈴鹿に戻って修行に励んできたのだそう。
 


↑「昔は父の背中どころか、姿すら見ることはなかった」と言います。その理由は後編で。
 
 

伝統を守るために概念を超えていく

 
そんな伝統を守ろうと、鈴鹿墨ならではの発色のよさを特徴を生かして新たに生み出されたのが「煌の彩」。すでに3代目亀堂さんによって墨=黒の常識を覆す「色墨」の生産に成功していましたが、その色墨にさらに”ラメ”を加えることで、書き出される文字に立体感を生み出すことができる業界初の墨です。
 

↑ラメによって光を反射する「煌の彩」。
 

「もともと、“今までにないものをつくりたい”といろいろ試していく中で、黒い墨にラメを入れたらどうかなと思いついたんです。やってみたらとても美しくおもしろいと思ったので、色墨で試してみたらラメとの相性もよくて。目立った作品を好まれる書道家の方や、アーティストの方によく使っていただいています」。青、黄、緑、紫、橙の5色を展開しており、文字を書くだけでなく絵画や染料としても使われているんだとか。
 

↑珍しさもあり5色のなかで一番人気は、真ん中のブルー。
 

「煌の彩」のような色墨は、1人の職人が一貫して生産を行う鈴鹿墨だからこそできる技術だと言います。「微調整ができるので書道家などのユーザーさんの希望に合わせた製品も生産しやすいですし、細かなことや新しいことにも挑戦しやすい。後継のためには今までのやり方を守り抜くだけでなく、どんな切り口でもまず知ってもらうということが大切だと思っています」。
 
 

文字に変わるとより輝く「煌の彩」の魅力

 
実際に「煌の彩」を使って作品を書いていただくことに。
 

↑とろみが出るまで10分ほど磨り続けると、鮮やかな青色に。
 

10分ほどかけて墨を磨り、筆になじませてさらさらと美しい文字を書いてくれたのは、進誠堂のスタッフでありながら書道家としてイベントなどで書道を披露する万代香華さん。「こうして墨を磨っているときは重さでラメが沈んでしまうんですが、半紙に書くとキラキラと輝いてきれいなんですよ」。
 

 

↑半紙に青色の文字が書かれると不思議な感覚!
 

↑新鮮さの中に墨独特の懐かしい風合いを感じます。
 

言葉通り、筆を走らせると硯の上では発色の良さの方が目立っていた墨の中に、きらめきが現れました。ラメが入っている分、もったりとした書き心地なのかと思いきや特に影響はなく、通常の墨と書き心地は変わらないのだそう。「時間が経って乾くと、さらにラメが浮かび上がってきます。この変化も楽しんでほしいですね」と、万代さんは「煌の彩」の魅力を教えてくれました。

 

↑見る角度によってもきらめきが増します。
 

 

黒い工房でつくる色墨の難しさ

 
「煌の彩」の製造法について晴信さんに伺うと「色を付けるために顔料を混ぜていますが、その他の工程は通常の黒い墨と変わりません。すべて手作業です」。その中でとても気を付けているのが、黒が混ざらないようにすることなんだそう。「色の中で一番強い黒が混ざると、全て台無しになってしまう。簡単なことのように聞こえますが、そこら中原料の煤だらけで真っ黒の工房内ではこれがとても難しいんですよ」と、まさかの苦労話も。
 

↑爪の間も真っ黒に染まる墨職人の手。

 
晴信さんの手元を見れば、手作業で一つひとつ丁寧に作られていることが伝わってくる鈴鹿墨。後編では「煌の彩」のもととなる鈴鹿墨の製造工程を詳しく紹介していきます。
 
 
(写真:伊藤司 文:佐藤奈央)

 
 

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