くすみパステルカラーとざらっとした手触り。見た目の可愛らしさが目を惹くテーブルウェア「Nogakel(ノガケル)」は、プラスチック製かと思いきや、なんと「紙製品」。食洗器利用OKで繰り返し利用でき、廃棄したい時は「燃やすごみ」に出せるという、画期的な商品です。しかも作っているのは、普段はプラスチックを扱うメーカーだというからさらに驚きます。
デザイン性と機能性を兼ね備えたノガケルの誕生秘話を、岐阜県美濃市にある古田化成の古田伸享社長に伺いました。
「紙製品」とは思えない風合いのスプーン&フォーク
ノガケルは2023年現在、スプーン&フォーク、オーバル皿、マグカップがラインナップされているテーブルウェア。くすんだ色合いが特徴のカラーは全6色。「山桜」「紫陽花」の春夏カラー、「紅葉」「公孫樹(イチョウ)」の秋冬カラー、オールシーズンカラーの「木綿」「猫柳」と、植物の名がつけられています。
手に取ってみると、思った以上に軽いことや、ざらっとした手触りに驚かされます。これが紙製品だなんて!
「正確にいうと、紙55%、樹脂45%の複合素材ですが、51%以上であれば分類上は紙製品になります」と、古田社長が教えてくれました。
開発のきっかけは、コロナ禍による自社製品の売り上げダウンと、「脱プラスチック」の機運が高まってきたこと。プラスチックは加工しやすく、軽くて丈夫など長所はあるものの、世の中の流れを止めることはできないだろうと、プラスチック「ではない」商品の開発を考えるように。
まずはコンビニで無料配布されているプラスプーンの代わりになるものができないか…と、セルロースファイバー(新聞紙など紙からできる木質繊維)と樹脂の混合素材「グリーンチップ」を使って、スプーンとフォークを作ることにしました。
「焦げる」問題はこれまでの経験と技で解決
原材料を見せてもらいました。
見た目は小さなマカロニのようにも見えますが、熱を加えると溶け、冷えると固まるという、プラスチックと同様の性質を持っています。プラスチックとの一番の違いは、木質繊維が混ざっているため、ある一定以上の温度になると焦げてしまうこと。
しかし、それなりに高温で熱しないとさらりとした液状にならないため、金型の隅々まで材料が行き渡らず、成形不良となってしまいます。
適切な加熱温度を探り、金型の造形を工夫するなど、試行錯誤によって焦げずに製品の成形ができるように。
「金型づくりがノガケル誕生のキモといってもいいですが、企業秘密です」と古田社長。
食卓を彩るテーブルウェアブランドへ
2021年11月末にスプーンとフォークが完成したものの、古田社長が「これでいいのか」と迷っていたのが、セルロースファイバーが浮き出ることによる白い柄。
自動車部品など工業製品を作ってきた古田社長にとって、色ムラは「あってはならないもの」。
けれども、一般消費者の意見を聞くと「一つひとつ表情が違っていて、味に感じる」「違いがあるから、どれにしようか迷う楽しみになる」など、ポジティブな反応が。大量生産品と手作りクラフトとのハイブリッドのような、新しい価値観が生まれています。
こだわったことは「触感」。よく見ると、ノガケルの表面には細かく不規則な凹凸があり、紙のようにも見えます。これは金型を工夫してわざとつけている凹凸なのだそう。
「一般的なプラスチックのようにつるっとした表面に仕上げることもできますが、せっかくなら触った時に紙の質感を感じてほしくて。いろんな人に『手触りがおもしろい』といわれて、うれしかったです」と古田社長は振り返ります。
ノガケルには、さらに新しい商品も誕生しています。それはスプーン&フォークを収納して持ち運べるカトラリーケース。ひもでクルクルッと巻くだけなので簡単です。
カトラリーを使う時には、ケースがランチョンマットになるという優れものですが、特筆すべきはカトラリーケースも「紙」でできているということ。厚手の生地で、どこからどう見ても帆布にしか見えず、驚きを隠せません。
企画製造は美濃和紙の老舗・松久永助紙店。紙を撚って糸を作り、生地にしていくそうです。もちろん、洗濯機で洗って繰り返し使えます。
2021年11月に誕生したスプーン&フォークはギフトショーなどへ出品すると、見た目と素材とのギャップが来場者の興味をひき、セレクトショップなどで販売されるように。現在は全国20店舗のハンズやセレクトショップ、ミュージアムショップなどで購入できます。2023年7月からは、海外の美術館ショップでも取り扱いがスタート。
「今後は、リクエストが多い箸を作りたいですね。ノガケルが食卓周りのブランドとして認知され、いろいろな商品を出していけるようになりたい」と古田社長は夢を語ってくれました。
(写真:山本章貴 文:河合春奈)