提灯+手紙!? 新たな発想が伝統工芸の未来を切り拓く
お祭りなどで見かける「提灯」は、日本の風情を感じさせる工芸品のひとつ。和紙の中で浮かび上がるあたたかみのある灯りはどこかはかなげで、ゆったりと流れる時間を演出しています。でも、生活の中でなかなか触れる機会がないのも事実。現代社会において「灯り」とは周囲を明るく照らす存在であり、利便性に優れた“ライト”が広く普及しています。「もっと多くの人に提灯に触れて、良さを感じてほしい」。そんな提灯職人の思いが形となったのが、「レター提灯」! 岐阜提灯協同組合が地元デザイナーとともに開発しました。
デスクにも置けそうな、小さくてコロンとした丸い形が、かわいらしい佇まいですね。真っ白な無地のタイプと絵入りタイプとがあり、大きな特徴が提灯自体にメッセージや絵柄を書き込むことができること! たたむと薄い板状になるので付属の封筒にすっぽり。140円切手を貼って郵便物として送れちゃいます。まさに、「レター」+「提灯」。こんな斬新な手紙が送られてきたら、びっくりすること間違いなし! 自分で提灯を組み立てる楽しさを味わえるのも、魅力のひとつですね。
人と提灯の距離をちぢめる。伝統を次世代に伝えるための挑戦
300年以上の歴史を誇る岐阜市の提灯づくり。暮らしの灯りという日用品としてだけでなく、美しき伝統工芸品として発展を遂げてきた伝統産業は、「岐阜提灯」の名で国の伝統工芸品に指定されています。そんな格式ある産業が、「レター提灯」をつくることになったきっかけとは?
岐阜提灯協同組合の理事長で、レター提灯の製造を行う株式会社オゼキ代表取締役社長の尾関守弘さんは開口一番、「若い人達に岐阜提灯の良さを知ってほしいからです」と答えてくれました。「お盆提灯として日本の夏を彩ってきた岐阜提灯ですが、若い世代が目にする機会は年々減ってきています。まずは気軽に提灯にふれてみてほしい。そのきっかけを担う存在として『レター提灯』を開発しました」。
“伝統産業を継続していくためには、若い世代にも提灯に親しんでもらわなければならない”。そんな現代のつくり手たちの使命感は、岐阜提灯を通じて新しいモノやコトを生み出すプロジェクト「GIFU LANTERN PROJECT」の設立につながり、その取り組みのなかで「レター提灯」が地元デザイナーから提案されました。「“新しい提灯の使い方”をテーマに、多くのデザイナーさんより提案があったなか、則竹由香さんの『手紙』という付加価値をつけた案にひときわ惹かれました。メールやSNSなど簡単なデジタルコミュニケーションが一般化している現代の若者だからこそ、アナログだけれども送る側のぬくもりが伝わる手紙というツールは新鮮に感じてもらえる。そう確信しました」。
送る人も受け取る人も嬉しい気持ちに。幸せの灯りをこれからも広めていきたい
手紙から伝わる「ぬくもり」と、提灯のやさしい光が放つ「あたたかみ」は、長年培われてきた岐阜提灯の技術によりひとつの形となり、日本そして世界に提灯の新たな可能性を広めています。現在は、主に岐阜市内の雑貨を扱うセレクトショップで販売され、旅行客からも人気を集めているとのこと。「旅の思い出にお土産として買っていく方や旅行先から親しい人へ送る手紙としてもお使いいただけています。送る人も楽しいですし、もらった人も『えっ?』と驚く。そんな日常のちょっとした幸せをつくりだす、あたたかみのあるツールとして活用してほしいです」。
「レター提灯」には、つくり手からのもうひとつの期待が寄せられています。それは現代社会に「癒し」をもたらす役割。「和紙から透ける提灯の灯りは暮らしを優しく包み込み、人々の心を癒してくれます。多忙な毎日を送りがちな現代社会にこそ、提灯は必要とされるのかもしれません。まずは『レター提灯』を通じて、若い世代にも日本伝統の『灯り』を気軽に暮らしに取り入れてほしい」と尾関さんは「レター提灯」に込めた願いを語りました。
長い歴史の中で培われてきた技術を生かしてつくられる「レター提灯」。その小さなフォルムには、つくり手の期待と愛情が詰まっていました。後編では、株式会社オゼキさんの工房にお伺いして「レター提灯」の制作工程を紹介します。「レター提灯」をつくり上げる職人さんの繊細な技を、ぜひお楽しみに!