言葉の細かなニュアンスが通じなかったりと不安の大きい海外での出産・育児や、コロナ禍での孤立した出産・育児など“助けが必要な人”と助産師をつなげたい。そんな思いからオンラインでの個別相談をはじめ、企業への妊娠・出産・育児にまつわる周知活動などさまざまな状況の人が働きやすくなるような意識づくりにも取り組む「じょさんしONLINE」。
愛知県出身の代表取締役・杉浦加菜子さんは、自身のオランダでの出産の経験からこのような活動の第1歩を踏み出したといいます。延べ3500人くらいの女性と向き合ってきた杉浦さんが感じてきたこと、また活動への思いについてお話を伺いました。
- ご自身の経験が活動のきっかけになったそうですね。
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杉浦さん(以下、敬称略):1人目の出産後に夫の転勤でオランダに引っ越し、子育てが始まりました。その後、2人目をオランダで出産。もともと日本では助産師として仕事をしていた私でも出産・育児にまつわる日本とオランダの違いに混乱することもあり、産後の不安定な気持ちを英語で伝えるのも億劫になり…不安の日々でした。そんななかで、少しでも役に立てることがあればと、現地で知り合った日本人の妊産婦向けにボランティアでマタニティヨガを教えたり育児相談に乗ったりしていたんです。私は2人目出産の3週間後に夫の転勤で帰国したのですが、オランダで知り合った女性たちはその後どうなっただろう…と気になり、どこにいても支援が受け続けられるような仕組みがあるといいなと思ったのがきっかけです。
- どのようなことから始めていったのですか?
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杉浦:誰かの助けになればと思い、よくある相談内容に答えるQ&Aブログを始めました。また、オランダ在住の妊婦さんの相談を個別で受けたりも。2019年に100人の女性の悩みを聞くなかで、日本にいても「行政や病院に相談に行くほどじゃないんですが…」と切り出される相談が多かったり、また海外に住んでいる方から「妊娠中に出血して現地の病院では大丈夫だと帰されたけど不安で…」という声があったりと、求めている人はいる!と手ごたえを感じました。
- 有償でサービスをスタートしたのが2020年とのことですね!
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杉浦:2019年までは1人でやってたのですが、2020年から私含めて5人の助産師で始めました。ところが、その年の春頃からコロナの勢いが増して、行政の両親学級や地域の子育て支援センターも閉鎖に。そこで全国の助産師に呼びかけて、4月に「じょさんしONLINE緊急企画」として2週間限定で毎日両親学級をオンラインでボランティア開催しました。集まった助産師や医療関係者は200人くらい、1日5~7回くらいの講座も予約がすぐ埋まってしまう状況でした。
- 相談に行く場所がないけど不安…というプレママ・パパがたくさんいらっしゃったのですね。今はZOOMでの個別相談を?
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杉浦:どこにいても平等に支援が受けられることが理想なので、オンラインにこだわっています。コロナ禍はとくに、外出を控えてほかのママたちと交流する機会を失ってしまったママから、「精神的にしんどい」「なぜか泣けてくる…」という声も多く耳にします。また、義母との関係など家族の問題などを聞いたりすることも。
- 出産・育児以外の相談も聞いてくださるんですね。
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杉浦:「助産師」というと出産前や出産の現場で関わる人というイメージを抱く人が多いですが、思春期の性教育や女性の月経、更年期やパートナーシップの問題など、女性とその家族を取り巻く一生を伴走するのが日本の助産師の役割なんです。
- 最近は企業向けのサービスにも力を入れているそうですね。
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杉浦:女性の悩みを聞いているうちに、社会の仕組みを変えることも必要だと思い、2021年6月に法人化して企業向けサービスをリリースしました。
- 企業に対してはどのような活動をされているんですか?
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杉浦:女性の健康や男性育休、ダイバーシティーについてなど単発でセミナーを行うことが多いですが、今導入を進めているのが、おもに女性従業員向けの相談窓口の設置です。従業員をはじめ、男性従業員のパートナーも利用できたり、部下の妊娠・出産の対処を相談したいという男性管理職なども対象です。
- 本人だけでなく、職場の周りの人たちへの周知も必要なのですね。
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杉浦:私自身、産後女性への社会の理解が低いために翻弄された経験がありますし、いろんな女性の話を聞くなかでも妊娠中や産後復帰にあたって会社の理解が得られない…という声が多いです。まずは性差関係なく知ることが大切で、たとえば男性が育休を取得した際に何をしなければいけないのかなど、助産師目線だからこそお伝えできることがあります。周りのみんなが“知る”ことがパフォーマンス向上にもつながるし、離職率を下げることにもつながる。男女関係なく、やりたいことを実現できる社会になるといいですね。
出産・育児に関わる女性の細やかな不安に寄り添ったり、その女性を取り巻く環境へアプローチしたりと、さまざまな視点から女性の生き方を応援してくれる「じょさんしONLINE」。今後の活動にも期待が高まります!
(文:広瀬良子)