名古屋港を音楽とアートで彩り、 こころ豊かな港さんぽをプロデュース! 【アッセンブリッジ・ナゴヤ ディレクター 吉田有里さん】インタビュー


 
休日に名古屋港エリアを訪れる楽しみといえば、名古屋港水族館や花火大会などが定番といったところ。しかし、ここ2年で新たな楽しみが加わり、まちのムードが大きく変化しています。
2016年からスタートしたアッセンブリッジ・ナゴヤは「まちで出会う音楽とアート」をテーマに、地下鉄築地口駅から名古屋港駅周辺で同時多発的にアート展示や音楽演奏会を行うプロジェクトです。立ち上げから関わっているディレクターの吉田有里さんに、その魅力や今年の見どころをお聞きしました。
 

 

↑ 取材場所の「港まちポットラックビル」は商店街にかつてあった文具店をリノベーションしてつくられた空間。「ポットラック」は「持ち寄る」という意味で、まちに暮らす人やアーティスト、それぞれの分野の専門家がアイデアを持ち寄って、新たな行動を起こすきっかけとなる場を目指している。
 
― 吉田さんは元々、横浜でアートイベントを手掛けていらっしゃったんですよね。同じ「港」でも、横浜港と名古屋港とでは雰囲気が違いますか?
 
吉田:はい。名古屋は横浜や神戸とは違い、「産業港」として歴史を刻んできました。人工的な建物がずらりと立ち並び、港湾内を往き来する巨大な船舶が望める。初めて来たとき、“働く港”のかっこよさを感じました。また、港まちポットラックビルのある西築地学区は昔から地元の港湾労働者をはじめ、名古屋港を訪れる船員たちも飲食を楽しめるまちとして栄えてきたからか、外から来る人を快く迎え入れるような素朴なあたたかさがあります。
 
― ふところの深い街なんですね。
 
吉田:地下鉄1本ですぐに金山や栄にも出られるし、坂道もない。だからお年寄りにも優しく、昔からこのまちに暮らし続けているという方も多くいらっしゃいます。
 
― そんなあたたかいムードが、音楽やアートのイベントを行うのにちょうどよいのでしょうか?
 
吉田:そうですね。実は私、過去2回、あいちトリエンナーレのアシスタントキュレーターとして長者町エリアを担当してきました。それが名古屋にアートで関わるきっかけだったのですが、地元である東京に帰ろうと思っていた矢先に、面白い取り組みが港まちで行われているという話を聞き、このまちに関わるようになりました。その後、アッセンブリッジに関わるようになり、市民組織の「港まちづくり協議会」、クラシック音楽やアートの専門家、アーティスト、デザイナー、建築家たちと、名古屋市が共同体として同じベクトルに向かって組織を運営していくスタイルを構築しました。それぞれのプロが自分の持ち場を守り、また、情報を共有しながらプロジェクトを進めていくやり方が、なんだかDIYでオリジナルのフェスティバルをつくっているようで、新しいと感じています。
 

 
― 第1回目のアッセンブリッジにおける現代美術展のテーマは「パノラマ庭園」でしたが、これにはどんな思いが込められているのでしょうか?
 
吉田:アッセンブリッジ・ナゴヤの特長は、築地口~名古屋港のまち歩きを楽しみながら音楽やアートに触れられることです。まちを“鳥の目”で見たり“虫の目”で見たりと、いつもとちがう視点で見ながら歩くことって、とても楽しい。だから、街をひとつの庭に見立てて俯瞰したり、近づいたりして観てほしいという思いが「パノラマ庭園」には込められています。あまり音楽も美術も詳しくないという方でも、まちを歩きながら自然に「鑑賞」に浸ることができるのは、このイベントならではです。
 
― なるほど、芸術初心者でも、音楽やアートに自然に触れられる魅力がこのイベントにはある。さらに、まちの資源を舞台に、劇場や美術館ではできない経験ができるのも魅力的ですね。
 
吉田:クラシック音楽のファンは固定化しているし、現代アートをどうやって味わえばいいか分からないという人は少なくないはず。そういった人にも、他者の価値観を作品から吸収するという「鑑賞」の魅力に気づいてほしいというのが私たちディレクター側の想いです。だから、意識しなくても心地よい音楽が「聞こえてしまう」、心を動かす作品が「見えてしまう」ような回遊空間をつくろうと、2回目である2017年も工夫を重ねています。
音楽はあえてステージをつくらず、会期中いつでもどこでも音楽が聴けるように無料公演を増やしました。現代美術展では、例えば空き家となっていた旧寿司店を改修したスペースで、アーティストユニットL PACK.によるモーニングのイベントを開催します。いつもより早起きして、彼らの作った新聞を読みながらモーニングを食べる特別な時間や空間、それ自体が「鑑賞」体験になります。身近なところから芸術を体感してほしいですね。
 

↑「南極観測船ふじ」をバックにヴィヴァルディの『四季』を演奏。(2016年/今井正由己氏撮影)
 

↑ 旧・潮寿司は「コーヒーのある風景」をテーマにしたアート空間に。(2016年/事務局撮影)
 
― 芸術に出会うきっかけが、まちなかに散りばめられているイベントですね! 今年のアートイベントのテーマは「タイム・シークエンス」だそうですが、その意図は?
 
吉田:昨年よりも音楽とアートの融合を重視しました。作曲家・ピアノ奏者として日本が誇る一柳 慧さんが1976年に発表した『タイム・シークエンス』は、2つの旋律が同時に奏でられるピアノ曲です。この曲のように、音楽とアートと港まちが交差するイベントにしたいですし、昨年訪れた人は、今年も訪れてみれば時の変化を感じることができる。さらに、昨年訪れていない人も、かつて見たことのある作品や、聞いたことのある旋律を「みなと」といういつもと違う空間で聞くことで違った捉え方ができるようなパラレルが起こればいいと願っています
 

↑(2016年/今井正由己氏撮影)
 

↑(2016年/怡土鉄夫氏撮影)
 
― 音楽も、アートも、まちも、そこに暮らす人も、時を経て変化する不思議や楽しさを体感できるんですね。
 
吉田:そうなることを目指しています。「時」のつながりを大切にしていきたいと思っているので、アッセンブリッジ・ナゴヤの閉幕後もアーティストとともに小さなイベントを少しずつ育てていきます。昨年の場合は、アートイベントで使った空間をアーティストたちにアトリエとして提供したり、ニットを素材に作品を制作するアーティストの宮田明日鹿さんが中心となって「手芸部」を立ち上げ、毎週地域の30代~90代の女性たちと編み物をしたり。アートをきっかけにこういうコミュニティが生まれ、根付いていくこと、継続させていくことが私たちディレクターの描いている夢ですね。
 

 
 

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