愛知県江南市にある「レッグニット中村」が手がける靴下ブランド「hacu(ハク)」のシリーズの1つ「kasanete hacu(カサネテハク)」。毛織物や紡績、染色など繊維産業が盛んな江南市で1973年に創業した「レッグニット中村」は、元々全国200~300校ほどの学校のスクールソックスや日本卓球協会に卸すための卓球用ソックスを製造していました。長年積み重ねてきた「レッグニット中村」の高い技術に、アパレル経験のある中村美穂さんのセンスが加わり、さまざまな着こなしが楽しめるおしゃれな重ね靴下「kasanete hacu」が誕生したのです。
↑ 素早い手つきで次々とスクールソックスに刺繍を施していく、中村美穂さんの母・中村二三子さん。
↑ 夫の中村寛さん。美穂さんの“こんな靴下が作りたい”というイメージを豊富な知識と経験で形にするなど、献身的にサポートしています。
たくさんの人が関わる中、大切にしているのは信頼関係
靴下づくりは完成までの工程が多く、「レッグニット中村」でも昔から分業制で行ってきたといいます。「靴下を機械で編むニッター、編んだものをひっくり返す人、つま先部分を編み合わせる“ロッソ縫い”をする人、靴下にスチームをあてる人、形を整える人、そして検品をする私たち。たくさんの人の手から手へと渡って作られます」。工程1つひとつに専門の職人がいて、それぞれに高い技術を誇る熟練の人ばかり。靴下1足が完成するまでに多くの人が関わり、時間や手間をかけて丁寧に作られているのです。
↑ 糸は昔から付き合いがあり信頼を寄せている岐阜の糸メーカーと中村さんが相談し、決めています。
↑ 検品作業は小さな穴や糸のほつれがないかなど、時間をかけて1つひとつ、細かい部分まで丁寧に確認していきます。
ベテランの職人でも難しい、裏糸なしの靴下づくり
「『kasanete hacu』 はhacuシリーズの中でも1番苦労しました」と中村さん。「一般的な靴下には伸縮性や強度を備えるため、裏糸と呼ばれる化学繊維が編み込まれているんです。これは糸メーカーが長年にわたって研究し、何度も改良を重ねてやっとできた発明品のようなもの。ですが、『kasanete hacu』は化学繊維を使わずゆったりとした履き心地にしたかったため、裏糸は一切使っていません。使わないがゆえに、形状をきれいに保つのがとても難しいんです。熟練の職人の技術を以てしても最初はなかなか思うように仕上がらなくて。『kasanete hacu』を作るために、裏糸なしでもうまく編める方法を職人に一から学んでもらい、何度も試作を行いました」。
↑ 自然素材のみを使い、ゆったりとした履き心地を追求した「kasanete hacu」は、職人の技と努力の賜物ですね!
もう1つ苦労したのが、つま先の処理。機械で編みあがったばかりの靴下は先が開いた筒状になっており、ロッソ縫いを施すことで靴下の形が完成します。「ロッソ縫いは裏糸同士を縫い合わせるのですが、『kasanete hacu』には裏糸がないためうまく縫い合わせられなくて…。裏糸がなくても縫い合わせられる方法を職人と試行錯誤し、ようやく完成することができました」。
↑ 中村さん自ら職人の工場に足を運び、納得するまで何度も話し合いを続けたそう。
女性ならではの意見を、商品づくりに生かす
中村さんのこだわりは、一緒に働くスタッフにも。「『hacu』のスタッフ6人は全員女性で、年齢も同じくらい。新商品の開発やイベントの企画などを行う際、価値観が似ていて、細かい部分にまで気が配れるスタッフの意見はとても参考になります。気心が知れていて、お互いに意見が言いやすく仕事しやすい環境です」。新商品のサンプルが上がってきたら、一番にスタッフの皆さんに見せて反応を伺うという中村さん。心から信頼しているのが伝わってきます。
↑ お昼はみんなで一緒にお弁当を食べ、その後のお茶タイムも欠かさないのだとか。朗らかなスタッフの皆さんに元気とパワーをもらっているそう。
↑ スタッフ皆さんが愛用している「hacu」の靴下。中心のスタッフさんは、中に「kasanete hacu」の5本指ソックスを重ね履き。長年悩んでいた冷え性が、徐々に改善されているのを実感しているのだそう。
世代を越えて長く愛される靴下を作り続けたい
商品をつくる際、使う人の声を大事にしているという中村さん。「実際に使ってくれている人からの意見もあり、『kasanete hacu』の1枚目と2枚目にあたる5本指ソックスの指先を少し長く、そして太くし、以前のものより履きやすくなるよう2017年9月にリニューアルしました。『kasanete hacu』という名前も、実はお客さんの提案から生まれたんですよ!」。
使う人がより心地よく、そして長く愛用してもらえる商品づくりをしていきたいと中村さんは話します。「『hacu』を立ち上げた時からずっと心の中にあるのは、私たちの靴下を毎日履いてほしいという想い。そのために洗濯しやすい素材を使用したり、できるだけ丈夫な商品づくりというのを大切にしています。赤ちゃんから大人まで、世代を越えて長く愛される靴下をこれからも作り続けていきたいです」。
(写真:西澤智子 文:松本翔子)