「ものづくり」の背景にあるストーリーを紹介。作り手の想いやこだわりに迫ります。 インタビュー北方町岐阜

かつては多くの家庭で当たり前のように祀られていた神棚。出かける前に拝んだり、年末には新しいお札に入れ替えたりと身近な存在でしたが、ライフスタイルや住宅様式の変化によって、徐々にその姿を見かけなくなりました。ですが、神様を敬う気持ちや日々の幸せを願う気持ちは不変なもの。そこで、時代にあった神棚を……と木工職人、手工業デザイナー、宮大工の3人が作り上げたのが、モダンデザインの神棚「GIRIDO(ギリド)」です。
 

華美な装飾のない凛とした美しさと、木の持つやさしさが感じられるギリドの誕生秘話を、商品企画を行ったwoodpecker(ウッドペッカー)の福井賢治さんに伺いました。

 

▼もくじ
・扉から音が響く、宮大工の技術「ギリ戸」
・希少な木曽ヒノキを使うのは、いい音のため
・見た目は変わっても、本質を受け継ぐために
 

扉から音が響く、宮大工の技術「ギリ戸」

 

↑お札を入れ替えるのは1年に1回。音が聞けるのも通常はその時だけですが、この音を聞くと、身が引き締まる思いがするはずです。
 
木曽ヒノキを使用し、宮大工が1つひとつ丁寧に作り上げているギリドは、現代の住宅にもなじむ
シンプルモダンなデザインが目を惹きます。お札を背面に挟み込む壁掛け型と、扉を開閉することができる置き型の2つがラインナップされているので、お札のサイズや設置場所に合わせて選べるのもうれしいポイント。しかし、ギリドの一番の特長は、置き型の扉を開閉する際の“音”にあります。お札を設置するために扉を開けると、「ギギギギ……」と木の軋む音が鳴り響くのです。
 

↑扉を開けてくれたのは、ウッドペッカー代表の福井賢治さん。小さな神棚から驚くほど大きな音が鳴ります。
 
これは「ギリ戸」と呼ばれ、神社の神殿の扉に使われる宮大工の特別な技術なのだそう。「神殿の扉が開かれるのは神事の時など特別な時だけなので、聞いたことがない方が多いかもしれませんね。神様って、そう簡単に拝見することができない、神聖な存在です。ですから、神殿の扉が開かれるときは、参拝者はみんな頭を垂れているんです。参拝者に『今、扉が開いて神様と向き合っていますよ』ということを知らせるために、わざと扉の開閉時に音が鳴るような仕組みになっているんです」と福井さん。
 
音が鳴る仕組みは、本体につなぎ留める扉の上下にある凸部分を、本体にある凹部分に合わせてカンナとノミで少しずつ削っていき、開閉ができ、かつ音が鳴るよう調整していくというもの。
 

↑置き型の扉の凸部分。本体の凹にはめ込むことができて、かつ音も鳴るように削っていくのが職人の腕の見せ所です。
 
当然、削りすぎればスカスカになってしまい、音は鳴りません。神殿建築の担い手である宮大工の中でも、熟練した職人しか出すことができないそうです。
 
 

希少な木曽ヒノキを使うのは、いい音のため

 

画像提供:woodpecker

↑加工前の木曽ヒノキ。
 
天然の木曽ヒノキだけを使っているのは、油分が豊富なため、年月が経ってもこの音を出し続けられるからという理由だそう。木曽ヒノキとは、長野県から岐阜県にわたる森林地帯で生産される天然のヒノキのこと。年間の伐採量が限られているため、希少な材料です。神社の扉に使われる材料でもあります。
 

↑木材をよく見ると直線の模様があります。これが柾目(まさめ)。年輪の模様であり、本数が多く間隔が狭いほどゆっくり成長した木ということです。
 
寒冷地でゆっくりと育つ木曽ヒノキは、目が詰まっていて油分が豊富な木材。目が細かいため木材が伸縮しにくく、だからこそ音が鳴るよう絶妙なサイズに調節したギリ戸が、年月を経ても音を出し続けられるのです。

 
 

見た目は変わっても、本質を受け継ぐために

 

↑壁に直接かけられる壁掛け型。壁に画びょうをさせば、背面のマグネットで留められます。
 
素材も作り方も、「本物」にこだわっているのには理由があります。ウッドペッカーといえばいちょうの木のまな板が全国的に周知されていますが、実は福井さんのルーツは、木地師の家系。お祖父さまやお父さまは神輿など神事に使われる道具の製作や、仏壇の製造に携わっていました。
 
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ウッドペッカー 天然木のまな板の記事はこちら→暮らしにそっと寄り添う、木の名前がついた台所道具【woodpecer(ウッドペッカー)】
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お祖父さまやお父さまの仕事ぶりや神仏に対する心の在り方などを常に横で見ていた福井さんにとって、神棚の見た目であるデザインは変わっても、その本質や心のあり方は受け継いでいきたいと考えるのは自然なことでした。実際の製作を担った宮大工の小保田庸平さん(唐箕屋本店)も、神事がだんだん廃れていき、技術の継承が途絶えてしまうことを危惧しており、本物にこだわりたいという思いが一致していたのです。
 

↑今どきのインテリアにもすんなり馴染むシンプルで美しい造形に、思わず見とれてしまいます。
 
手工業デザイナーの大治将典さん(Oji & Design)は、福井さんや小保田さんの思いを聞き、職人の製造現場を目の当たりにすると、「本物であること」に賛同します。インスピレーションがわいた大治さんがその場で描いた最初のスケッチが、ほぼそのままギリドのデザインとなったそうです。
 

↑壁掛け型は、扉の裏側にお札を設置するタイプなので、音は鳴りません。
 
後編では、ギリドを生み出した3人の出会いや完成までの課程、福井さんも予想できなかったというお客様からの反応、さらに3人の新コラボ商品について紹介します。
 

(写真:岩瀬有奈 文:河合春奈)

 

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