↑ 車に乗ったまま傘を開閉しやすいよう、伸びた位置から開く設計。
車好きが高じて、革新的な傘の開発がスタート
「元々は歯科技工所として創業した会社なんです」と話すのは、ユートレーディングコーポレーションの営業・広報を担当する渡辺わかさん。歯科医院で用いられる歯の詰め物や土台、被せ物などを製作していたという同社が、なぜ傘の開発をすることになったのでしょうか。
「傘の開発を始めたのは2005年頃。仕事でもプライベートでも毎日のように車を使う生活の中で、雨の日に傘で車内が濡れることを不快に感じていました。そんな時、ふと逆に開閉すれば車内が濡れなくて済むのではないかと思ったのが開発のきっかけです」。雨の日の車の乗り降りに着目し、始まった「GAX Umbrella」の開発。しかし、逆に開くという今までとは全く違う発想の傘を量産するまでには、10年もの歳月がかかりました。
↑ 広報や営業を担当している渡辺さん自身も、傘布の素材やデザイン、配色などを提案するなど、開発の一部に携わってきたのだそう。
↑ 助手席や後部座席でも、傘で足元が濡れる心配がなくなるのは嬉しいですよね!
歯科技工の技術を生かし、イメージする動きを実現する
「そもそも一般的な傘を作るノウハウがないため、まずはありとあらゆる傘を買ってきて分解し、骨の構造を調べるところから始めました」と渡辺さん。開発を始めた当時、逆に開閉する傘はどこにも存在せず、パーツも一から自分たちで作るしかないと試作に取りかかります。骨の構造を開発する上で、生かされたのが歯科技工の技術。「私たちは、一人ひとりの歯の形に合わせて型を削るという歯科技工の繊細な技術を生かし、小さいパーツも自分の手で削って作り、イメージする動きと違えばまた作り直すという作業をスムーズに行うことができました」。
↑ 骨の構造を研究するために作った試作の一部。細かいパーツはホームセンターなどで購入した材料を加工し製作したもので代用して研究したのだそう。
↑ 長年培ってきた高い歯科技工の技術で、ミリ単位での細かな調節ができたのだそう。
頭の中でイメージした動きを実現するため、間接部のような小さなパーツから芯となる大きなパーツまで自ら制作。複雑に作動する傘の開閉を支えるパーツは、従来の傘に使用する部品の約3倍にあたる99個! そのすべてを一から作りあげる中で、不具合にも臨機応変に対応できたことが、逆に開閉するという特殊な動きを実現可能にしたのです。
↑ 傘の動きは逆ですが、操作は従来の傘と同様に設計されています。
傘布を2枚重ね合わせ、内骨が濡れない設計に
「GAX Umbrella」は内と外で2枚布を重ね合わせてあり、開いた時と閉じた時で異なる表情が楽しめるのも特長です。「はじめは1枚布で開発を進めていましたが、閉じた時に布の濡れた部分が中心の棒に触れてしまい、何度も開け閉めを繰り返すと中心の棒が濡れてしまうことがわかったんです。そこで、内と外で2重になるように布を張り、外布が袋状に閉じる設計にすることで、濡れた部分が中心の棒に触れず、傘を再び開いた時にも濡れないようにしました」。
またシルエットにもこだわりが。「機能性の高さはもちろんですが、ファッションの一部としても楽しんでほしかったので、パゴダとよばれるインドの仏塔のような形をモチーフに、美しいフォルムにもこだわりました」。
↑ 男女問わず、おしゃれに持ち歩けるデザイン。
↑ コンパクトな「G-1S」は3色展開。少し大きめの「G-1」は、「レッド×ブラック」と「グレー×キトンブル」の2色展開です。※写真は「G-1S」
“逆に開閉する”という新しい発想から生まれた「GAX Umbrella」。後編では、すべて自社工房で行うという組付け作業や繊細な技術を要する縫製作業の現場に潜入。またユートレーディングコーポレーションのものづくりへの想いについても紹介します。
(写真:西澤智子 文:松本翔子)
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