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ふとん職人の伝統技術を守りながら、現代の暮らしに馴染むプロダクトづくりを行う「丹羽ふとん店」の5代目丹羽拓也さん。心地よさを追求し、生まれたのがくつろぎの道具「KYO-SOKU(キョウソク)」です。前編では、その開発秘話や制作のこだわりについて話を伺いました。後編となる今回は、「KYO-SOKU」の原点となるふとんづくりの現場を見ていきます。
一日の3分の1を過ごすからこそ
↑敷ふとんの中身になるフワフワの綿。重さや形が均一になるよう、使用する綿は毎度計量します。
「丹羽ふとん店」のように製綿(綿打ち)から製作、販売まで一貫したふとんづくりを行っているメーカーは今では珍しいとのこと。一日の生産数も限られるため、現在オーダーは3年待ち。「一日の3分の1をふとんの上で過ごしているのに、多くの人がふとんの中身や、どのようにつくられているか知らずに使っています。良いふとんとは、寝心地がいいということ。一般の人でも寝転がった瞬間に違いが分かるんですよ。」と拓也さん。
↑「丹羽ふとん店」では3種類の綿をブレンドし、体を適切に支える硬さに調整しています。
守り抜くのは伝統と寝心地のよさ
角までしっかりと綿を入れること、そして型崩れしないようにすることが寝心地のよさを実現します。「綿と生地の間に真綿を薄く伸ばす“手引き真綿”を使用する方法は、江戸時代からの伝統的なもの。生地に綿が張り付いたり、ふとんが型崩れしたり毛羽立つのを防ぎます。今では価格面から手引きした真綿を使用しないふとんメーカーも多いですが、寝心地を左右することなので、丹羽ふとん店では守り抜いています」。
↑A3サイズほどの薄い真綿を…
↑敷ぶとんのサイズになるまで引っ張る“手引き”の作業。
重ねる綿のサイズを少しずつ小さくし、中央が盛り上がるように作っていきます。「人の体重がかかる部分は使っていくうちに押しつぶされていくので、かまぼこ状に仕上げるんです」。
↑それぞれ3種の綿を配合した2種類の綿を使い、布団のかたちに敷き重ねていきます。
↑端は内側に折り込み、大きさを調整すると同時にふっくらとした中心の丸みを出します。
シルエットの美しさを決める、ふとんの要
ふとんづくりの工程において、ポイントとなるのが“ふとんの角”。形状の美しさや寝心地がふとんの角によって左右されるのです。つまり、職人の技術が試される最も重要な部分。「綿を潰さないように力加減を調節しながらも、型崩れしないように程よい硬さに仕上げなければいけない。スポーツや武道と同じで、ふとんづくりも繰り返し練習を続けることで技が磨かれるんです」。
↑絶妙な力の入れ方と手さばきでリズミカルに形を整えていきます。まさに職人技!
↑鳥の尻尾のような滑らかな曲線。ふんわりした見た目とは裏腹に、触ってみると芯があるようにしっかりと形づくられています。
細部に至るまで決して妥協しないふとんづくりの信念は「KYO-SOKU」にも息づいています。「綿の配合や詰め方など、ふとんづくりの技術があってこそのKYO-SOKU。ふとんは毎日使うものですが、暮らしの中で目立つ存在ではありません。暮らしの中で目を引くプロダクトをふとんづくりの技術を生かして作ることで、ふとん職人に興味を持ってもらうきっかけになれば嬉しいです」。
↑贈り物にも喜ばれるという「そば殻ごろねまくら」。まくらづくりの技術も「KYO-SOKU」に生かされています。
↑「KYO-SOKU」は丹羽ふとん店の挑戦の結晶でもあります。
伝統を絶やさぬよう、ふとん職人であることを忘れずに
ふとんづくりの技術をベースに、「KYO-SOKU」など新しいプロダクトをはじめとした様々な挑戦を続ける拓也さん。アパレルや家具とコラボしたり、海外で製作実演を行ったり。「ふとんを作る技術を継承していくことも必要。そのために、“ふとん職人”という言葉を大切にして、伝統が消えてしまわないように活動しているんです」。
↑伝統技術の中から新たな可能性を見つけ出す、ふとん職人の拓也さん。
毎日使うけれど、特に意識を向けることの少ない“ふとん”。その技術と知恵を生かして開発された「KYO-SOKU」の原点を知ることで、ふとんの魅力に気づかされます。丹羽ふとん店で作り出されるプロダクトの一つひとつには、ふとんづくりの伝統技術と想いがしっかりと詰め込まれているのです。
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(写真:朝野耕史 文:佐藤奈央)
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