釉薬の魔法が、植木鉢の新たな扉を開く
植物の青々とした美しさを引き立てる落ち着いた風合い。定番のフォルムでありながら、上品なつやをまとう現代的な佇まいの植木鉢を手がけるのは、愛知県碧南市の老舗植木鉢メーカー「井澤製陶」。植木鉢の名は「VINTAGE GLAZE(ヴィンテージ グレイズ)」。和訳すると「昔ながらの釉薬」。長年にわたり培われた素焼きの植木鉢づくりの技術と、三河瓦の産地である碧南市に伝わる三河釉薬が出合い誕生しました。
特徴は、室内に飾ることを想定したデザイン。そのカギをにぎるのが「三河釉薬」です。およそ300年の歴史を誇る「三河瓦」の色づけに用いられてきた地域の宝は、素地表面をガラス質で覆うことにより耐久性を高め、配合する金属を変えることで異なる色を描きだします。伝統的でありながらどこか新規性を感じさせる深みのある色合いは、現代の生活空間になじみ、また植木鉢と同素材の受け皿をつけることにより、植木鉢単体とはひと味違う雰囲気に。昔からある素朴な植木鉢の印象が「釉薬」と「受け皿」によりガラッと変わることに驚かされますね!
「伝統+α」に挑む、3代目のものづくりへの探求心
まさに現代的にブラッシュアップされた植木鉢といえる「VINTAGE GLAZE」。どのような経緯で誕生したのでしょうか? 井澤製陶の3代目であり代表取締役の井澤賢次さんは「同社の主力商品といえば、約80年製造してきた素焼きの植木鉢。現在の生産量は全国1・2位を争う規模で、取引先からは厚い信頼をいただいています。そうしたいわば安定した状況が長く続いてきた中で抱いた「植木鉢メーカーとしていままでにない製品をつくれないか」という思い。その思いが強くなった2014年、自信をもって井澤製陶の名を掲げられるブランドをつくることを目指し開発しました」と振り返ります。
「VINTAGE GLAZE」を開発するうえで、井澤さんには譲れないこだわりがひとつありました。それは「昔ながらの植木鉢のフォルム」を継承することです。「初代から変わらずにつくり続けてきた植木鉢は井澤製陶のシンボル。持ちやすく、重ねやすく、そして美しい。その『井澤製陶らしいカタチ』を生かすことで、他では真似のできない製品が生まれると信じていました」。先人の功績に敬意を払い、植木鉢の可能性を追求する3代目の決意があったからこそ、「VINTAGE GLAZE」は誕生したんですね。
植物のある暮らしを身近に。植木鉢メーカーにできることをこれからも
井澤製陶では、「VINTAGE GLAZE」に続く新たな製品が誕生しています。「2017年5月に、植木鉢を傾けて鑑賞できる『MARCO POT(マルコ ポット)』、ワイヤーで吊るした状態で室内に飾る植木鉢『UFO POT(ユーフォ― ポット)』を発売。当社が長年つくり続けてきた素焼きの植木鉢の可能性を突き詰め、従来の植木鉢と比較してきめの細かい急須のようななめらかな質感を目指しました。『VINTAGE GLAZE』と共通するのは、植物を身近に感じてもらえるデザイン。当社の製品を通じて植物に興味をもってもらえたら、これほどうれしいことはありませんね」と井澤さんは無邪気に笑います。
「11年前、家業である植木鉢づくりを学び始めた頃は『現在の仕事を守っていくこと』が3代目である私の使命だと思っていました。ただ、現状維持のままでは衰退していく可能性もあります。だからこそ次世代の植木鉢のスタンダードとなるような製品を、既成概念にとらわれない自由な気持ちで開発していきたい。その前向きな気持ちやものづくりの楽しさを呼び起こしてくれた『VINTAGE GLAZE』には本当に感謝しています」。井澤製陶にとって「VINTAGE GLAZE」とは、まさにメーカーとしての原点に立ち返らせてくれた存在なんですね!
後編では「VINTAGEGLAZE」の製造現場にお伺いして製造工程や職人の技を紹介します。5月9日(火)記事アップ予定。ぜひお楽しみに!
(撮影:西澤智子、文:西村友行)
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