デザイナーからおばあちゃんまでが集う 尾州の繊維と出会うプロジェクトを!【アール・マテリアル・プロジェクト コーディネーター 稀温さん】インタビュー

Movement_08_01
 
一宮駅からほど近い、レトロビル。「旧尾西繊維協会ビル」はその名の通り、繊維の街・愛知県一宮市で繊維協会の拠点として利用されてきました。1933年に竣工され、外観のデザインや天井の彫刻が美しく、意匠にこだわったビル。その魅力から、2015年末に取り壊しの危機を迎えたとき、待ったをかけたメンバーがいました。メンバーのひとり、稀温(きおん)さんは、過去にいくつものアーティストを束ねてプロジェクトを行ってきた、名物プロデューサー。今回は稀温さんに取材し、ビルを再利用することになった経緯とともに、1階で尾州繊維を販売する「アール・マテリアル・プロジェクト」のビジョンや、地域イベントを仕掛ける流儀に迫りました。
 
 
 
― 解体予定だった旧尾西繊維協会ビルを丸ごと借りた稀温さんや地元の繊維業者のみなさんは、何を目的としていたんでしょう?
 
稀温:このビルは繊維の街の象徴であるにもかかわらず壊されそうだと聞き、なんとかしたいと思いました。そこで、駅に近くて趣があり、歴史的な意味も持つこのビルと、地元の素晴らしい繊維を売ることは、自然な流れだと考えました。
尾州の生地は上質で素敵なものが多いのに、アパレル業界における企業間取引が中心で、一般の人向けには販売されてきませんでした。さらに、ストックやサンプルは捨てられてしまっているという、もったいない事実があったんです。それで、プロのファッションデザイナーたちが使っている価値のある生地や糸を集めて、誰でも買える場にしようとイベントを立ち上げることにしました。
 
 

Movement_08_02
Movement_08_03
Movement_08_04
1933年に竣工した旧尾西繊維協会ビル。昭和天皇の行幸もいただいた尾州繊維業者の誇りの象徴だという。現在は「リテイルビル」という通称が定着し、小売り販売される生地や糸を求めて県内外から多くの人が集まる。

 
 
― ビル1階で行われているアール・マテリアル・プロジェクトは、尾州でつくられた生地を一般向けに販売する事業として、注目を集めていますね。2014年に初めて行ったイベントで1300人の集客があったと聞きました。会場はどんな様子でしたか?
 
稀温:プロのデザイナーやモデルから地元のおばあちゃんまで、まぜこぜなのが見ていて面白かったです。レジ待ちが長い列になっちゃって、でも並んでいるうちに、いろんな目的で来たお客さん同士が話し始めて仲良くなるんですよ。「あなたその布で何をつくるの?」とか、年配の方と高校生が洋裁談義している姿が印象的でした。
 
― 稀温さんの目的は、街の資源に興味を持つ人を増やして、街を活性化させること?
 
稀温:それは、少し違うんだよね。私は「まちおこし」には興味がないんです…。適材適所というか、つながるべきヒトとヒトや、価値あるモノ、コトをつないで、自然な流れで人が集まったり、盛り上がるシーンを見たいんです。だから、さびれてるものをなんとか再生させようとか、そういうつもりではないんです。ビルも繊維もすごく素敵なのに、今まで必要な人に届いてなかった。それをここに集めて、「あるよ」って示して見せたら、あちこちにいた「欲しい」と思う人が集まってくれたんだ思います。
 
 
Movement_08_05
Movement_08_06
Movement_08_07
 
 
― なるほど。「せんいのまちで せんいのビル」というコンセプトも、「繊維」という資源がある街だからこそ、その街ならではのビルがあり、活動が展開できる。自然な流れですよね。
 
稀温:そうです。今までしてなかったことをするには、リスクが伴う。でも、掘り下げていくうちに素材にたくさんの価値が見つけられたし、使う人の顔もたくさん浮かんだ。これはみんなも見たいよね、欲しいよね、って強く感じたんです。
今思えば、この地で繊維業を営む社長たちとビルを借り上げ、イベントを一緒に起こして、常設化までこぎつけたのは、「ビル」と「繊維」を結びつけることでこの場所も素材も輝くというイメージを全員が共有できたからだと思います。
 
― 実際に来てくださるお客様を見ていて、プロジェクトの成果を感じることはありますか。
 
稀温:アール・マテリアル・プロジェクトの初期は、地元よりも都市部のデザインやファッション関係の人に向けて発信していましたが、来場者がSNSやインターネットで拡散してくれ、街の人たちもプロジェクトに気付くようになりました。通常は小売りしていないから地元なのに買えないし、繊維に関わっている人は日常に当たり前にあるものだから、その価値に気付いていなかったんですよ。情報の流し方を工夫することって大切だなと思いました。
 
― 近くにあるからこそ、その価値に気付かない。そこに光を当てることが必要なんですね。
 
稀温:そうですね。尾州の生地はプリントでなくタテ糸とヨコ糸の工夫で柄やデザインを無数につくっているところに特徴があります。ある繊維会社の社長が「ドレミファソラシドしかないのに、たくさんの音楽ができるのと似てない?」と仰ったのですが、まさにそうなんです。肉眼ではわからないレベルの糸の色合わせとか、縫ったり着たり、使ってみて初めてわかる繊維の質の良さ。職人のなせる技が尾州の生地に価値をもたらしているというのは、プロだけでなく、地元の人、子どもたちにも伝えていくべきだと思います。
アール・マテリアル・プロジェクトの理念は「リファインド・リクリエイション・リレーション」の3つです。「リサイクル」の言葉は入っていません。ここにある素材は廃棄される運命だったものもあるけれど、それを全部持ってきて何とかしようとしているんじゃなくて、価値があると思ったものだけを選んで、必要とする人に渡していく、という取り組みなんです。
 
 

Movement_08_08
Movement_08_09
リテイル館内にはものづくり企業やデザイナーのアトリエなど、現在8組が入居している。「何かつくってみたい」という初心者から講師養成まで対応するバッグ工房や、デジタル繊維加工のショップ、こだわりのリフォーム工房など、他にはないテナント構成かも。」と、稀温さん。混沌とした独特の雰囲気が、何度も来たくなる理由なのかもしれない。

 
 
― 価値に気付くことで、新たな発見や、ものづくり、そして人のつながりが生まれるんですね。これから活動を継続して、成果をどのようにして未来につなげていきたいですか?
 
