インタビュー・モノ

今、新たな鼓動をもって展開している「東海のものづくり」にスポットを当てて、作り手の想いやこだわりに迫ります。ものづくりの宝庫ともいえる、東海エリア。有名どころから知られざる逸品まで、掘り起こします。

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岐阜県岐阜市の北部、出屋敷にある「いぶき福祉会 第二いぶき」の朝は、近所を散歩することから始まります。
どんな花が咲いていたか。
どんな木が青々と枝葉をのばしていたか。
どんな人と出会い、
どんな風が吹き、どんな匂いがしたか。
五感で季節の移り変わりを感じ、「あんなところに変わった木の実がある!」と発見すれば、百々染の染料に使ってみることも。
 

↑ スタッフさんと一緒に、バケツを持って藍の畑へと向かう安藤さん(左)。
 

↑ 染料にするのに、どの葉っぱがいいかな? 真剣な眼差しで採取します。
 

 

↑ 3月に種まきをして、みんなで大事に育ててきた藍。7月に入ると採取し、夏の藍染めシーズンが始まります。
 

草木の採取から染料をつくり、染めるまですべて手作業

 
百々染は「いぶき福祉会 第二いぶき」のスタッフ14人と知的障がいのある利用者21人で制作。午後からは、染料にするため葉を細かくちぎったり、実を1粒1粒とったり、生地を染めたり。それぞれの作業のプロフェッショナルたちが真剣な眼差しで仕事に向き合います。
「ここでは1人ひとり障がいの度合いが違うから、手足や肩の動かし方、興味の矛先も違う。思いをしっかりと口にできる訳でもない。僕らスタッフが頑張らせたいことを頑張らせるのではなく、彼らが頑張ろうと思えるポイントを探り、作業の中に織り交ぜていったり、やりやすい方法を考えていくんです」とは、リーダー支援員の山本昇平さん。
 

↑ 山田さんは葉を細かくちぎるのが得意。待宵草(まつよいぐさ)を葉と茎にわけて、さらに細かくしていく作業。細かくするほど、生地がきれいな色に染まります。
 

 

↑ チューリップなどの花びらは丁寧に染めると優しい色合いに。ゆっくりと揺らしながら染めるのが得意な前川さんの担当部門です。
 

 

↑ 皆、それぞれの持ち場でやりがいと喜びを持って仕事をしています。
 

 

↑ 夏の風物詩、藍染めの日光浴。太陽の光と空気に触れることで発色させていき、シャワーで水洗い。
 

 

↑ 勢いよく容器をひっくり返し、流水で仕上げ。ダイナミックな作業が好きな吉田さんの持ち場です。スタッフさんの持つビニール袋にめがけ、無事に入ったらガッツポーズ。一緒に作業するのは安藤さん。
 

“好き”な作業を見つけることで、仕事に責任感が!

 
笑顔がトレードマークで仕事に意欲的な安藤さんですが、最初からそうだったわけではありません。「以前は団子をつくる専門だったのですが、手に麻痺があるため本来やりたかった団子の形成作業ができず、芋の皮むき担当だったんです。彼は仕事がつまらなくてしょうがなかった。そんなとき百々染で彼のできる染めの作業に出合い、初めて仕事が楽しいと思えるようになったんです。ある日彼が用事で仕事を休むことになったとき、一緒に働いている仲間に『ごめん、明日仕事頼むね』と口にしたことがあり…。彼がそんなセリフを口にしたのは初めて。“自分の仕事”だという責任感を持てているんだ…!と、スタッフ一同驚きと喜びで胸が熱くなりました。安藤さんだけでなく、他のメンバーも皆、こういったエピソードを挙げるとキリがありません」。
 

↑ 洗い終わった藍染めを丁寧に干す安藤さん。
 
作業場では、イスに座ってゆっくりと染めの作業をする人もいれば、地べたに座ってダイナミックに染める人もいる。色が染まっていくことに喜びを感じる人もいれば、水のキラキラが見たくて高い位置まで生地を持ち上げ、水の動きを楽しむ人もいる。1人ひとり得意なことや個性が違うからこそ生まれる、ひとつとして同じ色のない百々染のストール。まるでその色彩に、利用者の個性が投影されているよう! 「いぶき福祉会 第二いぶき」には、そののびやかな感性を存分に広げられる環境と、温かな雰囲気にあふれています。
2015年には「清流の国 森の恵み大賞 優秀賞」を受賞。利用者さんも一緒に授賞式に参加し、誇らしげな顔を表情の隙間から覗かせたそう。
 

↑ 授賞式での利用者さんの顔を見てうれしい気持ちになったと話す、ブランドマネージャーの初瀬尾久美子さん。
 
「百々染をたくさんの人に知ってもらうことで、素敵なストールの背景にある彼らの存在を身近に感じてもらえたらうれしいですね。そして障がいのある彼らにも、社会で必要とされて、認められているんだと伝えていきたい。誇らしく生きていってもらいたいと思っています」と初瀬尾さん。
混じりけのない自然と、季節と、つくり手たちの日常とが混じり合い、唯一無二の草木染めストール「百々染」が生まれています。
 
(写真:西澤智子 文:広瀬良子)
 
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