イベントやスポットなど、新たなムーブメントの「仕掛け人」にインタビュー。 インタビュー


 
夫婦としての誓いをたてる人生で最良の日といえる結婚式。この素晴らしい日を写真に記録するのがブライダルカメラマンで、今回紹介する花井達さんもそのおひとり。東海エリアを中心に全国で活動する花井達さんが撮影する写真は、新郎新婦ほか、参列する親族や友人、同僚らのふとした瞬間にスポットライトを当て、人間ドラマが垣間見えるのが魅力です。
 
2020年8月には、12年に渡り撮影してきた作品をまとめた写真集『祝!結婚した』が赤々舎より発売。ハレの日の家族のさまざまな表情やシーンが、見る者の気持ちを温かくさせると話題を呼んでいます。そんなブライダルフォトの新しいあり方を提案する花井さんにお話を伺いました。
 

― 幼い頃の花井さんはどのようなお子さんでしたか。
花井さん(以下、敬称略):
 両親とも絵画や彫刻など、芸術関係の仕事をしていたせいか、アートが身近にある環境で育ちました。6×6判カメラがおもちゃ代わりのようにそばにあり、小学生くらいかな、自分用のコンパクトカメラを買ってもらい撮影するようになりました。空想したり写真集を眺めたりするのが好きな子でしたね。
 

↑子どもの頃に触っていた同じモデルのハッセルブラッドの6×6判カメラ。大切なコレクションのひとつ。
 
― 昔からカメラマンになりたかった?
花井: 
いえ、そこまでではないんです。ただ好きなことを仕事にできたら良いなとは思っていました。大学4年のときに就活セミナーで目にとまったのが、結婚式場なども運営している写真館でした。そこで採用されて、写真の技術を学びました。撮影も好きですが、どちらかというと人や結婚式が好きなんですよ。結婚式に集まる人、家族を見ているのが好きなので、その場にいられることが幸せで、仕事がとにかく楽しかったですね。
 

↑もの静かな印象を受ける花井さんですが、カメラを持つと「陽気なお兄ちゃん」になるのだとか。
 

― 結婚式の撮影ではどんなときに楽しいと感じますか。
花井: 
催しや演出などの表舞台ではないところで見せる表情が撮影できたときに喜びを感じるんですよね。人の感情が自然に動いたときの瞬間というのでしょうか。新郎新婦をきれいに撮影するのはもちろん大事だけど、結婚式という非日常で見せる表情ではなく、いつも家族に見せている素の表情、構えていないときの自然な姿や親族の日常が見えるような写真が撮れたときが楽しいです。

 

↑子どもの頃に戻ったかのように、嫁ぐ前日に家族に甘える花嫁。
撮影:花井達
 

↑撮影している自分が撮られているとは知らず、この良き日を収めようと大股を開きシャッターを切る親族の姿が微笑ましい1枚。
撮影:花井達
 

― 心許した親族に見せる、ふとした瞬間を逃さないのは大変ですね。
花井:
 子どもの頃から空想が好きだったと話しましたが、人間観察も好きだったんです。妄想、空想癖といいますか、その人の心情を想像するのが好きなんです。はた目からはボーとしているように見えるけど、表情や服装からイメージして頭はフル回転でいろんなストーリーを組み立てていました。昔から人の内面を見るクセがついているから、瞬間を逃さないのかもしれません。
 

↑ウエディングフォトコンテストでは数々の賞を獲得。その実力はお墨付きです。
 
― 表面だけではなく人の内面や気持ちを慮ることができるから、結婚式という非日常な空間でも素の表情が撮影できるのでしょうね。
花井:
 この仕事を始めた頃は、「記録」のために撮影していました。見えるものを、そのまま撮影する。それも大事なのですが、次第に華やかな写真ではないけれど演出以外で見せる表情も残しておいたほうが良いように感じてきたんです。
 
― 花井さんの写真を見た新郎新婦の反応は?
花井:
 結婚式当日、新郎新婦は緊張している上にやらなくてはいけない段取りに追われて、周りの様子を見る余裕がない。だからこそ、参列者のさまざまな表情を後から写真でゆっくり見てほしい、見ないで終わるのはもったいないと思ったんです。それを残すのが私の仕事だと思うようになりました。新郎新婦が写真を見て喜んでくれている姿を目にするときが一番幸せです。
 


↑病床の祖母に結婚報告をする新郎新婦。その陰で涙する母にもらい泣きしてしまいます。
撮影:花井達

 

↑ご先祖様に結婚の報告をする新郎新婦を、離れて見守る祖母。その背中からは優しさがにじみ出ていました。
撮影:花井達

― 人の喜びも自分の喜びというのは素敵ですね。独立されたのは、撮りたいものへのこだわりも関係しますか。
花井: 
 写真館で働いていたときは、フィルム撮影で使える本数が決まっていました。記録として残すべきところは漏れずに撮影しなくてはいけませんから、他のシーンを撮影するような余裕はありません。デジタルカメラに移行するタイミングで、自分が良いと思う瞬間を撮影するために独立することを決めました。独立したことで、記録としての撮影はもちろん、気持ちを写すことに集中できる環境になりました。
 

↑独立してからは、時間が許す限りギリギリまで作業に没頭しているそう。

 

― コロナ禍の影響で思うような結婚式を挙げられない人がほとんどだと思います。
花井: 
家に親族だけが集まる、昔の祝言に近いスタイルに変化している印象ですね。とはいえ、結婚式を挙げる喜び、これから家族になるのだという覚悟、それを周りが祝福するといった本質的なことは変わらないので、撮影自体も変わらないですね。
 

― 予定していた写真展も延期や中止になったようですが。
花井: 
はい。感染が収束したら、また展示会は再開したいです。展示会では、キラキラした記録写真もいいけれど、こういう“映えない”けれど、結婚式のありのままの様子を収めた写真もあるんだということを伝えたい。また、展示会に来てくださったみなさんの笑顔が見られるのも幸せだし、「癒された」「ほっこりした」といった感想も聞けてニーズがあることが分かって嬉しいです。たぶん、厳かな式の合間に見せるちょっと気を緩めた瞬間が、まったく知らない人の結婚式なのにどこか親しみを感じたり、自分の親族を重ねて見たりする人が多いんでしょうね。

 

↑写真集『祝!結婚した』(刊:赤々舎)の表紙を飾った写真は、展示会で一際目をひきます。
撮影:花井達
 
― ブライダルフォトの新たな魅力を開拓した花井さんですが、今後はどのような活動をしていきたいと思っていますか?
花井: 
私が撮影する結婚写真がどういうものか、少しずつ知られてきてはいるのですが、もっと多くの人、国内はもとより海を越え、世界中の人に知ってもらえるように活動していきたいですね。そして、写真を通じて多くの人とコミュニケーションが取れたらいいなと思っています。ゆくゆくは各国に出向き、その土地に根付く結婚式の風習を尊重しながら、私が見て感じた瞬間を写真に収められればと考えています。
 

 
結婚式ほど、家族や親族、人とのつながりを強く感じる場はないと話す花井さん。だからこそ、人が好きな花井さんにとって結婚式は居心地の良い場なのでしょう。これからも「心の機微を感じ、気持ちに寄り添う」写真家として見る人を癒してくれることでしょう。
 
(文:森川理香)
 

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