稀温:尾西繊維協会ビルを「Re-TaiL(リテイル)」と名付けたのは、「小売り(retail)」や、尾州の「尾(tail)」、再生の「Re〜」などから。繊維の街の新拠点に生まれ変わりましたが、ひとつの「点」ではなく、将来的には「面」として市内の他のエリアも一緒に再発見できるといいと思っています。また、ふらっと訪ねてくださる「実はすごい人」が地元にもたくさんいるし、遠方からもいろんな方が来てくださるので、ここでもっと多くの人が出会って、「場」をつくる人が増えていくと楽しくなると思います。実際に展示やマーケット、ライブなどを実行してくれた人たちもいるし、別の場所で価値を発信してる人たちもいるので、どんどん連携していけたらいいですね。
 
 
Movement_08_10

 
 

New Report

2026-10-31

TOPICS

パリの魔法がかかる2日間「円頓寺秋のパリ祭2026」11/14(土)・15(日)

名古屋で最も古いといわれるアーケード商店街・円頓寺商店街で、年に1度パリの魔法がかかるイベント「円頓寺秋のパリ祭2026」が、2026年11月14日(土)・15日(日)に開催されます。 ...

2026-10-30

HIROBAくんと行く

人気ドラマのロケ地として話題!岐阜・セラミックパークMINOと岩村城下町をフォト散歩

あの人気ドラマの撮影スポットが岐阜県内にいくつかあることを知っていましたか? 撮影スポットの中から、セラミックパークMINO、岩村城下町をHIROBAくんと一緒に散策。印象的なシーンを...

2026-10-27

TOPICS

全身で楽しむ浮世絵の世界「動き出す浮世絵展 GIFU」11/6(金)~1/11(月・祝)

浮世絵の世界に没入できるデジタルアートミュージアム「動き出す浮世絵展 GIFU」が、2026年11月6日(金)~2027年1月11日(月・祝)に岐阜市歴史博物館で開催されます。 会場で...

2026-10-27

トーカイ・プロダクト・ストーリー

和装を支える伝統素材「三河帯芯」を今の暮らしへ。西尾のアパレルブランド「UZUiRO」

愛知県西尾市を中心に受け継がれてきた、着物の帯を内側から支える「三河帯芯」。三河帯芯の国内シェアはなんと95%以上! 華やかな帯の内側に入るため普段は人の目に触れることはありませんが、軽くて...

2026-10-26

TOPICS

各務原に130店以上が集結「マーケット日和2026」11/3(火・祝)

「マーケット日和を、まちの交園に」というコンセプトのもと、岐阜県各務原市で130以上が出店する「マーケット日和2026」が、2026年11月3日(火・祝)に開催されます。 会場は、学び...

2026-10-21

東海ムーブメント仕掛け人

名東区西山界隈・星ヶ丘界隈を舞台に街中をアートやデザインで彩る【なごや裏山芸術祭・植村康平さん】

2025年に初開催された、名東区の西山商店街を中心としたアートイベント「なごや裏山芸術祭」。今年は「より街の人々や場所、子どもたちに向けた芸術祭」をコンセプトに、地域に根差した芸術祭が予定されていま...

2026-10-17

TOPICS

美濃焼産地・土岐の魅力を堪能「うつわさがし2026」10/24(土)・25(日)

美濃焼の一大産地である岐阜県土岐市で、うつわで市内がつながる陶器イベント「うつわさがし2026」が、2026年10月24日(土)・25日(日)に開催されます。 土岐市の陶磁器の歴史は約...

2026-10-14

TOPICS

台湾の夜市気分を満喫「台湾・台中夜市2026」10/31(土)~11/3(火・祝)

台湾の夜市文化を楽しめる「台湾・台中夜市2026」が、2026年10月31日(土)~11月3日(火・祝)に久屋大通公園 エディオン久屋広場で開催されます。 会場には、台湾料理や台湾ドー...

2026-10-10

TOPICS

絵本が生まれるまでの秘密に迫る「かがくいひろしの世界展」10/17(土)~11/15(日)

累計発行部数1000万部を超え、子どもたちに広く愛される絵本「だるまさん」シリーズ。その作者・かがくいひろしさんの創作の軌跡をたどる大回顧展「かがくいひろしの世界展」が、2026年10月17日(土)...

2026-10-08

書店員の本棚

野菜と果物がもっと好きになるおすすめの本3冊:「本屋tsuide」(愛知県犬山市)

名鉄「犬山」駅西口から国宝・犬山城の城下町へ向かう道沿いに、ふんわり甘い香りが鼻をくすぐる「菓子屋shirushi(しるし)」という菓子屋があります。その2階に、「犬山観光やお菓子を買いに来る“つい...

2026-10-07

TOPICS

名古屋城開催!15周年特別企画も「SOCIAL CASTLE MARKET 2026」10/10(土)・11(日)

名古屋最大のマーケットイベントのひとつ「SOCIAL CASTLE MARKET 2026」が2026年10月10日(土)・11日(日)の2日間、名古屋城で開催されます。 久屋大通公園...
pagetop
もくじ