写真提供:フィセル
古来から人々の暮らしに寄り添ってきた藍染めの効能を生かし、丁寧な手仕事を経てつくられるベビー用品を中心とした「Aiシリーズ」。手がけるのは愛知県蒲郡市でベビーや家族のために幅広いものづくりを展開する「フィセル」と愛知県西尾市で天然染料と手染めの魅力を生かしたアイテムを制作する「渦-uzu-」です。
後編では「渦-uzu-」の染色現場に潜入し、手でひとつずつ染めていくという藍染めの工程を見学させてもらいました。
↑ 祖母の家を改装したという「渦-uzu-」の店舗。子どもも参加できる「染め体験」も開催しています。
↑ 店内には藍染めのほか、柿渋やザクロなど草木染めを施した多彩なアイテムが並びます。
慎重な手作業が生み出す、白と青のコントラスト
「Aiシリーズ」はベビー用のじんべいやミトンのほか、ママが使えるケープストールやベットカバーとしても使えるおくるみなど、さまざまなアイテムが揃います。「藍染めしていることをわかりやすく表現するために、あえて白い部分を残したデザインのアイテムは、染めるのに苦労しました」と語るのは、藍染めを担当する「渦-uzu-」の青木愛さん。
↑ ご主人の青木淳さんと。2人が持っている鮮やかな色の生地は、碧南市で獲れたにんじん「碧南美人」を使って染めたもの。
じんべいやニットキャップなど、白と青のコントラストが美しいアイテムは、細かな縫製を施し、あとは染めれば完成という状態で愛さんの元へ届きます。「白く残す部分に藍色が少しでもついてしまわないよう、作業は慎重に。どのアイテムも染めた部分ができるだけ一直線になるように染料に浸すのですが、じんべいは生地を前で重ねた際に染めた部分がキレイに揃わず、特に難しかったですね」。
↑「Aiシリーズ」に使われているのは、肌が敏感な赤ちゃんでも安心して着られるよう、できるだけヨリを甘くして織り上げた、やさしい手触りの「ふわガーゼ」。フィセルのものづくりに長年携わる、高い技術を持つ縫製工場が仕立てています。
↑ 上の部分を白く残したニットキャップは、富士山をイメージしてデザインした遊び心あふれるアイテム。
経験と感覚を生かし、藍と真摯に向き合う
早速、白い部分を残すアイテムの染色作業を拝見させてもらうことに。まず生地についた糊を落とす「糊落とし」からスタート。「生地に少しでも糊が残っていると、染料が入っていかず仕上がりにムラができてしまうんです。丸1日ぬるま湯につけ、しっかり糊が落ちているか確認しながら丁寧に洗います」。藍がまっすぐに染まるようハンガーに吊るしたら、染料が入った甕の中にゆっくりと生地を浸していきます。「染料液の濃さや状態をよく観察しながら、同じ色合いに仕上がるよう、1枚ずつ浸す時間を調整していきます」。
↑ 染めに使うハンガーは、藍がまっすぐに染まるよう、また甕の大きさに合わせて微調整を繰り返した愛さんお手製のもの。
↑「Aiシリーズ」に使用しているのはインド藍。藍染めには生地を丈夫にするという効能もあるといわれています。
染料液に浸すとすぐに藍色になるのではなく、はじめは緑色。「染料が空気中の酸素と結合し、酸化することで藍色に染まっていくんです。理科の実験みたいですよね!」と愛さん。染料液に1回浸すたびに水洗い。生地の表面についた余分な染料を落とすことで、中にしみ込んだ染料までしっかりと酸化させていくのだそう。この工程を3回ほど繰り返したら、丸1日乾燥。水洗いして、再び乾燥させたら、ようやく完成です。
↑ はじめは薄い緑色ですが、徐々に深い藍色に変化。
↑ ムラなくキレイに仕上げるため、1枚ずつしわを伸ばしながら乾燥させていきます。
子どもが本来持つパワーに目を向けるきっかけに
「『Aiシリーズ』という名前は、藍染めの“藍”、子どもへの“愛”などいろいろな意味を込めてつけました」と話すのは、企画・デザインを担当したフィセルの岩本真紀さん。「人や自然は、元々すばらしい力を持っています。それは子どもも同じ。本来持っている力を認め、信じ、寄り添ってあげることが子育てをする上で大切だなと自身の経験から感じました」。
同じく子育てに奮闘する愛さんも、「子育て中は、思い通りにいかずイライラしてしまうこともあります。そんな時、この『Aiシリーズ』を手に取ることで、少しでも気持ちが安らぎ、大らかな気持ちになってもらえたら嬉しいです」と語ります。
↑ ものづくりにも子育てにもまっすぐに向き合う作り手2人の姿が印象的でした。
自身の子育て経験を生かし、心を込めて作りあげた「Aiシリーズ」。そのアイテム1つひとつに込められた想いは、多くのママやパパ、そして赤ちゃんに笑顔と安らぎを届けてくれることでしょう。
(写真:西澤智子 文:松本翔子)