
愛知県岡崎市、良質な花崗岩(御影石)の産地であり、日本三大石産地のひとつでもある岡崎市には、かつて350件ほどの石屋が軒を並べていました。現在では石屋はかつての5分の1ほど。そのひとつ、創業から100年続く稲垣石材店で、石の新たな価値に光を照らすのが石を使った器ブランド「INASE(イナセ)」です。
料理人の感性により、“石の器”が誕生
INASEの立ち上げのきっかけとなったのは、神戸にあるレストランのシェフからの連絡。4代目の稲垣遼太さんが会社で見つけた石の器をウェブ上にあげたところ、「オーダーできませんか?」という話が舞い込んできたそうです。神戸牛のステーキを提供するレストランで、ステーキをのせるメインの器として使いたい、という話でした。

稲垣さんは、シェフと打合せをしながら、黒い石で、マットな質感のフラットな器を制作。お店の重厚感ある雰囲気と石の器の相性が良かったことはもちろん、実際に器として使ってみると、ステーキの熱を保ってくれるという機能性への気づきもありました。それから、寿司下駄を石でつくってほしいという依頼が入ったりなど、INASEが少しずつ広がっていったそうです。



石そのものの風合いを持ち味に
転機となったのは、東京のレストランのシェフとの打合せでした。それまで石屋の経験上、石をきれいにカットしたり、磨いたりするつくり方に慣れていた稲垣さんでしたが、シェフからは石そのものの質感を残した器にしたい、との要望があったそうです。
「石そのものの岩肌や表情を魅力だと感じる人がいるんだという気づきは、直に求める人と話をしたおかげ」と語る稲垣さん。以降は、きれいに加工しすぎず、石の自然な風合いを程良く残したプロダクトへとシフトしていきました。

ブックエンドや蓋付き器に使っている石は、稲垣さんがとくに好きだという京都の鞍馬石(くらいし)。「山から玉石のように丸い形で出てくるのもかわいいし、外側が茶色く、カットすると中の色が違うのも、他の石にはない特徴です」と、その魅力について話します。

唯一無二であることが最大の魅力
石屋に生まれ、小さい頃から石が身近にある環境で育ってきた稲垣さんですが、2020年にINASEを立ち上げてからは、石の新たな価値が認められる機会が増え、石の魅力をより実感しているそうです。
自然物であるからこそ、同じ種類の石でも1つひとつ模様や形状が異なり、唯一無二の存在であること。それこそがやはり、稲垣さんにとって石の最大の魅力。だからこそ、今後も石の自然な肌を生かしたプロダクトを追求していきたい、と情熱を燃やします。

インテリアとして使えるものから、大きい建物での什器まで。稲垣さんの「身近に石があることが当たり前の風景を広げたい」という夢は、まだまだ膨らんでいきそうです。

稲垣石材店の2階にある「ギャラリー石室(せきしつ) 寿山(じゅざん)」では、試作した器を中心に、INASEのプロダクトを見ることができます。※要予約(080-2650-7495)

後編記事では、INASEの製造現場を紹介します。