名古屋テレビ塔。電波塔としての役割を終えたこの場所が、今、新たなムーブメントを発信し始めています。「ぺちゃくちゃないと名古屋」は20枚のスライドが20秒ごとに切り替わっていく、シンプルなプレゼンテーションイベント。名古屋テレビ塔で定期的に開催され、静かな話題を呼んでいます。
「ぺちゃくちゃないと」は、世界900都市以上で開催されているワールドワイドなイベント。プレゼンターが思い思いのテーマでプレゼンし、途中にビアブレイクをはさみながらカジュアルな雰囲気で進行していきます。名古屋でこのイベントを開催運営しているのは、藤田聖人さん。なぜ名古屋でこのイベントをやっているのか、仕事ではない場でプレゼンをすること、聞くことにどんな面白さがあるのか。ざっくばらんにお話しいただきました。
― 「ぺちゃくちゃないと」って、ゆるくてかわいい名前のイベントですね!世界900都市で行われているそうですが、名古屋ならではのスタンスってあるんですか?
藤田:名古屋ならではというより、このイベント、僕の真剣な趣味としてやっているから、僕が出会った人たちのなかで「この人のおしゃべりの続きを聞きたい!」と思った人にプレゼンターをお願いしています。語弊があると思うけど、僕の趣味にいろんな方を巻き込んでしまっている(笑)。
― なるほど。最高に幸せなご趣味ですね!このイベントは世界で最初に東京在住の建築家の2人(※)がスタートさせたとお聞きしているんですが、藤田さんが真剣な趣味として関わろうと思ったきっかけは何だったんでしょう。
※アストリッド•クライン(Astrid Klein)氏とマーク•ダイサム(Mark Dytham)氏
藤田:くちべたな人も、すごくおしゃべりな人も、同じ400秒という時間が与えられてプレゼンするっていう世界共通ルールが面白いと思いました。あと、自分のモノサシをもって話したり聞いたりできる場って、貴重だと感じているんです。「ぺちゃくちゃないと」には「20枚×20秒」以外に縛りがありません。僕からテーマについてあれこれ口を出すことはないし、発表前にスライドを校正することもしない。だから自分で表現したいことを自由に表現できるし、自分で決めたテーマやトピックで遊べるんです。自分が楽しめるものを誰かに用意してもらうことって簡単。でも、誰かが置いたモノサシと自分で置いたモノサシ、どっちで遊ぶのが楽しいかと問われたら、確実に自分のモノサシで遊ぶことなんだと思います。
― 固定概念にとらわれないで、自分のモノサシでプレゼンしてほしいんですね。藤田さんは自営業をされていて経営学修士も取得されています。ビジネスとしてのお付き合いも多いかと思いますが、様々な方と交流する中で、一般的な社会人交流会とはひと味違う会を催したいという思いがあるのでしょうか?
藤田:確かにあるかもしれません。「ぺちゃくちゃないと」を名刺交換会や異業種交流会と期待して来られる方もいますが、そんなにビジネスみたいな場にしようとは思っていません。また、プレゼンというと、「告知をしに行ってもいいですか?」と聞かれることがあるけれど、「ぺちゃくちゃないと」の在り方とは少し違う。プレゼンをして、その活動自体に興味を持ってくれる人がいて、最終的にファンがつけば、それが告知になるんじゃない?って思います。
― 単なるPR活動じゃなくて、結果としてファンになってくれたらいい、と。
藤田: そうです。「ぺちゃくちゃないと名古屋」自体の集客も同じ方針です。だからなかなかオーディエンスが集まらないのかもしれませんが(泣)。プレゼンを肴に旨いお酒を飲もうよっていう誘いにのってくれれば、もう大歓迎です。
― コンセプトもDrink & Think。ユニークですね!
藤田:そうでしょう?気軽に参加できますよね。しかも、僕がプレゼンを依頼する人はだいたいクレイジーか変態ですから(笑)。
過去に登壇してくれた人は、みんな、どうしてこの人はこんなに狂おしい熱気を持っているんだろうと思う人ばかりです。ラッコが好きすぎて、日本中のラッコを見てまわっている人は、最近の国内でのラッコの少子高齢化をさらりと挙げて、ラッコの現状を、可愛らしさだけでなく、訴えていました。他にも、花火を見ることが好きなあまり、全国の花火大会や品評会の開催日程にあわせて有給をとってる人がいたり、五平餅が豊田市の発祥だと言って譲らない人、ナノテクノロジーで世界を変えようとしてるインド人、自身をweb素材にしているゴーストライターや、勝手に家にやってくるサンタクロースとか…… ただ単に声を大にして何かを伝えるのではなく、その人らしい観点でプレゼンを組み立てている。それをビール片手にリラックスしながら聞けるのが面白みですね。
― これまでで藤田さんが最も記憶に残っているプレゼンは、ズバリ何でしょう?
藤田:過去に「リバーリバイバル研究所」を立ち上げて河川の生体系を戻していく活動をしている方に登壇してもらいました。人と自然との関わりについて川からの視点で検証していき、環境保護ではなく環境再生をすべく、定点観測として「アユの産卵をみる会」などを開催しています。
驚くことに、この方、長良川河口堰の竣工時に、建設反対のアピールとして大きなビート板をカラダにくくりつけて、自分が上流から流されるということを実行しました!すると、住民が「ヘンな人が流れている!」と通報し、警察やマスコミが集まってきたそうです。これにより注目度が上がって、みんなが現在の川の課題に気付くというきっかけをつくりました。こんな活動が効いたのか、その後、外部からの依頼でメコン川の調査にも送り込まれたようです。
― 知らないだけで、変わったことをしている人って意外と身近にいるんですね。それに気付くだけでも“お土産”になりますね。名古屋テレビ塔でやっていることにも、理由はあるんですか?
藤田:僕は名古屋出身ですが、名古屋独特の「名古屋的」なところがニガテで。誰かが用意したモノサシで遊ぶのは簡単で安心。その機会は巷に多いけれど、自分のモノサシで判断して遊ぼうとする人が少ないと感じるんです。自分の判断軸で好きかどうか善し悪しを決めて行動すればいいのにな、と思って。でも、そんななかで自分のモノサシを持って頑張ってる人たちはたくさんいて、僕自身が励まされることも。それが「ぺちゃくちゃないと名古屋」を続けているひとつの理由です。そして、集まってくれる人たちに、この名古屋のシンボリックな場所を再発見してほしいとも思っている。それをテレビ塔にも賛同してもらい、開催できています。
― 苦手な名古屋で、楽しく生きていくための真剣な趣味。続いていけるといいですね(笑)
藤田:真剣な趣味なので、続けられたらうれしい。さらには、これが、名古屋で暮らして活動する皆さまから情報を発信してもらえるひとつのプラットフォームになれたら、とても素敵ですね。