先代の大嶽喜八郎さんのもとで油作りの技術と熱い想いを受け継ぎ、「ほうろく菜種油」を自分の手で作っていくことになった杉崎さんですが、そこにはひとつ大きな問題が――。
原料が手に入らず、自ら菜の花を育てることを決意
「油職人として家族を養っていくには、最低でも年間20tの菜種を集めて油にする必要がありましたが、後を継いだ時点で、原料で仕入れられる菜種は年間たった500~600kg程。当時、日本では青森県上北郡横浜町か北海道滝川市滝川町くらいにしか生産者がおらず、そのほとんどが企業との契約栽培。分けてもらうことなどできず、地元・西尾市周辺の農家さんに作ってもらえないかお願いしに回りました」。しかし、返ってくる返事はすべてNO。それでも杉崎さんは諦めず、5年間足を運び、頭を下げ続けたそう。「渥美半島や知多半島などで『菜の花エコプロジェクト』の活動をしているNPO法人等から菜種を分けてもらい、西尾市に自ら菜の花を植え始めました。そうした僕の姿を見て想いが伝わったのか、協力してくれる農家さんが徐々に増え、活動を始めてから6年後には菜種を年間24t集めることができるようになったんです」。
お客さんの顔を見て、おいしさを直接伝える
いざ原料が集まって商品を作っても、一般的なサラダ油などに比べて値段の高い「ほうろく菜種油」はなかなかお客さんに手にとってもらえなかったのだとか。そこで自ら売りにいくことに。「道の駅にテントを張り、コロッケを揚げて試食販売をしたこともあります。皆、試食はしてくれても『油なのに高い』と言ってその場を離れてしまう。でも嬉しいことに、試食をした人の多くが、戻ってきて『おいしかった』と伝えてくれたたんです」。そうした地道な活動から「ほうろく菜種油」のおいしさが地道に伝わり、今では全国へと広まったのです!
少しでも多くの人に菜種油を届けるという使命感
「油作りを始めた頃は、儲かるわけがないと周囲から反対もされましたし、思うように売れない時期もありました。それでも油作りを辞めなかったのは、先代の想いと技術を絶やしたくなかったから。油作りを学んでいた頃、先代の奥さんであるたけ子さんが毎日まかないを作ってくれたんですが、何を食べてもおいしくて。それは、油の質が良かったから。自分は『ほうろく菜種油』の魅力に心底惚れ込み、このおいしさを多くの人に伝えることを先代と約束した。だから、どんなに辛い壁にぶち当たっても、諦めないと決めたんです」。
伝統技術を用いた新しい挑戦
先代から受け継いだ「ほうろく菜種油」を一途に守ってきた杉崎さんとともに二人三脚で歩んできたのが、「ほうろく菜種油」の販売代理を担っている「りんねしゃ」。愛知県で無添加食品や有機農畜産物、天然生活雑貨などの開発・販売を手がけており、杉崎さんが油を搾る技術を継承する一方、商品開発やブランディングなどに力を注いできました。先代から引き継いだ主軸商品の「ほうろく菜種油 伝承」に加えて、現代のニーズに合わせて杉崎さんとりんねしゃが開発したのが「ほうろく菜種油 荒搾り」と「ほうろく菜種油 生搾り」。「ほうろく菜種油 荒搾り」はパン作りやオイルパスタなどに適した油、「ほうろく菜種油 生搾り」はドレッシングなど非加熱調理向けに作られた油です。また最近では「なたねあぶらRIN」を新たに開発。北海道夕張郡で有機農園「メノビレッジ長沼」を経営し、杉崎さん・りんねしゃと同じ理念をもったエップ・レイモンドさんとコラボレーション。「ほかにも、無農薬の米粉を『ほうろく菜種油』で揚げた天かすや、『ほうろく菜種油』を使ったアイスクリームも5月から販売する予定です。挑戦する姿勢を忘れず、多くの人に『ほうろく菜種油』の素晴らしさを届けていきたい」。
ほうろく菜種油をおいしく使うには?
最後、杉崎さんに「ほうろく菜種油」の魅力が最も生きる使い方を聞いてみると――。「夏におすすめなのは、旬のナスを『ほうろく菜種油』でシンプルに焼く方法。油を吸いやすい食材だからこそ、旨味がより引き立ちます。またアヒージョは、年中楽しめます。エビやキノコなど具材の旨味が油に染み出るから、パンを油に浸して食べてもおいしい。また、残った油でパスタを作ると、これまた絶品! ぜひ一度試してみてください」。毎日愛情を込めて「ほうろく菜種油」を作る杉崎さんだからこそ知るおいしい調理法ですね!
(写真:西澤智子 文:松本翔子)
前編はこちら