東海エリアの書店をリレー形式で巡り、書店員さんが愛読する本を綴ります。 名古屋金山


 
2020年12月に金山総合駅隣接の商業施設アスナル金山に開店した「丸善 アスナル金山店」。「毎日寄りたくなる」をコンセプトに多種多様な約17万冊もの蔵書が揃うほか、フロア内にカフェが併設されているのも特徴の一つです。
 
書店員の愛書バトン連載10回目となる今回は、同店文芸書担当の近藤貴之さんがセレクト。幼いころから小説が好きで書店員として働き始めたという近藤さん。夏目漱石などの文豪から村上春樹など現代作家まで小説をこよなく愛する近藤さんが、静かな夜をともに過ごすのにぴったりの本5冊をおすすめしてくれました。
 

『すべて真夜中の恋人たち』
著:川上未映子(講談社)

 
私が夜型だからなのか、どうしても昼間は読書に集中できず、気付けば夜遅い時間に本を開いています。そんな時間に読書をするからか、私の心に残るのは「夜」が印象的に描かれた作品が多いです。
 
川上未映子さんの「すべて真夜中の恋人たち」もそのひとつ。
 
内向的な性格で会社勤めが続かず、フリーランスで校閲の仕事をしている冬子という女性の物語。冬子には出版社で働く親友がおり、彼女を通じて仕事の依頼を受けたり、世の中のことを知ったりして、どうにか社会と繋がっている様な暮らしぶり。そんな静かな冬子の生活にはひとつ「決め事」が。それは毎年誕生日の夜にひとりで夜の街を散歩するということでした。(続きはぜひ読んでみてください!)
 
冬の夜のどこか寂し気な雰囲気と、そこに散りばめられたいくつもの光がぎゅっと詰まったような繊細で美しい一冊です。
 

『ダンス・ダンス・ダンス』 
著:村上春樹(講談社)

 
私の個人的な感想ですが、村上春樹さんの本も夜のイメージが強いです。
 
お洒落なバーでお酒と音楽を楽しんだり、こだわりの愛車で夜にドライブしたり。「大人の世界ってなんて素敵なんだろう!」と、村上春樹作品を読み始めた高校生の頃の私はその独特の雰囲気に夢中になりました。大人になって読み返しても、村上春樹さんの本に出てくる小粋な大人にはカッコいい!と思わされます。
 
「ダンス・ダンス・ダンス」は、先に書かれた「羊をめぐる冒険」の続編。キキという女性とドルフィンホテルというふたつの存在が、主人公を新たな冒険へと誘います。難しい印象を持たれる村上春樹作品ですが、「ダンス・ダンス・ダンス」は謎解きをしながらテンポよく物語が進み、とても読みやすい作品です。(もちろん村上春樹作品ならではのミステリアスな雰囲気も味わえます!)
 

『彗星の孤独』
著:寺尾紗穂(スタンド・ブックス)

 
寺尾紗穂さんは音楽家でありながら、ホームレスの方たちの支援活動や原発労働者への取材、戦時下に日本の植民地であった南洋を訪ねてルポルタージュを発表するなどさまざまな活動をしています。
 
私が寺尾紗穂さんを知ったのは、大林宣彦監督が自らの代表作である映画「転校生」をリメイクし、2007年に公開した「転校生―さよならあなた」を見たのがきっかけ。その映画の主題歌に寺尾紗穂さんの曲が使われていました。「彗星の孤独」には、大林監督の映画に曲が起用された経緯なども書かれており、両氏のファンとしても興味深い一冊です。
 
「彗星の孤独」には、音楽家として各地を旅する寺尾さんが、旅先で出会った多くの人たちとの交流や別れが描かれおり、時にそれが切なく自分のことのように胸に迫ってきます。寺尾さんの綴る穏やかな言葉に、孤独でどこまでも気高い彗星のイメージが重なります。
 

『夜と霧』
著:V・E・フランクル、翻訳:池田香代子(みすず書房)

 
2020年は生活や価値観が一変してしまった激動の1年になりました。未だに出口の見えない状況は、深い夜に例えることができるかもしれません。
 
そうした状況もあり、疫病と闘う人々の姿を描いたカミュの「ペスト」が昨年話題になりました。「ペスト」は、ナチスによる迫害を寓意的に描いた本としても有名ですが、「夜と霧」もまた、心理学者である著者フランクルがナチスの強制収容所で実際に目にした光景を綴った体験記です。
 
「夜と霧」では収容所で一切の自由が奪われ、次第に人を信じることもできなくなっていく過酷な状況が描かれており、どこか現在の状況と重なります。しかし、フランクルはどれだけ暴力で自由が奪われたとしても「その運命をどう受け止めて、どのような態度を示すのか」という、精神の自由だけは誰にも奪うことができないと語っています。
 
苦しい状況であっても、人としての尊厳を守ることの大切さに改めて向き合わせてくれる一冊です。
 

『斜陽』
著:太宰治(新潮社)

 
太宰治は私がずっと苦手意識を持ち、読まず嫌いをしていた作家でした。それは「人間失格」という代表作と自ら命を絶ったという最期があまりにも強い印象を残していたためです。
 
「斜陽」を読んだのはつい最近のことです。舞台は戦後、身分制度が廃され没落した貴族家庭。古い価値観を重んじる母と自暴自棄になる弟の狭間で、揺れ動きながらも必死に自分の人生を生きようとする主人公の姿が描かれた作品です。
 
斜陽という題名は戦争に負けて、「もう何もかも終わりだ、世界はたそがれて夜が来る」と人々が嘆いている状況を表したもの。そんな中で主人公は「朝ですわ、」と新しい時代を受け入れてゆきます。
 
この本を読み終えた私は、戦後の混乱した時代に本作がどれだけ多くの人に希望を与えたことだろうかと深く感動し、すっかり太宰ファンとなってしましました。
 
今年もまだまだ予断を許さない状況は続きますが、この一冊があることがとても心強いです。
 

  
併設するカフェでコーヒーを飲みながらゆっくりと本を選んだり、購入したコーヒーを片手にショッピングをしたりと、カフェ併設店ならではの楽しみ方は自由自在。子どもと一緒に本に親しめる児童書コーナーも充実しています。思い思いのスタイルで本を楽しむことができます。

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