古くから木工文化が根付く飛騨高山で、伝統工法に基づいた木のものづくりをしている「白百合工房」。ここで生まれたのが、飛騨高山のお土産として有名な「さるぼぼ」をモチーフにした積み木「TSUMIBOBO(つみぼぼ)」です。独特の形をしているからこそ、創造力を刺激するようなユニークな積み方ができるのが特徴。子どもが自分自身で遊び方を考えることができます。
静かな山あいに佇む工房を訪ねると、つみぼぼに込められた熱意と工夫を覗くことができました。
教員経験を生かした、木工のおもちゃづくり
↑白百合工房がいちばんこだわるのは、「とにかく安全で丈夫なものをつくること」。
つみぼぼの生みの親であり、白百合工房の2代目でもある上野望さん。以前は、小学校や中学校の教員をしていました。「社会の授業で子どもたちと縄文式土器をつくったり、竪穴式住居を建てたり、一緒に手や体を動かして教えることが好きだったんです」。
子どもたちとものづくりをするワークショップが開催できたら面白いだろう、と始めてみた木工。気が付けば「つくる楽しさ」に夢中になり、30歳頃から父と同じ木工職人の道へ。
↑一風変わった形をしていながら、子どもが積んで遊ぶにも難しくないバランスを目指しました。
「教員経験を生かし、かつての白百合工房にはなかった、子どものためのおもちゃをつくりたい」。
10代、20代から木工に携わっている同業の職人に比べ、遅いスタートとなった上野さん。その後は、研究の日々でした。木工技術の習得はもちろん、世界中のおもちゃを調べるように。試行錯誤を重ね、生まれたのがつみぼぼです。
↑上野望さんの父であり、飛騨最高齢の現役職人・上野良一さんが設立した「白百合工房」。
贈る側の想いに寄り添う「さるぼぼ」のモチーフ
↑さるぼぼと同じく、つみぼぼにも顔のパーツがないことで、見る人によって違った表情を感じ取れます。
さるぼぼの形にしたのは、知人からのアドバイスがきっかけでした。お土産としてだけでなく、子どもの健康を願うお守りでもある、さるぼぼ。子どもにすくすく育ってほしいという親の想いが込められています。
それは、子どもにおもちゃを選ぶときも同じ。「ただ楽しく遊んでもらうだけではなく、想いを込められるものをつくりたい」。そんな、おもちゃに対する上野さんの考えとも重なるものがありました。
異なる樹種の組み合わせによる、絶妙なバランス
↑おもちゃを調べ尽くした上野さんによると、ブロック以外で「円」をつくれるおもちゃはつみぼぼだけとのこと。
重ねて積むだけでなく、さまざまな積み方で遊べるつみぼぼ。その秘密は、頭のパーツと体のパーツで異なる樹種を使用していること。頭部はカエデ、胴体はスギ。ほかの木に比べ重いカエデを頭に使うことで、全体が均一ではない不思議なバランスになり、積み方のバリエーションが広がります。
↑木を1本ずつ切り倒すという、森林に優しい方法で伐採されたスギを使用しています。
頭に使うカエデは、地元・飛騨産。体に使うスギは、岐阜県・東白川村産。木工には広葉樹を使うのが一般的ですが、針葉樹であるスギを選んだことにも、こだわりがありました。
「山で行われた勉強会に参加した際、針葉樹が資源として使われずに余っていて、森林放置が問題になっていることを知りました。そこで、広葉樹だけでなく、針葉樹を組み合わせてつくってみたらどうだろうと思いついたんです」。
使う人次第で、新しい遊び方が生まれる
↑イベントで名古屋の女子大生が考案したという「しゃちほこ」。つみぼぼでつくると、動物もモノも不思議と“それっぽく”見えます。
頭と顔があるからできる組み合わせと、2種類の木を使ったバランスによって、遊び方が無限に広がるつみぼぼ。上野さんは、イベントの参加者などが発見した新しい積み方を「技」と呼んでいます。「なおみ」「さきちゃん」「小川さんのクリスマスツリー」など、考案者の名前がついた技がたくさんあるそうです。
↑どんどん高く積んでいくのもチャレンジ感があります。イベントではこんなに大きな作品も!
縦に、横に、斜めに、傾けたり、逆さにしたり。バランス感覚を身につけながら遊べます。厚みがあって安定しているので、ドミノとして遊ぶのにもおすすめ。倒れるときにはカタカタと良い音が鳴ります。
子どもの知育玩具としても安心して遊ぶことができ、大人も熱中してしまう面白さがあるつみぼぼ。後編では、「人との出会いによってつくりあげられた」というデザイン秘話に迫ります。
- 後編はこちら
(写真:西澤智子 文:齊藤美幸)
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