「ものづくり」の背景にあるストーリーを紹介。作り手の想いやこだわりに迫ります。 インタビュー幸田町愛知


 
「急須でお茶を淹れること」は日本人なら誰もがイメージできますが、自分で実際に行ったのはいつのことでしょうか。ティーバッグやペットボトルのお茶が当たり前という人にとっては、飲むたびにお茶を淹れるのは面倒と感じるかもしれません。そんな人にこそ使ってほしいのが「十年急須」。軽くて割れない樹脂で作られており、取り扱いもラクチンでお茶の作り置きができます。
 
十年急須を手がけるのは愛知県幸田町にある自動車関連部品の製造企業。シンプルモダンなデザインと軽くて割れないという機能性を兼ね備えた「十年急須」の誕生秘話を、企画製造を行っている鈴木化学工業所の小幡和史社長と、商品企画を担当した井下邦之さんに伺いました。

 

▼もくじ
・保温性・保冷性が高い二重層の構造
・冷却水タンクから連想して
・作ったことがないものでも独自性にこだわる
 

保温性・保冷性が高い二重層の構造

 
十年急須は一般的な急須と同じく取手とフタがあり、中に茶こしがセットできるようになっています。違いといえば、容量500mlとちょっと大きめサイズであることと、二重層になっていることです。
 

↑十年急須の構造について説明してくれた小幡社長。
 
二重層にすることで保温性・保冷性が高まります。また、熱いお茶を入れた際に急須の表面に触っても火傷をする心配がありません。冷たいお茶の場合は結露を防止してくれる効果も。急須いっぱいにお茶を作って茶葉だけ取り除いてデスクに置いておけば、いつでも1杯ごとに適した温度で飲めるという、現代のライフスタイルにあったデザインです。
 

↑商品企画を中心となって進めた井下さん。二重層にすることで空気の層ができ、保温性が高まります。
 
「実は昔から毎朝紅茶を淹れて飲むのが習慣で。朝出社したときにお茶を淹れて置いておける急須があるといいなと思っていたんです」と小幡社長。透け感のある乳白色の十年急須は、お茶の色も美しくみせてくれます。これは陶器の急須ではできない演出です。
 

↑小幡社長自身も十年急須を愛用。たっぷり紅茶を淹れて置いておき、デスクワークの合間にホッと一息つくことができます。
 

冷却水タンクから連想して

 
ところで、なぜ自動車関連部品のメーカーが急須を作ることになったのでしょうか。

 
鈴木化学工業所は自動車の冷却水を貯めておくタンクや、水素自動車の水素をいれる充填口などを製造しています。これらは走行距離を伸ばすため、軽い樹脂が素材に選ばれています。設計図から金型を作り、樹脂を流し込んで製品に。急須とは一見、無関係に思えますが…。
 

↑鈴木化学工業所の本社工場。機械や材料はきれいに整理整頓されています。
 
「愛知ブランドという集まりの中で、コロナ禍で元気のない製造業とデザイナーが手を組んで“おうち時間を楽しめる新しい商品を作ろう”という取り組みが始まりました。デザイナーの人たちに工場を見学してもらってブレインストーミングを行い、冷却水のタンクから急須が連想されたことが発端です」と井下さん。デザイナーが作ったラフ画をもとに、実際に製造できる形状へと修正を加えてデザインを完成させました。
 

↑デザイナーのデッサンから金型のCADデータを起こしたという井下さん。

 

作ったことがないものでも独自性にこだわる

 
冷却水タンクと急須。確かにどちらも水を入れておくものです。とはいえ、作ったことがないものを作るというのは、道なき道を進む開拓者のようなもの。戸惑いや不安はなかったのでしょうか。
 

↑日本茶以外に紅茶やハーブティーにも合うモダンなデザイン。
 
「ご存じの通り、コロナの影響で自動車関連工場はことごとく休業となってしまいました。当時、自動車業界は好調でしたが、コロナ禍で突然の減産となり対前年比は半分以下。一時的なものだとわかっていたので、人を雇用し続けることと設備を維持し続ける必要があったんです」と小幡社長は振り返ります。
 
そこでまず取り組んだのが、県から要請のあったフェイスシールドの製造。「作ったことがない製品なので無理だと思ったのですが、同じような中小企業がフェイスシールドを作ったのを知ってトライすることに。どうせ作るなら今世の中にあるものよりいいものを作りたいし、求めている人に早く届けたかった」。デザインして3Dプリンタで作って、微調整して…と試行錯誤の末、曇らない・おでこが痛くならないという独自性のあるフェイスシールドが完成。
 
既存のものの真似ではなく「作ったことがないものでも独自性を出す」というものづくりへのこだわりは、十年急須へも反映されています。
 

↑大きさや構造を工夫することで、ほかの急須にはないメリットを生み出した十年急須。
 
後編では十年急須の製造工程や「いいものを作る」というこだわりの源泉、今後の展開について紹介します。
 
◎後編記事はこちら
たっぷり淹れて、好きなときに適温で飲める!軽くて割れないモダンな急須【十年急須】後編
 
◎急須と湯飲みが一体型になった「CHAPTER(チャプター)」開発秘話の記事もチェック!
>>デスクワークのお供にほっと落ち着く日本茶を。新時代の湯飲み【CHAPTER(チャプター)】前編

 
(写真:岩瀬有奈 文:河合春奈)
 

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