イベントやスポットなど、新たなムーブメントの「仕掛け人」にインタビュー。 インタビュー伝統工芸愛知高浜市

 

 
愛知県三河地方の旧国名・三州は、江戸時代から日本の瓦の三大産地のひとつとして知られています。その理由は、瓦に適した粘土が掘れたこと、船便による運送が容易な場所であったことなど。そんな三州でつくられる「三州瓦」の鬼師熟練の技が光るのが「鬼瓦」です。
 
高浜市でオリジナルブランドYUHIRO(ユヒロ)を立ち上げ、鬼瓦を新しい形に変化させて若い世代に魅力を伝える鬼師・伊達由尋さん。現在、最年少鬼師でもある伊達さんの活動に迫ります。

 

― そもそも鬼瓦とは、どういうものなんですか?

 
伊達:鬼瓦は、古来より日本建築の屋根の端に設置される、厄除けや祈願を目的とした装飾瓦のことです。鬼面を真っ先に思い描く人が多いと思いますが、鬼面の鬼瓦は神社やお寺に使われることが多く、民家で使われるのは火災除けや天災除けに雲や水、植物などをかたどったものが一般的です。屋根を見上げてみると、意外と身近なところに鬼瓦があったりするんですよ。

― 23歳で鬼師の試験に合格した伊達さんは、2021年現在も最年少鬼師とのことですね!鬼師とは、どういう仕事をするんですか?

 
伊達:鬼瓦を専門でつくる職人が鬼師です。一般的な瓦は機械で量産し、型からはみ出た部分を取り除く作業のみ人の手で行いますが、鬼瓦は一から人の手でつくるため、熟練の技が必要です。昔は全国各地にいた鬼師ですが、現在は150人ほどに減っていて、その半数が西三河で活動。若い鬼師は特に少なく、洋風の家が増えたことによる瓦の需要減や、鬼師の高齢化などは年々深刻になっています。

 

― 伊達さんはなぜ、鬼師を目指したんですか?

 
伊達:天才鬼師と称されていた私の曾曾祖父の鬼師・浅井長之助の鬼瓦を見たのがきっかけです。高浜市の「やきものの里 かわら美術館」で見たのですが、鶴は今にも羽ばたきそうでしたし、亀は今にも波に乗りそうな躍動感に感動を覚えました!自分の手でも魂を吹き込んだような作品をつくりたいと思い、20歳で本格的に鬼師を目指しました。3人の師匠のもとで修業を積み、2017年に最年少の23歳で愛知県鬼瓦技能製作士(鬼師)評価試験に合格。2021年の現在も最年少鬼師です。
 

― 鬼瓦だけでなく、瓦の素材を使っていろんなものづくりに取り組んでいるのがユニークですね。

 
伊達:従来の鬼師はお客さんと接する機会が持てず、お客さんが何を求めているか知ることができなかったり、代理業者を経由して市場に出回るため、ときには1ヶ月半ほどかけてつくった力作でも安く売られてしまったりというもどかしさがありました。また、瓦は重いから台風などで飛んでしまったら危険と思われる方が多いのですが、今の主流のジョイント型の瓦は台風の影響を受けにくく、むしろ家に荷重をかけることで地震対策になったり、耐水・耐火性、耐寒性に優れていたりなど、たくさんのメリットがあります。そうした瓦の魅力を若い人たちに身近なものづくりを通して直接伝えられたら、衰退していく瓦産業を救うことができるのではないかと考えたんです。

― なるほど!実際には、どのようなものをつくっているんですか?

 
伊達:私の所属している伊達屋でオリジナルブランド「YUHIRO(ユヒロ)」を立ち上げ、瓦の素材の粘土で日常に使ってもらえそうなものや、お土産として手に取りやすいものをつくっています。たとえば、傘立てや燈籠、植木鉢、表札、ストラップなど。また、ギフトショーに出展したり、百貨店で展示会を開いたりして、直接お客さんと接点が持てるような機会を積極的につくっています。
 

― 瓦の素材、また鬼師が手がけるからこその魅力はありますか?

 
伊達:そもそも鬼瓦が縁起物なので、YUHIROのものづくりも縁起物がコンセプト。お客さんにも、使っているモチーフにどんな意味が込められているかを説明すると、とても興味を持ってくれます。
 

↑縁起物のストラップ。瓦の素材なので耐久性は抜群。気楽に身につけられて、運気アップが願えるとはうれしいですね!
 

↑コロンとしたフォルムがかわいい猿の置き物。猿には「不幸や困難が去る(猿)」という願いが込められています。
 

― 伊達さんが工夫しているポイントはありますか?

 
伊達:鬼瓦は正面の一面のみが見られることを前提に作られてきました。しかし、私はどの角度から見ても美しい作品づくりを意識しています。光のあたり方で陰影が変化する中で、お客さんの一番好きな角度を見つけてもらえたらうれしいです。きっかけは4歳から始めたバレエ。出演者は舞台上で360度どの角度から見られてもいいよう美しさを保っていないといけません。また、アニメが好きでフィギュア収集が趣味なのですが、フィギュアを見ていてもすべての角度からの目線を意識してつくられたものって精巧ですばらしいんです。

― 新しい作品づくりに対して、ほかの鬼師からの声は?

 
伊達:最初は受け入れてもらえない意見もありました。花をあしらった鬼瓦を見て、「こんなのは鬼瓦じゃない」「こういうのは作らないでほしい」と言われたこともあります。しかし、時代に沿う形で伝統を守り、鬼瓦や瓦の文化を大事にしたいというのが、私の思い。鬼師は「生涯修行」の精神で、70代や80代でも現役で活躍されている方が多い世界。そのような熟練の技術を受け継ぎ、新しいことにもチャレンジしていきたい。
 

 

― まわりの鬼師からのまなざしにも、変化があったそうですね。

 
伊達:最初は抵抗感を抱いていた鬼師の方々からも、最近はお褒めの言葉をいただけるように。上海芸術博覧会で手毬型の瓦を燈籠にした「手毬燈籠」という作品を出品したときのことです。従来の瓦作品は制作途中で割れないよう分厚く作るのが基本。しかし、手毬燈籠は光がよく通るよう、できるだけ薄く仕上げたんです。鬼師の方々からは「よくあんなに薄くつくれたね」と驚かれました。また、360度どこからでも見られるように展示することで、斬新な瓦作品を海外でも存分にアピールできました。
 

↑上海芸術博覧会で出品した「手毬燈籠」。細かい部分まで丁寧に削り込みがされています。
 

↑伊達由尋さんの作成した燈籠の底面。粘土を細くして仕上げているのがわかります。
 

― 高浜市に体験工房もつくったそうですね。

 
伊達:瓦の魅力とともに鬼師の技術を体験できる体験工房を2年前にクラウドファンディングで作りました。イベント出展だけでなく、実際にお客さんが技術を体験することで、より魅力が伝えられると思ったんです。体験工房は1~2週間に1度くらいのペースで開いていますが、ありがたいことに募集はすぐ定員に達しています。

― 今後の展望を教えてください。

 
伊達:一番の目標は、瓦業界全体が盛り上がること。そのためには、こちらからお客さんに歩み寄り、瓦や鬼師のことを知ってもらう必要があると思っています。私はアニメやマンガが好きなのですが、そうした異なる文化とコラボレーションすることで、今まで瓦とはあまり縁のなかった若い方や海外の方にも瓦の魅力を広めたいです。

 
 
(文:青野凌)
 
 

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