インタビュー・モノ

今、新たな鼓動をもって展開している「東海のものづくり」にスポットを当てて、作り手の想いやこだわりに迫ります。ものづくりの宝庫ともいえる、東海エリア。有名どころから知られざる逸品まで、掘り起こします。

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春先になると、まるで黄色い絨毯を敷き詰めたかのように、一面に鮮やかな黄色い花を咲かせる菜の花。そのかわいらしい姿に、思わず足を止め見入ってしまう人も多いのでは。実は、菜の花は3種類に分かれており、胡麻和えやおひたしなどにして食べる食用、切り花として見て楽しむ観賞用、油を搾るための菜種を採取する搾油用があるのです! 愛知県西尾市で60年以上変わらぬ製法を守り、希少な純国産100%の菜種を使用した菜種油を作り続けている純粋菜種焙煎工房「ほうろく屋」。「先代が守り続けてきた『ほうろく菜種油』をもっと多くの方に届けたい――」。2代目・杉崎学さんに製法への強いこだわりと、ほうろく菜種油への熱い思いを伺いました。
 
昔ながらの伝統製法を、忠実に守り続ける
 
昭和24年、愛知県幡豆郡(現在の愛知県西尾市)で創業した「大嶽製油」から技術と想いを受け継ぎ13年前に新しい搾油工房として誕生したのが「ほうろく屋」。先代の大嶽喜八郎さんが妻のたけ子さんとともに二人三脚で営んでいた小さな搾油所でこだわりの菜種油を作っていました。「天日でしっかり干す、薪の火で焙煎する、湯洗いはせず丁寧に搾る。これが先代の大嶽喜八郎が守り続けてきた昔ながらの製法で、今もその製法は一切変えていません」。杉崎さんは、大嶽製油廃業に伴い引き継いだ、搾油に対するこだわりと、その象徴でもある焙煎用のほうろく釜を守ろうと、屋号を「ほうろく屋」と決めました。
 

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愛知県西尾市に工房を構える「ほうろく屋」。工房内は菜種油の香りが漂います。

 

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ほうろく屋2代目の杉崎学さん。まっすぐな目で語るその姿から、「ほうろく菜種油」への強い思いを感じます。

 
太陽の光をいっぱい浴びた良質な菜種だけを使用
 
「ほうろく菜種油」作りは、契約農家から送られてくる菜種を天日干しする作業から始まります。「十分に日光を当てることで菜種に旨みが入り、仕上がりの黄金色の輝きが全然違ってくるんです」と杉崎さん。天日に干すのは3日程。その後、杉崎さんの厳しい目で良質な菜種のみを厳選していきます。
 

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左が使用する良質なもの、右が取り除いたもの。取り除いたものも別で搾油し、食用以外の用途で使用します。

 
五感だけを頼りに、一粒一粒と向き合う
 
「焙煎は1番大事な工程です。使用するほうろく釜は先代の喜八郎が、深さ、大きさ、厚さすべて自分で設計して作った世界に一つしかないもの。そして、燃料にするのは必ず薪。薪で焙煎するとかまど全体が熱を持ち、ほうろく釜の中で熱の対流が起こり、種にまんべんなく火が入るんです。大体40分程じっくり時間をかけて焙煎していきます」。夏場は工房全体が暑くなり、熱中症になることも。それでも一切手を抜かず、ひたすらかまどに向かい丁寧な作業を続けます。「温度計も時計も使わず、焙煎しながら何度か種を潰してみる。潰れる感覚、中の実の色、油や水分の染み出し方。手で触って、目で見て、自分の五感だけを頼りに1番いい状態にもっていく。これは先代から直接指導を受けたからこそできる技術です」。
 

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大きな釜ですが、1度に焙煎するのは少しずつ。長いときは1日12時間焙煎の作業を続けることもあるそう。

 
生命力のある“生きた油”を作りたい
 
油はある一定の温度を超えると、質が悪くなってしまうのですが、「ほうろく菜種油」は、変質するかしないかの瀬戸際の状態で圧搾の工程へと移します。「変質してしまった油を搾るのに、水や薬品などで洗って不純物を取り除く『湯洗い』という方法もあるのですが、それによって栄養分も一緒に洗い流されてしまう。『ほうろく菜種油』は油自体がまだ“生きている”状態にし、自然の力だけで油の質を保ちたい。だから焙煎の工程が一番重要なんです」。
 

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圧搾機も先代が大切に使っていたもの。薄く刻まれた「昭和33年7月製造」という文字に歴史を感じます。

 
手間と愛情を注いだ分だけ、おいしく仕上がる
 
圧搾したあとは約2週間自然静置。ほこりなど細かい不純物を下へと沈め、上部のきれいな部分だけをすくってろ過し、最後に火入れの工程を経て、ようやく先代の技術を継承した「ほうろく菜種油 伝承」が完成します。「手を抜こうと思ったら、いくらでも抜けます。天日干しをしなくても、薪で焙煎しなくても、薬品を使って湯洗いしても油はできる。でも、天日干ししなければ油に旨みが入らないし、薪を使わなければサラサラな油にならない。手を抜けばそれだけの油にしかならないんです。だから僕は一切妥協しないし、これからも同じ方法で油を作り続けます」。
 

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完成した「ほうろく菜種油」は、見事に透き通り、美しい黄金色に輝いています。

 
酸化しにくく、何度でも繰り返し使えるのが特長
 
「ほうろく菜種油」は酸化しにくいのが特長。素揚げや天ぷらなど揚げ油として繰り返し使っても茶色くならず、使い続けることができます。「長年愛用してくれている人は、少ない油で揚げ物をして、終わったら濾して炒め物に使うなど、最後の一滴まで使い切ってくれます。昔、油は大変貴重で高価なものだったので大切に使い切ることが当たり前でしたが、今では1回使っただけで捨てる人もいる。油を大切に使うという習慣を、『ほうろく菜種油』を通して伝えていきたいですね」。
 

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伝統的な製法だけでなく、先代の菜種油に対する想いも受け継いだ杉崎さん。

 
伝統的な製法を受け継ぐだけでなく、今の時代に合った新しい「ほうろく菜種油」を通して油を大切に使う習慣を伝えるという使命を感じている杉崎さん。後編では、「ほうろく菜種油」の出合いから今に至るまでの道のり、杉崎さんが目指す未来について迫ります。
 
 
(写真:西澤智子、文:松本翔子)
 
後編はこちら
 
 

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