生活のなかに「何もしない時間」をつくることを目的に生まれた、陶器製ハンドウォーマー「TETANPO(テタンポ)」。電子レンジで30秒チンするとあずき効果で15分ほど温かさが持続。手の平にのせてぼ~っと……癒しのひとときが過ごせます。
デザイナー、石膏型職人、窯元の3者によって生まれたTETANPO。前編では誕生秘話について紹介。後編では愛知県瀬戸市の石膏型職人、エム・エム・ヨシハシの吉橋賢一さんの工房にお伺いし、石膏型が生まれる現場を見せていただきました。
石膏型を使った陶磁器とは?
吉橋さんの工房では、まず石膏型をつくるための素となる原型をつくります。それをもとに石膏型をつくり、焼成をお願いする窯元へ持ち込みます。
窯元で、石膏型に粘土を液体化した泥漿(でいしょう)を流し込んで固めて焼成。石膏は水分を吸収する性質があるため、一定時間おいておくと泥漿の水分だけを吸収し、型の内側には水分がぬけて固まった陶土(=成形された状態)が残ります。
つくりたい製品の厚みによっておいておく時間を調整したり、石膏型は使うごとに水分を吸った状態となるため2回目、3回目…ではおいておく時間を変えなければいけなかったり。石膏型は何度か繰り返し使いますが、その都度、同じ厚みに成形されるよう調整するのは、窯元の手腕。
時間をおいて固めたら、バリなど余分な部分を取り除き、焼成していきます。
石膏型によるメリットは量産することによって価格を抑えられるという点。また、つるんとした形に仕上げることができたり、量産する際にすべて同じ大きさにつくれるのもポイントだそう。
瀬戸市にはたくさんの窯元がありますが、窯元によって使っている土も違えば、やっていることも違います。この窯元ならこういった石膏型の仕様で、この窯元ならこういう風に…と、焼成をお願いする窯元に合わせて吉橋さんは石膏型を手作業で仕上げます。
オリジナルブランドも展開
エム・エム・ヨシハシでは、型職人としては珍しくオリジナルブランドを展開しています。「窯元だと使う土が限定されてしまいますが、窯元じゃない分、つくりたいものの形状や素材に合わせて、一番合っている窯元さんに依頼できるのがメリットです」と吉橋さん。
たしかに、エム・エム・ヨシハシの商品ラインナップを見ると、ポップなデザインという共通点はありながらも、多彩なバリエーションにあふれているのが魅力です。
湯飲みでニット柄?と思わず目を引く商品。手彫りの技術を生かし、日常にあるテクスチャーがカップに表現されています。
吉橋さんが石膏型1つひとつにセーターの柄を彫り込んでいくという、とても根気のいる作業。「こういった繊細な模様の商品は型でないと難しいですね。陶土に1つひとつ模様を彫るとなったら、それこそ1個あたりの金額が高くなってしまいますから」。
こちらは、魚へんの漢字がびっしりと施された「魚偏漢字湯飲呑」。
TETANPOにおいては、文鳥以外の生き物をモチーフにした第2弾の構想も進んでいるよう。来年冬に向けてどんな癒しの存在が登場するのか楽しみです。
(写真:高木志帆 文:広瀬良子)